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躍進後の大事な戦い。高川学園が粘り強さやセットプレーの強さ発揮し、インハイへ

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高川学園高が山口県予選2連覇を達成。後方には“トルメンタ”の横断幕も

[6.12 インターハイ山口県予選決勝 高川学園高 2-1 宇部鴻城高]

 12日、令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技山口県予選決勝が行われ、高川学園高宇部鴻城高に2-1で勝利。2大会連続24回目の全国大会出場を決めた。

 昨冬の全国高校選手権で14年ぶりの準決勝進出、3位に入っている高川学園はともに先発として大舞台を経験しているCB岡楓太(3年)とMF梅田彪翔(3年)を残し、2年生ストライカー、FW山本吟侍が注目度上昇中。先発はGKが福島真斗(3年)、右SB高良優貴(3年)、CBが岡と中島颯太(3年)、左SBが西村大和(1年)、中盤は藤井蒼斗(2年)と実森大翔(3年)のダブルボランチ、右SH大下隼鋭(2年)、左SH梅田、そして山本吟と伊藤氷麗(3年)が2トップを組んだ。

 一方、宇部鴻城は神村学園高(鹿児島)のコーチから転身した湊卓也監督就任6年目で初の決勝進出。先発はGKが松本翔(1年)、主将の岡村譲二朗(3年)を中心に、右が吉田太海(3年)、左が山本結斗(3年)の3バック、川上桜太郎(3年)と濱月幸樹(3年)のダブルボランチ、右WB神原悠真(3年)、左WB山中穂里(3年)、シャドーの位置に竹杉勇真(3年)と黒羽大雅(3年)、最前線に前田周宥(3年)が構えた。

 準決勝でライバル・西京高から4ゴールを奪っている高川学園が立ち上がりから勢いを持ってプッシュ。1分、右サイドでボールを収めた山本吟のスルーパスから伊藤がクロスを上げ、ファーの梅田が頭で合わせる。その後も、右サイドで切れのある動きを見せる大下のクロスなどでゴール前のシーンを作り出した。

 だが、宇部鴻城は怯まない。湊監督から「(技術力や判断力を大事に練習から)しっかりやってきたから。昨日(準決勝)もその前(準々決勝)も雨で長いボールが増えたけど、きょうの(良好な)コンディションならば行けるやろう?」と送り出された選手たちは、小さなスペースを見つけ、ボールを大事に運びながら攻め返して見せる。

 3バックの中央に位置する岡村やボランチの川上が巧みにマークを外し、空いたスペースへドリブルで前進。前線でボールを引き出す前田らが逃げずに繋ぎ、ゴールを目指していく。高川学園はなかなかプレッシングに行き切れず、宇部鴻城のビルドアップにやや押し返されてしまっていた。

 それでも、高川学園は山本吟を起点とした攻撃で相手に圧力を掛ける。そして16分、大下のシュートで獲得した左CKから先制点。高良が右足で蹴り込むと、勢いを持って飛び込んだ藤井が頭で叩き込む。選手権で話題となった“トルメンタ”を発動させなくても、高川学園のセットプレーは対戦相手の脅威。強みを発揮し、先制点を奪い取った。

 宇部鴻城も吉田の縦パスを黒羽が収めて展開し、左クロスへ持ち込むなど反撃。山中をFW原野翔(1年)へ入れ替えた後の31分には、左サイドでのワンツーから前田がラストパスへ持ち込んだ。

 また守備面でも球際での厳しいチェックを継続し、DFラインも的確なカバーリングを見せる岡村、吉田、山本を中心に安定。一方の高川学園は攻撃の柱である山本吟が負傷したこともあり、攻撃の迫力、精度が上がらない。山本吟は前半終了を待たずにFW武藤尋斗(3年)と交代。さらにアディショナルタイムには伊藤とFW佐野大斗(2年)も入れ替えた。

 高川学園は自分たちだけでなく、相手やレフリングともなかなか噛み合わず、どこかリズムに乗れない中での戦い。宇部鴻城に「差は無い」という自信を与えてしまう。それでも後半5分、CKの流れから右サイドの藤井がロビング気味のクロスを上げる。1バウンドしたボールを佐藤が左足ボレーでゴールへ突き刺し、2-0とした。

 その後も大下のカットインシュートや、ショートカウンターを佐藤がフィニッシュで終えるなど立て直していた。だが、宇部鴻城が1点をきっかけに盛り返す。竹杉をFW松村和哉(2年)へ入れ替えた直後の14分、後半に存在感を高めた吉田が右サイドの混戦から抜け出してクロス。これに黒羽が頭から飛び込んで決め、1-2とした。

 勢いに乗った宇部鴻城はさらに17分、GK松本がパントキック。ペナルティアーク付近の競り合いからPAへ抜けたボールに松村が反応し、ゴールへ蹴り込む。同点かと思われたが、松村のシュート直前に吹かれていた笛。ペナルティアークでの高川学園DFのファウルによってFKの判定、ゴールは無効となった。

 宇部鴻城は落胆の色を見せず、このFKを濱岡が右足で狙う。だが壁をヒット。その後、宇部鴻城は原をFW井上悠斗(2年)へ、高川学園は負傷した高良と武藤に代えてFW藤岡大誠(3年)とFW藤岡竜空(3年)を投入する。終盤、宇部鴻城はボールを繋ぎ、右サイドの吉田が積極的に攻め上がるなど同点を目指す。

 だが、高川学園は実森が運動量を増やし、藤井が随所で高さを発揮。彼らや岡、中島が鋭い寄せでボールを奪い返し、相手の背後を突く攻撃を徹底する。点差を広げることはできなかったものの、相手の勢いを止めて粘り強く勝ち切った高川学園が2連覇を達成した。

 高川学園は攻守にチグハグな部分も出て、江本孝監督も「悔しいですね」と語る内容。それでも、選手権で活躍した後の大事な全国大会予選を勝ち抜いたことについて指揮官は、「ああいう雰囲気の中で冷静にやるとか、ハイパフォーマンスでやることは難しいので、よくやったなと」と評価していた。

 注目度が高い中でのシーズン。ただし、実森が「自分たちの代は“最弱世代”だと言われていたので、浮ついたりできる時間はなかったです。普段の練習から求め合って、言い合いばかりやってきました」と語るように、緩めることなく昨年のチームの基準を求めてきた。

 連覇した中国高校新人大会は不在だった実森や大下、伊藤、そして1年生の西村が一定のレベルまで台頭。一方でまだまだチームとしてできないことが多いことも確かだ。江本監督は「きょうみたいな粘り強さも必要だと思うし、トラブルがあった時に次の一手として出せる選手がどんどん出てきて欲しい」と期待する。

 選手たちは「自分たちもベスト4になって先輩たちを超えたい」(実森)という目標を持っている。思い通りの戦いができなかったこの日の決勝でまた、学習。昨年から受け継がれている粘り強さやセットプレーの強さ、高まってきている競争力、そして新たに積み重ねて行く力を持って注目校がインターハイに臨む。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2022

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