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今日の一番は「磐田東の選手たちのために」。サッカー仲間の無念も背負った前橋育英は被シュートゼロで聖和学園に完勝!

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前橋育英高は被シュートゼロの完勝で準々決勝へ!

[7.26 インターハイ3回戦 前橋育英高 2-0 聖和学園高 徳島スポーツビレッジピッチB]

 全国大会の真剣勝負に臨んでいる選手たちは、さまざまなものを背負って、1つ1つの試合と向き合っている。チームメイトのため。家族のため。友人のため。そして、時には対戦相手のために戦うことだって、サッカーの世界では確実にある。この一戦は、まさにそういう試合だったということだ。

「毎日ミーティングをやる時に、『今日のゲームはこれが“一番”だから』という話をするんです。仲間とか親族関係の方に感謝して試合をするということはいつも言っていることなんですけど、『今日の“一番”は磐田東の選手だから』という話はしました」(前橋育英高・山田耕介監督)。

 ピッチ上で実現しなかった“2回戦”を経た、被シュートゼロの完全勝利。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技(徳島)3回戦が26日に行われ、徳島スポーツビレッジピッチBの第2試合で優勝候補の呼び声も高い前橋育英高(群馬)と東北のテクニック集団・聖和学園高(宮城)が対峙。前半にDF山内恭輔(3年)、後半にFW小池直矢(3年)がゴールを重ねた前橋育英が、守っては相手のシュートをゼロに抑えて2-0で完勝。準々決勝へと駒を進めている。

 最初のチャンスは前半4分の前橋育英。右サイドでMF堀川直人(3年)のパスを受けたFW高足善(3年)のクロスに、小池が果敢にボレー。ここは聖和学園GK菅井一那(3年)がファインセーブで凌いだものの、いきなり創出した決定機にこの一戦へ向けた強い想いを滲ませる。

 以降もゲームリズムを握ったのは前橋育英。「相手が『ドリブルで来るぞ』というのは意識していたんですけど、まず受け身になるんじゃなくて、あくまでも自分たちが『来いよ』みたいな、それぐらいのモチベーションでやろうというのは話していたので、個人の守備に自信を持ってやれたことで、相手の突破も少なかったと思います」とキャプテンのMF徳永涼(3年)も確かな守備の手応えを口にする。

 聖和学園もベンチから飛ぶ「ゆっくり攻めろ!」という指示を受け、1人1人が丁寧にボールを保持しようと試みるものの、「ビデオで見て、相手の切り替えが速いことはわかっていたんですけど、それでもまだまだ自分たちの技術が足りなくて、剥がし切れなかったなとは感じました」とは、こちらもキャプテンを務めるDF小野喬(3年)。前橋育英のハイプレスに前進する回数も制限されてしまう。

 すると、試合を動かしたのは左SBのスペシャルな左足。33分。高い位置での即時奪回を起点に、MF大久保帆人(3年)からパスをもらった山内は躊躇なく左足一閃。わずかに相手をかすめたボールは、豪快にゴールネットへ突き刺さる。「自分が前にプレッシャーに行って上手く取れて、その流れでボールが来たんですけど、相手が来ていなくて結構フリーだったので、振れば入るかなと思いました」というレフティの鮮やかな先制弾。前橋育英が1点をリードして、ハーフタイムに折り返す。

 後半もタイガー軍団の勢いは衰えない。開始早々の1分に堀川が右ポストにシュートをぶつけると、その2分後に生まれた追加点。3分。ここも相手のビルドアップを高い位置で奪い、堀川が右サイドへ送ったパスを、小池は完璧なトラップで収め、左スミのゴールネットへきっちりとシュートを流し込む。9番を背負ったアタッカーはこれで“2戦連発”。2-0。点差が開く。

 小さくないビハインドを負った聖和学園も、MF神田翔和(3年)やMF江藤彪汰(3年)、MF伊澤睦喜(3年)とアタッカーを次々とピッチへ送り込んだが、「ボールを持って、関わってというところをやってきたので、もっとやって欲しかったんですけど、仕掛けてもファウルされたり、スライディングされたり、そこの球際の奪う力というところに関してはさすがだなと。相手の方が数枚上だと思いました」とは加見成司監督。15分には江藤のスルーパスにMF増川琳太郎(3年)が抜け出すも、シュートには至らず。ゴールに迫り切れない。

 前橋育英はさらなる得点への意欲十分。19分にはピッチ中央、ゴールまで約25メートルの位置から山内が直接狙ったFKは、ゴールポストを直撃。27分にもMF山田皓生(3年)のパスから、華麗にマーカーを外した大久保のフィニッシュは菅井のファインセーブに阻まれるも、最後まで3点目を全力で狙い続ける。

 結果的に聖和学園は1本のシュートも記録できず。「シュートを打たれない限りは失点もないですし、失点してしまうと守られて逃げ切られる、というのは自分たちの負けパターンの1つで、そういうことをプレミアで経験しているからこそ、シュートを打たせないということに関して自分たちが徹底してやれていたので、“シュートゼロ”の収穫は今日の試合は大きかったと思います」と徳永も口にした前橋育英が文字通りの完勝で、昨年度の高校選手権に続く全国8強を逞しく引き寄せた。

 試合後。取材エリアに現れた山内は、真っ先にこんな言葉を発している。「昨日は試合ができなかったので、『磐田東さんの分まで頑張って勝とう』とチーム全体で話をしていました」。前日の2回戦。前橋育英は磐田東高(静岡)の出場辞退により不戦勝に。試合を行うことなく、3回戦への進出権を手にしていた。

「一番最初に電話があったのが磐田東の監督で。『耕介さん、実は……。申し訳ない』と。『選手たちは前橋育英とやるのを楽しみにしていたんです。それができなくなったのは本当に残念です』というのを電話で言っていて、その想いは凄く感じました」と話すのは前橋育英を率いる山田耕介監督。もともと同い年の盟友でもある、前・四日市中央工高監督の樋口士郎氏(現・ヴィアティン三重トータルアドバイザー)とPJMフューチャーズでともにプレーしていた磐田東の山田智章監督とは面識もあり、和倉ユースなどの機会に親交を深めていたという。

「ですから、自分の方からもミーティングで『今日の試合の“一番”のポイントは磐田東だよ』と。『磐田東の選手たちのために、オマエたちは力を発揮して、恥ずかしくないプレーをしなくてはダメだろう』というような話はしました」(山田耕介監督)。果たして選手たちは“今日の一番”も意識しながら、いつも通りのパフォーマンスを貫徹した結果、被シュートゼロという驚異的な勝利で、次のラウンドへと駒を進めることとなった。

 いよいよ掲げ続けてきた日本一がその視界に入ってきているが、徳永はやはりいつも通りのスタンスを口にする。「メディアの方も外部の方も『今年の育英、強いね』とは言って下さるんですけど、自分たちがそこで奢らずに、謙虚にしていないと、そういう一瞬の隙がシュート1本で負けるようなことに繋がると思うので、チームのキャプテンとして引き締めるところ、隙を見せないところというのは、何回も言い続けたいところです」。

 高い基準の“いつも通り”を貫けるメンタリティを兼ね備えている上に、対戦相手へのリスペクトも、謙虚さも忘れないキャプテンに代表される、サッカーへと真摯に向き合う姿勢。隙のない前橋育英、強し。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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