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総体用に作成された「赤」が舞う。白熱の藤枝ダービーを制した藤枝明誠が初の決勝進出!:静岡

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後半25分、藤枝明誠高はMF香川太朗が右足シュートを叩き込んで先制点

[5.29 インターハイ静岡県予選準決勝 藤枝東高 2-2(PK2-4)藤枝明誠高 愛鷹広域公園多目的競技場]

 藤枝明誠がインターハイ初出場へ王手! 令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技静岡県予選準決勝が29日に行われ、第2試合は藤枝東高藤枝明誠高による藤枝ダービーに。2-2で突入したPK戦の末、藤枝明誠が4-2で勝ち、初の決勝進出を決めた。藤枝明誠は6月5日の決勝で磐田東高と戦う。

 残り4分で2点差を追いつかれて迎えたPK戦。先攻の藤枝明誠は1人目のCB山本蒼太主将(3年)が決めると、GK柴田真之介(3年)が藤枝東1人目を止めて優位に立つ。藤枝東は直後にGK石坂地央(3年)が止め返したが、2人目のシュートが枠左へ。藤枝明誠はその後、重圧の中でMF香川太朗(3年)、左SB阿部隼士(2年)が決め、最後はFW遠野翔一(2年)が左足シュートでゴールを破る。

 この瞬間、赤いユニフォームをまとった藤枝明誠イレブンが一斉に遠野目掛けて走り出す。そして、殊勲の柴田と抱擁するなど喜びを爆発させた。松本安司監督が就任した15年に作成したというインターハイ用のユニフォーム。「総体のチャンピオンを獲るためにあのユニフォームを作りました。当時の父母の方たちの協力で。燃える色じゃないですか。だから赤」。マンチェスター・ユナイテッド、そして指揮官がプレーした浦和を由来とする「赤」をまとった選手たちが初のインターハイ全国大会出場へ王手をかけた。

 ともにプリンスリーグ東海に所属する2校による藤枝ダービー。同首位の藤枝明誠は4-2-3-1システムでGKが柴田、右SB松本有真(3年)、CB山本蒼、CB内藤仁(3年)、左SB阿部、ダブルボランチが丸木音和(3年)と田原遥(3年)、トップ下が香川、右SH 山本朱羽(3年)、左SH林、最前線に遠野が入った。

 一方、プリンスリーグ東海で3位につける藤枝東は4-1-4-1システムでGK石坂地央(3年)、右SBがU-16代表候補歴を持つ野田隼太郎(2年)、ゲーム主将のCB吉川慶二郎(3年)、CB寺田史朗(3年)、左SB出水志耀(3年)、中盤はアンカーの馬場悠生(3年)と渡辺皐(2年)、泉新之助(2年)がトライアングルを形成し、右SH砂押解世(3年)、左SH中島悠翔(3年)、1トップを井藤璃人(3年)が務めた。

「前半は勇気がなかったです」(松本監督)という藤枝明誠に対し、藤枝東がボールを支配。渡辺、泉、馬場の3人がボールに係る形でスピーディーなパスワークを展開した。質の高い1タッチパスを交えながら左右へボールが動く藤枝東に対し、藤枝明誠は指揮官のいう「距離間と距離感」が遠くダイレクトのパスが通らない。時折テンポ良くボールを動かすシーンもあったが、前半は立ち位置の上手い藤枝東への守備もハマらず、攻守ともになかなか改善することができなかった。

 優勢に試合を進める藤枝東は前半15分、左サイドから中島が切れ込み、折り返しを受けた渡辺が決定的な右足シュート。26分には、ショートコンビネーションから前を向いた井藤の右足ミドルがクロスバーを叩いた。

 藤枝明誠も右クロスを林が右足ボレーで合わせ、また田原がロングシュートを狙う。連係から遠野が抜け出すようなシーンもあったが、スコアを動かすまでには至らない。その藤枝明誠は、後半6分から俊足MF柴田一杏(3年)を右サイドへ投入。直後の7分にはその柴田が右サイドを抜け出し、クロスを遠野が頭で合わせるが枠上へ外れた。

 一方の藤枝東も後半立ち上がりに井藤が切り返しからの左足シュートを放ち、ショートコーナーから渡辺が左足を振り抜くなど先制点を狙うが、均衡は崩れない。選手層厚い藤枝東はこの後、15分にテクニカルなMF増川暖(3年)、18分にU-16静岡県選抜の10番FW良知英祥(2年)、23分は大型FW植野悠斗(2年)を加えるが、25分に藤枝明誠が先制点を奪う。

 左サイドでインターセプトした阿部が一気に前進。最後はPAへ潜り込んだ香川が「いつも自主練をあの形でやっていたので良かった」という右足シュートを叩き込んだ。藤枝明誠はさらに27分、CKのクリアを回収すると、香川が右サイドへはたき、丸木が中央へラストパス。これを右中間で受けた林がニア上へ豪快な一撃を突き刺し、2-0とした。

 決定的かと思われた2点差。だが、藤枝東は諦めない。35分、CKのクリアを自陣左サイドで拾ったGK柴田がPA方向へ対角のフィード。藤枝明誠DFがクリアしきれずに流れたボールを出水が執念のヘディングシュートで押し込み、1点差とした。

 藤枝明誠の松本監督は「私の判断が遅くて失点したのかなと」。失点の2分後に坂本樹紀(3年)を右SBに加え、本来CBの松本をボランチに配置するが、藤枝東が2点目ももぎ取る。40+1分、直前に投入された左SB大場翔太(3年)が左サイドから超ロングスロー。これを植野が頭でゴールへ沈め、2-2に追いついた。

 白熱の展開となった藤枝ダービーはPK戦で決着。追いつかれながらも気持ちを落とさずに勝利した藤枝明誠のGK柴田は、「気持ちは凄くありましたし、藤枝ダービーということなので。プレーはいつも通りを意識して、心は熱く」戦っていたという。熱い心でインターハイ出場13回、全国優勝2回の名門を突破した。

 藤枝明誠は09年度の全国高校選手権に初出場し、8強。16、20年度にも選手権へ出場しているが、夏の全国大会には縁がなかった。香川は今年の藤枝明誠について、「はじめは自分たちも弱いと思っていたんですけれども、自分たちのチームは多分マジメなので、ここまで来れていると思います」と説明。また、山本蒼も「プリンスも周りからは『戦えないんじゃないか』という声が多かった。でも、粘り強い守備や1試合1試合全力でやっているのが勝っている要因だと思います」と周囲の評価を覆す結果を出せている理由を口にした。

 松本監督も「辛抱強い」と評するマジメな軍団が、夏の全国まであと1勝。選手たちも気合が入るという「赤」をまとって歴史を変えるか。山本蒼は「まだインターハイ自体全国に行ったことがない。(松本監督は)全国に行くために赤いユニフォームを作ったと言っていたので、願いを叶えてあげたい」。追いつかれながらも勝利した準決勝の経験も良い財産に。決勝ではより見る・考えること、そして自分たちの強みである粘り強さを表現しながら戦い、インターハイ初出場を果たす。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2022

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