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自分たちの「端から端までの場所」の的確な把握。関東一は周到な準備と流れに身を任せる柔軟さで4発快勝!

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関東一高は圧巻の4ゴールで準決勝へと勝ち上がる

[6.11 インターハイ東京都予選準々決勝 国士舘高 0-4 関東一高]

『勝って兜の緒を締めよ』なんて、言われなくてもとっくにわかっている。選手権で全国ベスト4まで躍進したことも、プリンスリーグでなかなか勝利が付いてこなかったことも、この日の試合に4-0で勝ったことも、自分たちですべてをコントロールできるわけがない。だからこそ必要なのは、現状に向き合うための準備と勇気だ。

「次も勝つか負けるかなんてわからないですし、また4-0みたいなゲームになるかもしれないですけど、そういう予測ができないからこそ、前もって準備することが必要なんです。もう僕は切り替えていますし、次のゲームに勝てば全国なので、絶対に次も勝ちを拾いたいと思います」(関東一・矢端虎聖)。

 周到な準備を施した上で、流れに身を任せる柔軟さが呼び込んだ快勝劇。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技東京予選準々決勝が11日に行われ、昨年度の選手権で全国4強を経験した関東一高国士舘高相手にFW本間凜(3年)のハットトリックを含む4得点を叩き込み、来週の準決勝へと駒を進めている。

 勢いよくゲームに入ったのは国士舘。MF宮本秀(3年)の高さと強さをターゲットに、右のFWワフダーン康音(2年)、左のMF大関流生(1年)のスピードも生かしつつ、セットプレーを続けて獲得。相手ゴール前にパワーを持って迫っていく。

 だが、関東一にとって序盤の劣勢は想定内。「自分たちはそういうことを我慢するのが得意なチームなので、あまり今日は苦じゃなかったです」とキャプテンのDF矢端虎聖(3年)が話せば、「最初は硬くなってコーナーとかロングスローで押し込まれましたけど、それはスタメン全員がわかっていました」とは本間。「相手の認めるところは認めようと割り切っていた」と小野貴裕監督も言及するなど、流れを受け入れる準備はできていた。

 すると、関東一のエースが魅せる。前半24分。MF西口昇吾(3年)のパスを受けたMF鹿岡翔和(3年)は、浮き球を相手ディフェンスラインの裏へ。走った本間が「1回胸トラップも考えたんですけど、足元に入ってきたので『振ってみようかな』と」ダイレクトボレーで叩いたボールは、ゴールネットをきっちり揺らす。10番の華麗な一撃。スコアが動く。

 36分。再びエースが吠える。今度は右サイドで西口からパスを引き出した本間は、「ペナに入ったか入っていないぐらいだったんですけど、インパクトを重視して膝下振りぐらいでバンッと蹴ったので、練習通りでした」と右足一閃。軌道は左スミのゴールネットへ、文字通り突き刺さる。その衝撃的なゴラッソには、小野監督も「僕らも『えっ?』って感じだったので、あれはちょっとビックリしましたね」と言及。2-0。関東一がリードを広げて、前半の40分間は終了した。

 ビハインドを追い掛ける国士舘は、後半開始から10番を背負う切り札のMF原田悠史(2年)を投入し、次々と交代カードを使いながら強める攻勢。8分にはDF一瀬雅斗(3年)の右ロングスローにDF手塚令恩(3年)が競り勝ち、MF島田龍(1年)のヘディングはわずかに枠の右へ。16分にもロングスローの流れから、一瀬の左クロスを手塚が頭で合わせるもボールは枠の上へ。得点までは至らない。

 したたかな追加点は、後半のファーストチャンスで。18分。左サイドで時間を作った本間は、中央を確認すると丁寧なラストパス。ここに走り込んできた西口が、ダイレクトで正確なシュートをゴールへと送り届ける。3-0。関東一のリードは3点に変わった。

 30分。三たびエースが輝く。左サイドから鹿岡が中へ短いパスを付けると、「ワンツーで鹿岡にシュートを打ってもらおうかなと思ったんですけど、自分に入った時にあまり相手が来なかったので、反転してシュートを打てるかなという感覚を背中で感じました」という本間が鋭いターンからそのまま放ったシュートは、あっさりとゴールを陥れる。

「いつもより頼もしかったです。思いがけないような2点目もあったので、今日はスーパーでしたね」と矢端がハットトリックを達成した本間を称えれば、指揮官も「今日はディフェンス陣が集中高くクレバーにやってくれて、キーパーも含めて感動に値するような集中力で、怯まずにやってくれたのが良かったと思います」とDF池田歩柊(3年)に矢端、DF小谷旺嗣(3年)、GK遠田凌(3年)という3年生を中心にした守備陣を絶賛したように、攻守が噛み合う格好で4-0と完封勝利を達成した関東一が、全国切符獲得まであと1勝に迫る結果となった。

「自分でも本当にビックリしています。僕たちはこの1週間は国士舘という相手が決まった時に、『1-0とか2-1で勝ちを拾うんだ』という話をしていて、それでも今日4点が取れたということは、本当にインターハイは何が起こるかわからないですね」と語ったのは矢端。ここまでの快勝はある意味で想定外だったが、それでもある意味では想定内だったとも言える。

 小野監督の言葉が興味深い。「チームとしてはちゃんと機能したというか、役割の大筋をまっとうしたというか、まだそれぞれの役割は精査すべきだと思いますし、もっとやらなきゃいけないんですけど、彼らがいる場所のオーガナイズというか、“端から端までの場所”に関してはある程度『このへんな』というのはわかってきたなと。『このへんな』の中では、別にどういう選手がいてもいいと思うんですけど、『このへんな』という大枠がないと、自分たちも我々も許してあげられるところがわからなくなっちゃうので、それが今週の練習で少し見えてきていたんですよね」。

 選手もコーチングスタッフも、日々のトレーニングの中でさまざまなものを積み上げていくわけだが、『このへんな』と表現されるようなチームの“端から端までの場所”を、ハッキリと確立する作業は決して簡単なものではない。ましてや関東一はこれがこの大会の初戦であり、直近のプリンスリーグの試合からも1か月近い間隔が空いている。しかもそのゲームは負けており、決して手応えを掴むような状況には至っていなかったという。

「リーグ戦で負けたあとに、『次はインターハイがあるぞ』とは切り替えてできていましたけど、正直ずっと負けが続いていて、『これが最後のチャンスだな』という想いでこの1か月間はずっとやってきたので、先のことなんて考えずに、この試合に勝つことだけを考えてきました」とは矢端。先を見るのではなく、次の試合のことだけを意識することで、現状を過不足なく捉え、できることを淡々とこなしていく。それが今の自分たちが立っている“端から端までの場所”を把握することに繋がり、その中での最大値を出すための努力に繋がったのだろう。

 本間は「正直プリンスの結果もあまり付いてこなくて、『先輩がいないとダメなのかな』ってメッチャ悩みましたけど、この夏で全国に行けたら、まずは先輩たちと同じラインに行けるなという感覚です。だから、別に自分たちがどう見られようがカンイチのスタイルで次も勝って、また全国で結果を残して、先輩たちに恩返しができればいいなと思います」という言葉を残している。

 去年は去年。今年は今年。自分たちの“入れ物”の大きさと容量が見え始めてきた2022年の関東一も、間違いなく面白い。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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