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張り巡らせる守備網は突破困難。青森山田MF宇野禅斗は“みそぎのノーミス”で快勝に貢献

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青森山田高が誇る究極のバランサー、MF宇野禅斗(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.21 インターハイ準決勝 青森山田高 4-0 静岡学園高 日東シンコースタジアム丸岡サッカー場]

 彼らと対峙するには、まずハイプレスを掛け続ける2トップのファーストラインを越えるのが一苦労。そこを回避しても、サイドハーフの強烈なプレスバックが襲い掛かる。そして、仮に運よく彼らをすり抜けたところで、待ち受けている6番が大半のボールは回収してしまう。

「前回の試合で自分のミスで失点してしまった中で、その悪い雰囲気をこの試合に持ち込まないで、ディフェンスラインができるだけ高い位置で凄く良い守備をしてくれたので、このシュートゼロに繋がったかなと思います」。静岡学園高(静岡)でさえもシュートゼロに抑えてしまった青森山田高(青森)。そのチームの“心臓部”を任されたMF宇野禅斗(3年=青森山田中出身)が張り巡らせる守備網を潜り抜けるのは、困難極まりない。

 決勝進出の懸かった大一番。宇野はチームメイトとともに、相手の警戒すべきポイントを共有する。「誰もが思うように、個の技術だったり、チームとしてのパスの技術だったり、それで崩してくるというところを要注意としていた中で、9番に入れてきて、スピードアップされるのを警戒していました」。前線で基点になるFW持山匡佑(3年)へのパスコースを消しながら、目の前に来たボールは自分ですべて絡め取る。

「前線からできるだけハイプレスを掛けて、後ろにズルズル行かないように、前の方でどれだけ戦えるかと考えていた中で、ディフェンスラインの4バックがビビらずにラインを上げてくれて、2トップを含めて(松木)玖生が前線からハイプレスを掛けてくれたというのが、相手にとっては嫌だったのかなと思います」。前線から最終ラインまでをコンパクトに保ち、相手に自由を謳歌できるスペースを与えない。ここの舵取りを任されているのが宇野。この“コンパクト”さで中央からの脅威は消し去った。

 次はサイドでの対応。右のMF川谷凪(3年)、左のMF古川陽介(3年)。ここの封じ方にも当然工夫を凝らしていた。「相手のサイドハーフが強力という情報はあったので、『そこを自分たちのサイドバックがどれだけ止められるか』というのは話していたんですけど。その中でも両サイドハーフの藤森(颯太)と(田澤)夢積はできるだけプレスバックして、2対1を作ってくれましたし、そのあとも攻撃へトップスピードで上がっていってくれたので、そこは凄く助かりました」。

 ここも宇野が全体を見ながら、サイドと中央のバランスの最適解を導き出す。結果、中央もサイドも手詰まりになった静岡学園は為す術なし。「テクニックを出して戦うというのが静学のスタイルなんですけど、それが全く出せなかったと思います」と相手のキャプテン、GK生嶋健太郎(3年)に言わせるほどの完璧な守備で無失点のみならず、目標の“シュートゼロ”を達成してみせた。

 準々決勝の東山高(京都)戦で、宇野は珍しく失点に直結するミスを犯した。試合後。浮かない顔でこう語っている。「あのプレーは自分の軽率な考えだったり、それがプレーに出てしまったという自分の未熟さだと思っているので、しっかり受け止めて、あと最大で2試合はあるので、次の準決勝でああいうプレーをしないということも含めて、チームを統率する選手という自覚を持って、プレーしないといけないかなと思います」。

 この日は極力シンプルにボールを動かしつつ、チームを統率。攻守にパーフェクトな出来を披露し、実質ノーミスと言っていいパフォーマンスを70分間完遂。黒田剛監督も「宇野が代わってしまうと、全体のバランスも、守備も攻撃もどっちもレベルが下がってしまうので」と絶対的な信頼を口にしており、結果的に準々決勝のミスを、自身の自覚を一層促すための格好の材料にしてしまうのだから、恐れ入る。

 クールな印象の強い宇野だが、時折見せる笑顔はやはり高校生のそれ。日本一を勝ち獲った先に、満面の笑みで仲間と喜ぶ姿は、きっと格好のシャッターチャンスになるはずだ。

(取材・文 土屋雅史)
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