beacon

指揮官と選手の織り成す「化学反応」の効果。念願の全国を楽しんだ九国大付が選手権4強の関東一に劇的勝利!

このエントリーをはてなブックマークに追加

九州国際大付高は後半終了間際の決勝点で劇的勝利!

[7.24 インターハイ1回戦 関東一高 0-1 九州国際大付高 徳島スポーツビレッジピッチB]

 果敢な交代策によるポジション変更と、チームが自信を持っているロングスローが溶け合う、勝負の時間帯で叩き出した劇的な決勝点。勝利を手繰り寄せた指揮官は、控えめにこう言葉を紡ぐ。

「メンバー交代も含めて、選手のポジションが変わったことで、良い“化学反応”が起こったのかなというところですかね」(九州国際大付高・江藤謙一監督)

 スタンドも含めたチーム一体で掴んだ、全国大会での大きな大きな白星。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技(徳島)1回戦が24日に行われ、徳島スポーツビレッジピッチBの第2試合で昨年度の高校選手権4強の関東一高(東京2)と九州国際大付高(福岡)が対峙した一戦は、後半終了間際に途中出場のFW山本悠太(3年)が決勝ゴールを叩き込んだ九国大付が1-0で勝利。2回戦への進出権をもぎ取った。

「初戦というところで『緊張して硬さが出るかな』と思ったんですけど、そんなに硬さが出ることもなく、自分たちの良い形でゲームに入れました」とは九国大付のキャプテンを務めるDF米山凛(3年)。前半10分にはMF濱田大夢(3年)が枠の右へ逸れるシュートを放てば、12分にはMF藤井滉稀(2年)の右CKから米山のヘディングはゴール左へ外れたものの、惜しいシーンを創出。好リズムでゲームを立ち上げる。

 とりわけ相手に脅威を突き付けたのは、「得意な形のロングスロー」(米山)。左SBの田中翔太(2年)が放り込む“投球”は、「キーパーに直接来てくれるんだったら、キーパーがチャレンジできたんですけど……」と関東一の小野貴裕監督も言及したように、絶妙の距離感でペナルティエリア内へ。29分にも田中の左ロングスローから、こぼれに反応したMF高瀬泰斗(3年)が放ったボレーは枠の右に消えるも、着々と打ちこむボディブロー。「やれると自分たちが思えた時間帯が早かったですね」と江藤監督も話した九国大付が攻勢に出た前半は、それでもスコアレスで推移した。

 後半も立ち上がりは九国大付の勢いが鋭い。2分にはここも左ロングスローを投げた田中が、こぼれ球を自らクロス。FW頴川楓(3年)のヘディングは枠外も、3分にも高瀬のシンプルなフィードに、走ったMF濱中翔太(2年)のヘディングは関東一のGK小関健流(3年)がキャッチしたものの、漂うゴールの香り。ただ、攻撃の手応えがあったがゆえに、流れが反転してしまうのだからサッカーは難しい。

「前半ももうちょっと自分たちが繋げたんじゃないかという部分はあったんですけど、後半はそれで繋ぎに入った時に自滅してしまいましたね」とは江藤監督。少し手数を掛け始めたことで、関東一のプレスが機能。MF小松奏哉(2年)とMF日野塁(2年)のドイスボランチがセカンド奪取に、ボール配球にと躍動し始めたことで、徐々に攻撃の可能性が膨らんでいく。

 15分にはその関東一に千載一遇の決定機。小松が丁寧に右サイドへ振り分けたボールを、上がってきたMF松野竜成(2年)のピンポイントクロスに、エースストライカーのFW本間凜(3年)がドンピシャヘッドで合わせるも、軌道はわずかにゴール右へ。「アレを決められていれば、また試合は変わっていましたね」とは米山。九国大付は肝を冷やす。

 22分。指揮官は勝負の采配を下す。「結局ボールを持つだけになって、裏に出ていないから怖くないというところ」を改善するため、FW山本悠太(3年)をピッチへ解き放つと、30分には相手のパスミスを拾った山本がフィニッシュ。ここはボールが枠を越えてしまい、思わず本人もチームメイトも頭を抱えたが、直後にこのジョーカーが大仕事をやってのける。
 
 終了間際の33分。後半は再三ロングスローを投げていた濱中が、ここも右サイドから嫌らしい位置への投球を落とし、競り合った米山が粘って、こぼれを拾ったDF井上陽斗(3年)は瞬時のアイデアでループシュートを選択。このボールはクロスバーを叩いたものの、誰よりも早く9番が落下地点に到達する。

「最初は正直『入るかな』と思ったんですけど、やっぱり詰めることは練習から意識していたので、そこがちゃんとできたと思います」という山本が揺らしたゴールネット。「もう『やっと決めてくれたか』と。あの時間帯で、勝負を決定付けるような点でしたし、得意な形のロングスローからだったので、良かったと思います」(米山)「自分の采配なのかはわからないですけど、プラン通りではあったので良いゴールでした」(江藤監督)。

 5分間のアディショナルタイムも消し去ると、タイムアップのホイッスルが耳に届く。「なかなか先制点が獲れずに苦しい時間もあったんですけど、行けそうな雰囲気はありましたし、自分たちはPK戦も得意なので、気持ちの余裕も少しありました。良いゲームだったかなと思います」と米山も手応えを口にした九国大付が、ウノゼロで関東一を撃破。2回戦進出を力強く手にしてみせた。

 九国大付は毎年のように好チームを創り上げながら、近年はあと一歩で全国出場が叶わず、悔しい想いを突き付けられてきた。「僕に監督が代わって4年目なんですけど、何回も決勝でPK戦で負けたり、押しているゲームの中でもなかなか点が獲れなくて負けてしまったりとか、煮え切らないところがあって、『やっぱり一番になるというのは難しいな』という想いはありました。今回何とか全国に出たことで保護者やOBも含めていろいろな方がここまで足を運んでくれたので、本当に念願というか、凄く思い入れは強かったですね」と江藤監督が話せば、「今日は遠い徳島までたくさんの人が来てくれて、1個勝利を届けられたことは本当に嬉しいです」とは米山。まさにチームを取り巻くみんなで掴んだ1勝だけに、格別の想いがあったようだ。

「皆さんに注目して戴ける大会ですし、改めて出ると『ああ、いいなあ』って。あまり『勝つぞ、勝つぞ』というよりは、しっかり楽しみながらやりたいなと思っていましたし、ここまで来れば弱いチームはどこもないので、相手との駆け引きを楽しみながら、しっかり結果を出していこうということでやっていたので、やっぱり面白かったですね」と笑顔を見せた江藤監督は、実は化学の教員。「この勝利を“化学”的に表現するとどうなるでしょうか?」というムチャぶりに、答えてくれたのが冒頭の言葉である。

 途中出場で主役をさらっていった山本は、ここからの目標を問われると、きっぱりとこう言い切った。「チームとしては歴代最高記録が3回戦進出ということで、そこを超えられるように頑張りたいと思います」。

 ようやく辿り着いた全国の晴れ舞台。楽しみながら、真剣に勝利を追求する指揮官と選手たちが織り成す“化学反応”の爆発こそが、九国大付の新たな歴史を切り拓いていくに違いない。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

TOP