beacon

「勝ちたい」の言葉だけでなく行動から変化。そして、技術力や運動量発揮した帝京が“10個目の星”まであと1勝

このエントリーをはてなブックマークに追加

全員で走り抜いた帝京高が決勝進出。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[7.29 インターハイ準決勝 帝京高 1-0 昌平高 鳴門大塚]

 キャプテンの目に映る名門校の姿は、以前と明らかに異なるようだ。帝京高(東京1)が、03年以来となるインターハイ決勝進出。昌平高(埼玉)との準決勝は、前半から拮抗した展開が続き、どちらが勝利を掴んでもおかしくないような70分間だった。

 紙一重の勝負を制したのは、東京王者。後半26分に交代出場MF山下凜(3年)が鮮やかな右足シュートで決勝点を決めたシーン以外にも、相手の奪い返しよりも速く、正確にボールを動かし、打開して決定機を作り出していた。

 得点ランキング首位タイのFW齊藤慈斗(3年)のヘッドが相手GKのスーパーセーブに阻まれるなど、2点目を奪うことができなかった。それでも、この日の帝京は鉄壁の守備。前半14分にGK川瀬隼慎(2年)が相手MFとの1対1をビッグセーブすると、こぼれ球からのシュートをCB大田知輝(3年)がブロックして先制点を許さない。

 両校ともにテクニックを特長とする選手が多いが、特に帝京はアタッカー陣が献身的な守備。主将のMF伊藤聡太(3年)は「前4枚がセカンドボール拾いに行ったり、プレスバックしたり運動量は増えるけれど、全員で身体壊れてもこの試合勝ち切ろうと話していたので、全員で声を掛けながら走り切れたかなと思います」という。

 昌平の選手の判断がわずかでも遅れれば、帝京は2人、3人がかりで挟み込んでボール奪取。後半3分に川瀬が再びビッグセーブを見せると、1点リードした後はDF陣が素晴らしい守備を連発した。

 33分に左SB島貫琢土(3年)が相手FWの決定的なシュートをブロックし、味方選手とハイタッチ。その後もCB梅木怜(2年)が身体を投げ出してスルーパスを阻止してしたほか、CB大田知輝(3年)、右SB並木雄飛(3年)も集中力を切らさずにゴールを守り続けた。

 プリンスリーグ関東1部の対戦では、0-3で敗れている相手にリベンジ。日比威監督は「チーム一丸となってやってくれた。2点くらい取られてもおかしくなかった」と交代出場した選手含めて全員で勝ち取った白星であることを強調する。指揮官は「(20人の)選び方が難しかったですね。残っているメンバーに対しては申し訳ない」と東京に残したメンバーへの思いに言葉を詰まらせていたが、彼らの分も戦って勝ち取った全国ファイナルの切符だった。

 現3年生は、1年時にプリンスリーグ関東で先発の半数以上を占めていた試合もあったほどの世代。彼らは当時から、当然のように「全国優勝」という言葉を口にし、それを目指してきた。だが、1年時は選手権予選2回戦でまさかの敗退。昨年はインターハイで11年ぶりの全国大会出場を果たしたが、初戦敗退に終わり、期待された選手権予選も準決勝で涙をのんだ。

 注目世代は勝つことの難しさを学びながら、本当に勝つために何が必要か考え、実践してきた。この日は勝利への思いが、見ている側にも伝わるような戦い。伊藤は「今までは負けてから『勝ちたい』と言うことが多かったんですけれど、今は勝つためにこういうことをしようと全員で勝つために動けていると自分は思えているので、その結果が今ここまで来ていると思いますし、あと一歩で優勝ですし、ここで勝たないと満足なんかできないですし、あと一個勝たないと意味がないので全力で勝ちをどん欲に取りに行きます」。言葉だけでなく、勝つために全員で行動してきた名門が、あと1勝を勝ち取る。

 戦後最多タイの選手権優勝6回、またインターハイも優勝3回。帝京は特別な歴史を持つチームだ。その歴史を感じながらも、この日も見せた人数を掛けた崩しやボールを大事にビルドアップすることなど、「新しい帝京」の姿を目指してブレずに取り組んできた。

 帝京の主将として91年度選手権日本一を経験している日比監督、同じく帝京の元主将で2年時の03年にインターハイ優勝を経験している松澤朋幸コーチ、03年インターハイ優勝GKの山下高明コーチらスタッフの経験もアドバンテージに。そして、選手自身で勝つための行動ができるチームに成長した世代が、帝京を19年ぶりの決勝まで押し上げた。

 決勝の対戦相手は前橋育英高(群馬)。伊藤は「前橋育英という去年も(プリンスリーグで)負けていて最高の強い相手だと思うので。ここで勝ってこそ、優勝したぞと胸を張って東京の仲間たちに会いに行けるのであと一個、どうやっても勝ちたいですね」。全国制覇の回数を意味するユニフォームの胸の星を9個から10個に。主軸の怪我もあり、難しい状況であることは間違いないが、選手、スタッフ全体で最高の準備をして決勝の舞台に立ち、勝って大会を終える。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2022

TOP