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突き付けられた初戦敗退。「負ける悔しさ」から学んできた青森山田の反攻はここから始まる

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青森山田高にはまだまだ反攻の機会が十分に残されている

[7.25 インターハイ2回戦 青森山田高 1-2 帝京高 徳島市球技場第1競技場]

 指揮官が厳しい表情で紡いだ言葉が、青森山田高(青森)の現状を端的に現わしているだろうか。「今はレベル的にも、このギリギリのところで戦っているわけで、去年みたいに頭1つも2つも抜けている青森山田ではないと思っているので、やっぱりそこを自覚していかなくてはならないですよね」(青森山田高・黒田剛監督)。

 高校年代三冠を獲得した昨年度のチームを受け、ほとんど主力の顔ぶれも入れ替わって迎えた今シーズンのスタートは、決して悪いものではなかった。プレミアリーグでは市立船橋高に開幕戦で勝利を収めると、FC東京U-18、大宮アルディージャU18も相次いで下して3連勝。やはり青森山田は、青森山田。2022年もその強さは健在だと、誰もが感じていたことは間違いない。

 だが、ホームでJFAアカデミー福島U-18に敗れると、そこからまさかのリーグ5連敗。その頃に「去年の3年生の置き土産で、相手が完全にビビってくれたところがあったけど、もう貯金はなくなったので、これからはしんどいけど、やるしかないです」と話していた黒田監督の言葉も印象深い。

 きっかけは、リーグ中断前のラストゲームだった。5月28日の流通経済大柏高戦。このホームゲームで、チームは虎の子の1点を守り切って、実に6試合ぶりの勝利を手繰り寄せる。その勢いのまま、インターハイ予選を制した決勝後。FW小湊絆(3年)は「今までベンチ外の選手があまり一体感を持てていなかったんですけど、ホームゲームでもあったので、ベンチ外のメンバーも全員で戦って、そこで勝つことができてインハイに繋げられたというのが、今回の優勝の大きな要因だと思います」と流経大柏戦の効果を口に。6月末から再開されたプレミアでも2勝1分けと勝ち点を着実に積み重ね、自信を回復した上で徳島に乗り込んできた。

 帝京高(東京)と対峙したこの日の試合も、決して悪いゲームだったわけではない。「ほとんど決定打も作られていなかったですし、前半はでき過ぎだったくらい良かったと思います」と黒田監督。前半12分には左サイドで5人が関わる綺麗な崩しの形から、エースの小湊が完璧なフィニッシュで先制。それ以降も少なく見積もっても、3度は決定的なチャンスは作っていた。

 ただ、指揮官は前半のあるシーンが気になっていたという。「1本クロスから相手のシュートが枠の上に行っちゃったんだけど、あれもマークが外れているんですよ。相手が外してくれた時に、そこをしっかり個人として改善できていれば、あの同点ゴールもなかったのかなと」。

 わずかな綻びを察知した、悪い予感は的中する。後半15分には左サイドからクロスを上げられると、ニアへ走り込んだ選手にヘディングを叩き込まれて、同点に。24分には右サイドからのクロスを許し、GKのパンチングのこぼれ球をゴールネットへ突き刺される。

「『2本中の2本』をきっちり決められたなという印象ですね。プレミアで連敗した時も結局はクロスに対してのマークのところが問題で、ああいった局面をきちっと改善できていないと、やっぱりしんどくなってきたりしたところで、我々が本来やるべきことをきちんとやり切れなかったということだと思います」(黒田監督)。青森山田が掲げる『1本中の1本』という攻撃のテーマを、まさに相手に遂行された格好で、無念の初戦敗退を突き付けられることになった。

 ここ数年の青森山田の基準で考えれば、率直に言ってこの日のゲームは“勝ちゲーム”だった。『ここを決めていれば』で、きっちり決める。『ここを守り切れば』で、きっちり守り切る。それができていれば、チャンスの数やピンチの数を勘案しても、負ける内容では決してなかったはずだ。

 帝京を率いる日比威監督が「見ての通り、青森山田さんは圧が強いのと、ボールに対しての空間認知、1つ1つのボールの止める蹴るの技術、ロングスローにしても、すべてにおいて1枚上だと思いますし、よくそれを耐えたなと」と話した言葉と、それに続けた「Jリーグのアカデミーも高体連も含めて、青森山田さんはやっぱり一番のチームですから、そのチームとやれたことがこの選手たちの財産ですし、結果が付いてきたのは本当にラッキーだったなと思います」という言葉はどちらも本心だろう。

 試合後。小湊が泣いていた。DF多久島良紀(3年)とMF中山竜之介(3年)という、昨年度の基準を知る2人が離脱していた時に、キャプテンマークを巻いて“勝てない重圧”と戦い続けていたエースの涙に、ここから彼らが期すべき反攻への確かな萌芽を見る。

「これから強化という意味で、真夏の日本列島の中で、1分でも2分でも長く走れるように、100パーセントの力を発揮できるようにならないといけないだろうし、今日の前半もプレッシングがかなり効いていたところで、帝京の土俵でサッカーをさせなかったところは良かったと思うんですけど、それが前後半できなければ話にならないわけで、そこは課題としてしっかり見えてきたので、追い込みをかけていきたいなと思います」(黒田監督)。

 1分でも、2分でも。1パーセントでも、2パーセントでも。『1本中の1本』でも、『2本中の2本』でも。向上する可能性があるのであれば、それを追求し続ける。三冠チームと今年のチームの一番の違いは、『負ける悔しさ』から学んできた経験値。2022年の青森山田がそのパワーを解き放つ舞台は、まだまだここから十分に残されている。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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