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立ちはだかる壁は、壊すためにある。初の全国8強を経験した岡山学芸館は新たな歴史を刻み続ける

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初の全国8強は岡山学芸館高にとって大きな経験に(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.19 インターハイ準々決勝 岡山学芸館高 1-2 星稜高 三国総合運動公園陸上競技場]

 タイムアップの瞬間。激しい雨が降りしきるピッチに1人、また1人と倒れ込む。その先に広がっていたであろう景色も、確かに視界には捉えていた。それだけに届かなかったこのわずかな差を埋めるための日々が、また岡山に帰った彼らを待ち受けている。

「もう本当に一戦一戦戦った結果がベスト8に繋がったと思っていますので、今日の試合も選手たちには『今までやってきたことをすべて出し切るぞ』ということを伝えて臨ませましたし、最後の最後まで諦めずに戦っている姿勢というのは、本当に逞しくなったなと思いました」(高原良明監督)。

 同校初の全国8強を達成し、新たな歴史の扉を開いてみせた岡山学芸館高(岡山)。この4試合の経験は、さらに前へと進むための大きな礎になるはずだ。

 初戦の比叡山高(滋賀)戦と3回戦の飯塚高(福岡)戦ではともにPK戦を制し、2回戦では優勝候補にも挙げられていた矢板中央高(栃木)に1-0で競り勝つなど、粘り強く勝ち上がってきた。「1試合目が全然ダメで、PK戦で何とか運良く勝たせてもらったという形で、2戦目、3戦目に関しては、矢板中央さんのフィジカルの強さにも耐えながら勝ちましたし、飯塚さんはボールを動かしながらというチームだったので、お互いに面白い攻防ができました」。高原監督はこう3試合を総括する、

 チームの一体感は、試合を見ていればすぐにわかる。「全国大会ということで、全員の気が引き締まっているというのもあると思うんですけど、4試合通して『全員でやる』という気持ちを作ることはできたので、岡山に帰ってもそういうところを忘れずにやりたいです」とはキャプテンを任されているMF山岡亮太(3年)。『全員でやる』姿勢は、準々決勝のピッチでも随所で発揮されていた。

 星稜高(石川)にオウンゴールで先制を許したこの日も、1点を追い掛ける後半に高原監督が思い切った采配を振るう。一気の“3枚代え”で最終ラインを4バックから3バックにシフトし、サイドアタックと前線の厚みにアクセントを加えると、迷いのない攻撃が繰り広げられるように。特に終盤には一方的に押し込む時間を作ることにも成功している。

 ゆえに課題もハッキリした。「今日も前半に失点してしまって、追いかける形になったんですけど、しっかり前の選手が決め切るところを決め切れていたら勝てる試合だったと思うので、インターハイ4試合を通して守備力は付いてきたと思うんですけど、最後のフィニッシュのところを正確にできるようにやらないと、と思いました」(山岡)。

 形は作れた。主導権を握る時間もあった。あとは、最後の一刺し。一見どのチームも抱える課題のように見えるかもしれないが、この全国8強というステージで感じたそれは、リアリティを持って彼らの感覚に刻まれるはずだ。

「これまで全国大会に出場した選手が1人もいなくて、その中でどれぐらいできるかというのがわからなかったんですけど、全員で力を合わせてやればここまでは来られたので、これからはベスト8で止まらないように、しっかり上を目指してもっと高い意識でやれたらなと思います」とチームのことに言及した山岡は、個人としての手応えを問われると、こう言葉を紡いでいる。

「今日のゴールもアレは触るだけで、もっと他に決められるところもありましたし、結局負けてしまったので、10番を付けているのに1点しか決められず、不甲斐ない結果で終わりました。守備の人はゼロで抑えられたりして良かったと思うんですけど、やっぱり僕は結果を出すことができなかったので、悔しい結果だったと感じています」。

「チームとしてはベスト8以上という目標だったので、そこをクリアできたことはいいんですけど、個の力が他のチームと比べれば劣っている部分があると思うので、個の部分を磨きつつ、チームとしてもう一段階成長できたらなと思います」。まったく納得していないような表情が印象深い。このキャプテンがいる限り、まだまだチームはさらに上の景色を目指せるはずだ。

「やっぱりまだまだ小粒な集団ですし、フィジカル的な要素も全国に来れば、ロングスローを何回も放ってくるチームもありますし、空中戦の重要さであったり、そういうところも本当に大切だとは思うんです。ただ、ウチとしては、しっかりとボールを大事にしながら前進していくというスタイルを、これからもずっと続けていきたいと思います」(高原監督)

 立ちはだかる壁は、壊すためにある。全国16強を超えた先に、また現れた強固な壁の前へと辿り着くため、岡山学芸館が重ねていくここからの歴史には、大きな希望の光が差し込み始めている。

(取材・文 土屋雅史)
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