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16年ぶりの全国4強にも満足感はなし。4ゴールを奪って岡山学芸館を撃破した帝京が真剣に目指す「あと2勝」

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帝京高は2006年大会以来となる全国4強!

[7.28 インターハイ準々決勝 帝京高 4-2 岡山学芸館高 鳴門・大塚スポーツパーク球技場]

 実に16年ぶりとなる全国4強を手繰り寄せても、選手たちからは反省の声が聞こえてくる。積み重ねてきたスタイルへの自信と、メンバーへ選ばれずに東京から応援してくれている仲間のことを考えれば、自分たちに課しているハードルは決して低くない。すべては、目指してきた頂へ辿り着くため。すべては、10個目の星をユニフォームに付けるため。

「実際に毎試合失点してしまっているので、そこは改善しないといけないですし、失点しないために積極的に周りを動かして、ゴールを守ることをもっとやらないといけないと思っています」(大田知輝)「4点獲ったという見方もできますけど、中でやっている感覚としては4点しか獲れなかったなと。チャンスが多いのに、ミスも多いので、そこはちゃんと合わせていかないといけないなと思います」(伊藤聡太)

 勝って兜の緒を締められる、カナリア軍団の躍進続く。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技(徳島)準々決勝が28日に行われ、鳴門・大塚スポーツパーク球技場の第1試合で帝京高(東京)と前回大会8強の岡山学芸館高(岡山)が対峙。前後半で2点ずつを奪った帝京が、粘る岡山学芸館を振り切って4-2で勝利。2006年の大阪インターハイ以来となる、ベスト4進出を決めている。

「学芸館さんの方が立ち上がりはやるべきことをきっちりやっていたなというのが正直な感想です」と帝京の日比威監督が話し、「ゲームの入りのところで良い形で入れたので、スタートの流れは良かったですね」と岡山学芸館の高原良明監督も認めた通り、明らかに立ち上がりは岡山学芸館のフレッシュな勢いが、帝京を上回っていた。ところが、やはりサッカーのスコアは展開通りに付いてくるわけではない。

 7分。右サイドで帝京が手にしたFK。「キーパーとディフェンスの間がちょっと空いていたので、カーブ系ではなくあそこに落とすイメージで」MF田中遥稀(3年)が蹴り込んだキックに、DF大田知輝(3年)が合わせたボレーはGKも弾き出したものの、ラインを越えていたという判定でゴールが認められる。「実際ちょっと自分もわからなかったんですけど、ゴールラインギリギリで入って良かったです」と笑った大田は2試合連続弾。リズムを掴めなかったカナリア軍団が、セットプレーで先制してみせた。

 9分にも右サイドをFW齊藤慈斗(3年)が鋭くえぐり、折り返した絶好機はFW伊藤聡太(3年)が枠の上へふかしてしまったが、14分には伊藤がお返しとばかりに左サイドから送ったクロスから、少し下がりながらダイレクトで叩いた齊藤のシュートが左スミのゴールネットへ吸い込まれる。「トラップするか打つか迷ったんですけど、相手が少し来ているなと思ったので、ワンタッチで上手く流し込めたかなと思います」と振り返ったストライカーは、得点ランクトップに並ぶ今大会4点目。帝京のリードは2点に開く。

「やはり最初の失点が痛かったですね」と指揮官も言及した岡山学芸館だったが、クーリングブレイク直前の16分に1点を返す。右サイドで手にしたCKをMF岡本温叶(3年)が蹴り込むと、ルーズボールを収めたMF田邉望(2年)の左足シュートは、DFをかすめながら右スミのゴールネットへ到達する。

 期待の2年生アタッカーの一撃で1点差に迫った岡山学芸館は、3回戦の中京大中京高戦よりも比較的早めに前線のFW今井拓人(3年)へボールを蹴り入れ、「あそこをシンプルに狙っていきながら、前向きの状態で攻撃を仕掛けたい」(高原監督)意図を遂行。十分な圧力を掛け続けながらも、前半は帝京が1点のアドバンテージを握ったままでハーフタイムに入る。

 後半最初の決定的なチャンスは岡山学芸館。3分。MF福井槙(3年)が左ロングスローを投げ入れ、最後は今井が至近距離からシュートを放つも、ここは帝京の2年生守護神・GK川瀬隼慎(2年)がファインキャッチ。絶好の同点機を逸してしまう。

 8分の追加点は、再びこのコンビで。左サイドで帝京が奪ったCK。「セットプレーは知輝といつもどうやってポイントを合わせられるかの会話はしています」という田中の完璧なキックを、ニアで大田が合わせたヘディングが今度はきっちりゴールネットを揺らす。「田中も本当に良いボールを蹴ってくれましたね」と笑顔の大田は、これでドッピエッタ。3-1。再び帝京のリードは2点に。

 27分のダメ押し点は、前半の借りを返したい10番が。DF島貫琢土(3年)を起点に、左サイドから途中出場のMF山崎湘太(2年)が中央へ折り返したクロスを、トラップから少し溜めて蹴った伊藤のシュートが、左スミのゴールネットへ転がり込む。「1本目のシュートを見事に外して(笑)、またもやチームに迷惑を掛けてしまったんですけど、あのシュート自体は相手をちょっとズラして、良いテンポでキーパーの逆を付けたかなと思います」。4-1。勢いが止まらない。

 岡山学芸館も意地を見せる。終了間際の35+6分。相手CKを跳ね返した所から、高速カウンター発動。MF田口裕真(2年)のパスを引き出したMF木村匡吾(3年)が丁寧な右クロスを上げると、突っ込んだ田邉のヘディングが右スミのゴールネットを捉える。

「『最後まで絶対にあきらめるな』『最後まで戦い切るぞ』というところで、最後に1点獲れたというところは、今年のチームの頑張りが出た成果かなと思います」と高原監督が選手たちを称えた岡山学芸館も執念の1点を返したが、ファイナルスコアは4―2。帝京が白熱の真剣勝負を制し、セミファイナルへと勝ち上がる結果となった。

「もう少し今日は締まったゲームをやりたかったなと。手放しで喜べないというか、しっくりこないなという感じではありますね。ただ、そこは切り替えさせて、もう1回、2回でも、3回でも、ねじを締め直したいです」と日比監督が渋い表情を浮かべれば、「2失点してしまったんですけど、セットプレーとカウンターからというのは一番いらない失点なので、そこは自分がもっとチームをまとめないといけないと思っています」と大田もきっぱり。あえて結果と内容の“二兎”を追い求めてきた帝京にしてみれば、この日は納得のいく内容ではなかったのだろう。

 昨年度のインターハイでは、実に10大会ぶりの全国出場を果たすと、今回はとうとう4強まで駆け上がった帝京だが、指揮官はそこに至る流れをこう語っている。「過去のことを振り返ると、この学校自体が優秀な結果を残してきていることで僕らもアドバンテージをもらっていますけど、僕ら自身はそれにあぐらをかいて『帝京だぞ』なんて言っても、『長岡?』『可児?』『三高?』なんて言われちゃうわけだから、もっともっと先輩たちが築いたようなことをやらないといけないと思いますし、強くしないといけないと。でも、それは本人たちがよくわかっていますし、今のウチの良い部分かもしれないですね」。

 強い想いを携えているのは、徳島で戦っている20人だけではない。「試合が終わるごとに、東京に残っている仲間たちから『勝ってくれてありがとう』とか『カッコよかった』とか言ってもらっているんです。サッカーを本気でやっている仲間に感謝されることは嬉しいですし、本気で応援してくれる仲間がいるので、中途半端な試合はできないですし、『みんなの分も戦ってきたぞ』と胸を張って言える結果を出せるように、頑張りたいです」とはキャプテンの伊藤。チームの一体感も、東京と徳島という地理的な“壁”を超えて、一戦一戦高まっているようだ。

「もともとこの代で日本一を獲るというのは、最初の目標で決まっていたので、ここまで来たからには帝京の名前を復活させて、10個目の星を付けて、胸を張って東京に帰ります!」。田中が言い切った想いは、間違いなく部員全員の共通認識。カナリア軍団、復権へ。夏冬通じて10度目の日本一を奪い取るために必要な勝利は、あと2つ。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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