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この“大大金星”もあくまで日本一への通過点。帝京が会心の逆転勝利で前回王者・青森山田を撃破!

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帝京高は前回王者・青森山田高相手に鮮やかな逆転勝利!

[7.25 インターハイ2回戦 青森山田高 1-2 帝京高 徳島市球技場第1競技場]

 いわゆる“アップセット”の類であることは間違いない。昨年度は高校年代三冠に輝いたディフェンディングチャンピオンが、近年は全国大会の出場すらもなかなか叶わなかったチームに負けたのだから。勝利した指揮官も「僕らはプリンス関東で戦っていて、この間までは低迷していた学校なので、そこから考えれば大金星ですよね。いや、“大大金星”です」と語っている。だが、選手たちはこの勝利を、そしてその先に掲げた目標を、ずっと真剣に狙い続けてきたのだ。

「僕たちは日本一になるために、全員で練習からしっかりやってこれたので、その成果が出ているのかなと。さっき試合が終わった後も喜んでいたんですけど、『まだこれは通過点だぞ』という声が上がっていたので、明日もこれからも1試合ずつ勝っていきたいなと思います」(帝京高・松本琉雅)。

 カナリア軍団が手繰り寄せた、“通過点”という名の“大大金星”。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技(徳島)2回戦が25日に行われ、徳島市球技場第1競技場の第1試合で前回王者の青森山田高(青森)と帝京高(東京)が対峙する好カードが実現。前半にFW小湊絆(3年)の先制弾で青森山田がリードしたものの、後半にMF松本琉雅(3年)とFW伊藤聡太(3年)の連続ゴールで帝京が鮮やかに逆転。そのまま逃げ切って、3回戦へと勝ち上がっている。

 試合は完璧なパスワークからのゴラッソで幕を開ける。前半12分。帝京のスローインを左サイドの高い位置で奪った青森山田は、MF川原良介(2年)、MF櫻井廉(3年)、MF芝田玲(3年)、小湊、FW津島巧(2年)と5本のパスをスムーズに繋ぎ、再び受けた櫻井は丁寧なスルーパス。走った小湊はマーカーと競り合いながら、GKの届かない右スミのゴールネットへ完璧な軌道でボールを送り届ける。まさに華麗なる一撃。絶対王者が最高の形で1点のリードを奪った。

 いきなりビハインドを追い掛ける展開となった帝京は、「前半は相手のプレッシャーも速くて、特に苦しい時間帯が多かったです」とCB大田知輝(3年)も話したように、相手の圧力をモロに受ける格好でビルドアップもままならず、“捨て球”のようなロングボールが増加。23分には松本の右クロスから、伊藤が放った決定的なヘディングはクロスバーの上へ。「僕が前半はディフェンス重視だと言い続けたので、彼らもそれで少し後ろに重い部分もあったと思います」とは日比威監督。持ち味の攻撃性が鳴りを潜めてしまう。

 25分は青森山田。川原の左クロスから、こぼれをDF西脇虎太郎(3年)がエリア内から狙うも、ここは帝京の左SB島貫琢土(3年)が決死のブロック。35分も青森山田。芝田の左FKから、キャプテンのDF多久島良紀(3年)が叩き付けたヘディングは枠を襲うも、今度は伊藤がライン上でクリア。「前半は出来過ぎだったくらい良かったと思います」と黒田剛監督も口にした青森山田が攻勢を強めたまま、1-0で最初の35分間は終了した。

 後半も最初のチャンスは青森山田。4分に西脇の左クロスに反応したMF小栁一斗(3年)のへディングから、最後は芝田が詰めたシュートは帝京のGK川瀬隼慎(2年)が間一髪でセーブ。9分にも右から芝田が蹴ったFKに、小湊が合わせたヘディングはゴールを陥れるも、副審がオフサイドを指示してノーゴールに。ただ、常に追加点の雰囲気はピッチに漂い続けていた。

 苦しい帝京は14分、MF山下凜(3年)を投入して、右サイドの推進力向上に着手すると、成果はその直後にいきなり。15分。その右サイドから中に切れ込んだ山下は、反転して空いた外側へ短くパス。上がってきたDF並木雄飛(3年)のピンポイントクロスへ、「最初にファーへ立っていて、相手に見えないようにしていて、並木が蹴る瞬間にグッと入っていくことを意識しました」という松本がニアに突っ込みながら頭に当てたボールは、左スミのゴールネットへ弾み込む。1-1。スコアは振り出しに引き戻される。

 10番は“リベンジ”の機会を虎視眈々と窺っていた。「1失点目も自分のトラップミスから失点していて、本当に自分は『やってしまった……』という感覚だったんですけど、チームのみんなが『大丈夫だ。取り返してこい』と」。失点に繋がるトラップミス。逃した決定機。もう自分がやるしかない。

 24分。左サイドのスローインを島貫が投げ入れ、MF押川優希(3年)は丁寧にリターン。島貫が右足で蹴り込んだクロスに、GKがパンチングしたボールは伊藤の足元へと転がってくる。「もう『ここしかない』と思って」右スミを狙ったシュートがゴールネットを貫くと、絶叫しながら仲間の元へと全速力で走り出した10番は、あっという間にチームメイトの歓喜の輪に飲み込まれる。2-1。スコアは、引っ繰り返った。

 追い込まれた青森山田は、なりふりなど構っていられない。スピードとロングスローのMF奈良岡健心(3年)、強さのFW武田陸来(3年)、高さのDF小泉佳絃(2年)、チームを鼓舞し続けられるDF三橋春希(3年)と相次いでカードを切り、ロングフィードとセットプレーから帝京ゴール前にボールを送り続ける。

 それでも、黄色の牙城は揺るがない。「とにかくみんなに『少しでも足を動かせ』ということと『ボールに対して行け』ということは言っていて、少しでも緩くなるといかれるなとはずっと思っていたので、声を出しまくって、『とにかく守ろう』という気持ちだけでした」とは大田。1分ずつ、1分ずつ、丁寧に、必死に、時間を潰し続けていくと、アディショナルタイムも7分を過ぎ、とうとうタイムアップのホイッスルが鳴り響く。

「キーパーの川瀬も頑張ってくれましたし、大田と梅木怜のCB、島貫、並木、田中遥稀と、良く耐えたというのが一番良かったところだと思います。よく凌いでくれましたし、島貫がシュートブロック、伊藤聡太はゴールの中から掻き出したような、アレがやっぱり帝京高校らしいプレーなのかもしれないですね。献身性は忘れていなかったと」(日比監督)。真夏の徳島で上げた凱歌。帝京が青森山田を逆転で撃破し、大きな難所を堂々と突破する結果となった。

 大会前。帝京のキャプテンを務める伊藤は、こう話していた。「自分たちは夏と冬は必ず日本一を獲りに行こうと話していて、傍から見たら笑われる目標かもしれないですけど、自分たちは本気でできると思っているんです」。普段からとにかく明るい男が、至って真剣な表情で口にした決意が、強く印象に残っている。

 その想いは、もちろんチームメイトも共有している。最後までディフェンスラインを引き締め続けた大田は「青森山田に勝てたのはメチャクチャ嬉しいですし、何とかチームでまとまって戦えたという感じでしたけど、この試合が終わりではないですし、より日本一になりたいという想いが強まったと思います」ときっぱり。目標はあくまで日本一。だからこそ、青森山田に勝ったことは大きな自信になるものの、また1つ勝利を重ねられたことが何より大きな成果だという、基本的なスタンスにブレはない。

 “大大金星”というフレーズを使った指揮官も、実は大会前にこういう言葉を残していた。「「コイツらが『全国大会を制覇するんだ』って言っている以上は、そこに向かって準備するだけですよね」。この勝利は確かに“大大金星”かもしれないが、あくまで掲げた目標に到達するための“通過点”。カナリア軍団にとって20年ぶりとなる日本一が、少しずつその輪郭をくっきりと現し始めている。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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