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[MOM3572]青森山田DF丸山大和(3年)_人生初の全国で日本一を決める劇的決勝弾。引き寄せた主役の座は偶然ではない

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青森山田高の劇的な決勝ゴールはDF丸山大和(5番)!(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[8.22 インターハイ決勝 米子北高 1-2(延長) 青森山田高 テクノポート福井総合公園スタジアム]

 トップチームに関わることのできない、自分の実力のなさが歯がゆかった。ようやくレギュラーを掴んでも、簡単に周囲の信頼を勝ち獲れたわけではない。でも、諦めなかった。このチームで試合に出ることを。このチームで大きな結果を成し遂げることを。

「自分はサッカーをやってきて、全国大会を経験したことがなくて、この高校3年生になって初めての全国大会で優勝できて嬉しいなと思いますし、苦しい2年間を乗り越えてきたからこそ、今があると思います」。

 努力を重ね、青森山田高(青森)不動のセンターバックの座を掴み取った男。DF丸山大和(3年=クリアージュFCジュニアユース出身)が全国大会の決勝という舞台で2ゴールを叩き出し、誰もが認める日本一の立役者となった。

 新チームがスタートした時点で、その立ち位置はまったく保証されていなかった。最大の目標はスタメンを獲ること。高校選手権で準優勝した前年のチームから、4バックのレギュラーが全員抜けたこともあって、まずはそこに食い込むことが最優先事項だった。

 何とか手に入れたスタメンの座だったが、何しろ丸山に与えられたセンターバックと5番の“前任者”は藤原優大(現・SC相模原)。比較されないはずがない。だが、1試合1試合、ワンプレーワンプレーを丁寧に積み上げていくことで、少しずつ周囲の信頼を勝ち獲っていく。

 5月。高円宮杯プレミアリーグEASTの首位攻防戦。清水エスパルスユース戦で、難敵を3-1と下した試合後。チームを率いる黒田剛監督は、丸山についてこう言及している。「丸山もだいぶ成長してくれましたね。まず人間的にパワーがありますし、しかも体を鍛えて相手のトップを封じるという所に関して言えば、この強さにみんな屈してくるので、そこは凄く成長したところかなと思います」。

 2か月前は新チーム最大の懸念材料と名指しされ、どことなく自信なさそうにプレーしていた姿はもうどこにもない。青森山田のセンターバックとして、青森山田の5番として、ピッチの上で確かな自信とプライドを纏った丸山の表情は、見違えるように精悍なものになっていた。

 念願の日本一が懸かった、米子北高(鳥取)との決勝。開始10分でPKを沈められて先制を許すが、丸山はその失点に責任を感じていたという。「クリアを大きく蹴ろうと思ったら、それがクリアミスになって、そこからスローインになって、PKを取られたので、絶対に自分が点を決めて勝つと思っていました」。もちろん最優先は追加点を与えないこと。その上で、ヒーローになるチャンスを虎視眈々と狙っていた。

 攻めても攻めても1点が奪えず、敗色濃厚となっていた後半34分。ロングスローが続いていた流れの中で、神経を研ぎ澄ませていた。短く始まった青森山田のスローイン。左サイドからMF小原由敬(3年)が上げたクロスに、磨き続けてきたヘディングで丸山が合わせたボールは、ゴールネットへ吸い込まれる。1-1。同点。試合は終わらない。

 延長後半10+1分。正真正銘のラストプレー。MF藤森颯太(3年)が左のコーナースポットに立つ。「今日は失点してしまいましたけど、無失点でありながら、得点も獲れるのが自分の目標としているセンターバックなので」。セルヒオ・ラモスとフィルヒル・ファン・ダイクに憧れる5番を背負ったセンターバックが、ニアサイドに飛び込む。頭で叩いたボールがゴールネットを揺らすと、そのままタイムアップのホイッスルがスタジアムにこだまする。

「本当に嬉しかったですね。チーム全員で獲った優勝なので、本当に嬉しかったです。あの時間帯で、気持ちで、自分の得意な形でゴールが獲れて良かったです」。思わずユニフォームを脱いで喜びに浸る丸山へ、チームメイトたちが殺到する。苦しい2年間を過ごしてきた男は、初めて出場した全国大会の決勝で、誰もが羨むヒーローの座をさらっていった。

 プレミアリーグで連勝を続けていた頃。チームのキャプテンを務めるMF松木玖生(3年)に、丸山の成長について尋ねたことがある。「春先のサニックス杯から比べたらものすごく成長したかなと思います。でも、正直まだまだですね」。きっと松木はわかっていたのだろう。丸山が重ねてきた努力を考えれば、まだまだ成長する余地が十分に残されていることを。だが、厳しいキャプテンも今日ばかりは褒めてくれるのではないだろうか。

 青森山田が誇るレギュラー11人の中で、あるいは一番下から這い上がってきた男。気まぐれなサッカーの神様が、この日の主役に丸山を指名したのも、きっと偶然ではない。

(取材・文 土屋雅史)
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