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常に最高のパフォーマンスを計算できる男。青森山田MF宇野禅斗はミスすらも自身の力に変える

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青森山田高中盤のキーマン、MF宇野禅斗がチーム4点目をゲット!(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.19 インターハイ準々決勝 東山高 2-5 青森山田高 三国総合運動公園陸上競技場]

 その圧倒的な安定感を誇るプレー水準ゆえに、たった1回の失点に絡むようなミスで、周囲がざわつくだけの領域の選手である。だが、そんな珍しいミスですら、結果として自身を高めるための材料に変えてしまうのだろう。

「あのプレーは自分の軽率な考えだったり、それがプレーに出てしまったという自分の未熟さだと思っているので、しっかり受け止めて、あと最大で2試合はあるので、次の準決勝でああいうプレーをしないということも含めて、チームを統率する選手という自覚を持って、プレーしないといけないかなと思います」。高体連を代表するような選手が居並ぶ青森山田高(青森)においても、常に最高のパフォーマンスを計算できる男。MF宇野禅斗(3年=青森山田中出身)は、そういう選手である。

 今大会2点目となった後半3分のゴールには、様々な思考が詰まっている。FW名須川真光(3年)にボールが入った時には、既にチームの中で最前線の位置に3列目から走り込んでいた。「あの時間帯は(松木)玖生がこの間の試合でマンツーマンで付かれていて、相当疲労もあった中で、自分が『今は出ていけるかな』という判断をしました」。

 名須川が左へボールを流したのを見て、相手のディフェンスラインと駆け引きをしながら、MF田澤夢積(3年)からのボールを呼び込むと、身体を開きながら右足のインサイドでゴール右スミへ綺麗に流し込む。その一連はまるでストライカーのそれ。能力の高さを見せ付ける1点だった。

 そして、“事件”は終盤の31分に起こる。ハーフウェーライン付近で宇野が後ろを向いた瞬間、相手に突っかけられてボールロスト。そのままカウンターを食らうと、ディフェンス陣の対応も後手に回り、シュートを決められる。これが青森山田は4試合目にして今大会初失点。直後に交代を命じられた宇野は、そのままベンチの前で黒田剛監督としばらく話し込む姿が見られた、

「あの失点をした時は、前向きじゃなくて、後ろ向きの時にボールを失って、その後のディフェンスの対応もよくなかったんだけど、『全然無理する必要ないよな』って。5点のリードがあったからああいう不用意な持ち方をしたんだろうけど、もし受ける選手がいなかったらキーパーまで返すということをやっても良かったし、なんかちょっとチャレンジしたかったのか、そういうところがやっぱりアイツの甘いところかなと」(黒田監督)。

「選手がだんだん交代していった中で、ラスト15分ぐらいの時間をどのように運んでいくかという流れの中で、『あそこのワンプレーはできるだけ簡単なプレーをするべきだった』と。『ゴール前に2,3枚が飛び込んでしまった』というところは話しました。自分の状態が悪かった中で、簡単に相手を引っ繰り返すという判断をするべきだったんですけど、あの時間帯に押し込まれる時間が長かったので、できるだけ時間を作ろうとしてしまった自分の判断が悪かった部分で、ゴール前で飛び込んでしまったというのはチームとしての反省点だと思います」(宇野)。明確な課題はすぐに抽出し、二度と繰り返させないし、二度と繰り返さない。今の青森山田が、青森山田たる所以である。

 静岡学園高(静岡)と対峙する準決勝は、今大会最注目カードと言って差し支えないだろう。3月の時之栖チャレンジカップで対戦した時には、撃ち合いの末に3-4で敗れたが、その結果が今回の対戦に与える影響は大きくなさそうだ。

「3月の時は負けてしまったんですけど、あの時は自分たちも未熟でしたし、まだチームが完成していない部分もありました。その中でもやっぱり静学さんは毎年のようにボールを動かして、個で打開することをやっていると思うので、それがある程度できあがった中で、個で外されたり、パスで打開されたりということが多かったので、僕たちもまだ完成はしていないんですけど、チームとしてより守備を強固にできるようになっているので、それを実践できるかというところだと思います」。

「この大会はすべての試合を楽しみにしていましたし、去年1年間は大会が開催されなかったという悔しい想いを全員がしているので、優勝を目指すということを口にはしているんですけど、1試合1試合やることを全員で確認しながら、楽しむべきところは楽しんで、やるべきことをやって、勝ちに進んでいければいいなと思います」。

 日本一を義務付けられていると言っても過言ではない青森山田。その中でも代えの利かないスペシャルな黒子役、宇野の存在は絶対に欠かすことはできない。

(取材・文 土屋雅史)
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