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前橋育英は初参戦のプレミアリーグでより細部まで徹底。観衆唸らせた攻撃、全試合で被シュート5本以下…堂々の日本一

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前橋育英高はプレミアリーグの経験を強さに結びつけ、09年以来のインターハイ制覇(写真協力=高校サッカー年鑑)

[7.30 インターハイ決勝 帝京高 0-1 前橋育英高 鳴門大塚]

 13年ぶりとなる日本一。前橋育英高(群馬)にとって大きかったのが、初となるプレミアリーグでの経験だ。今季は、昨年からのレギュラーである日本高校選抜MF根津元輝(3年)が怪我で長期離脱。要であるボランチに加えて他にも怪我人がいる状況で、想定していた通りのスタートでは無かったはずだ。

 だが、山田耕介監督が「プレミアを戦うことによって、ちょっとしたズレ、ちょっとしたラインの押し上げとか、ちょっとしたパスコースとか、今までよりも細部までやれるようになった」と説明するように、プレミアリーグの経験がチームの質を細かな部分から向上させた。

 前橋育英は、他地域よりもレベルが高いと言われるプリンスリーグ関東で13、17年度優勝。強さを示してきたが、選手権日本一になった17年度のチームを含めて4度もプレミアリーグプレーオフで敗退している。21年度のプレーオフでようやく勝利し、初昇格。それまでも毎年のように好チームを構築していたが、高校年代最高峰のリーグ戦を経験することができていなかった。

 今年、初めて体感したプレミアリーグの判断を含めた速さ、強さ、巧さは間違いなくプリンスリーグ関東以上。山田監督は「本当に感謝しています。簡単な試合は1試合もないので、勉強させてもらって。選手たちも逞しくなってダメなところも発見しているし。精神的にもタフになったと思います」とその環境で学べることに感謝していた。

 対戦相手には、わずかなミスを得点に結びつけてくるような年代別日本代表のFWやプロのトップチーム、年代別日本代表で揉まれているようなDFが当たり前のようにいる。前橋育英はその中で現在プレミアリーグEAST4位と健闘。力を入れている分析含めてこれまで以上に細部までこだわってきた日常が、前橋育英の個の力、チーム力を磨き上げてきた。

 この日も山田監督が「ウチのストロングなんですよ」という切り替えの速さを1試合通して発揮。奪い返しが速く、中盤の網を突破されてもCB齋藤駿(3年)、CB杉山陽太(3年)らDF陣が立ちはだかる。今回のインターハイは、被シュートゼロだった聖和学園高(宮城)との3回戦をはじめ、被シュートは5試合全て5本以下。GK雨野颯真(2年)の活躍もあり、失点は大会を通して1だけだった。

 また、U-18代表候補MF徳永涼主将(3年)とMF青柳龍次郎(3年)のダブルボランチが舵取り役となって、観衆も唸るような質の高さとテンポのあるパスワーク。そしてMF小池直矢(3年)が個人技でサイドを攻略する。

 どこからでもチャンスを作り出す前橋育英は、決勝でも攻撃的右SB井上駿也真(3年)のスルーパスにMF大久保帆人(3年)が反応して決定機を作り出したほか、連動した崩しからFW高足善(3年)が幾度もゴールへ迫った。また。左SB山内恭輔(3年)の質の高いキックからFW山本颯太(3年)や杉山が決定的なヘッドを放つなど、セットプレーも強力。帝京高の日比威監督も「(特に崩し方など)素晴らしいチームだと思う」と語っていたが、長崎総合科学大附高(長崎)、磐田東高(静岡、不戦勝)、聖和学園(宮城)、矢板中央高(栃木)、米子北高(鳥取)、帝京高(東京1)と続く激戦ブロックを堂々の戦いで勝ち抜いた。

 山田監督にとっては、島原商高(長崎)時代の恩師である小嶺忠敏監督(前長崎総合科学大附高監督)が今年1月に亡くなってから初めて迎えた大会で優勝。「決勝戦の前に(初戦の対戦相手で長崎総合科学大附現監督の)定方(敏和)さんから連絡あって。『小嶺先生が勝たせてくれますよ』、ってね」。山田監督自身も「(恩師亡き後の)大事な一年」と語っていた22年シーズンでまず1冠を獲得した。

 ただし、油断は全くない。前回インターハイで優勝した09年度は、2冠を目指した選手権初戦で香川西高(香川)に2-3で敗戦。「バシッとやっていきたいと思います」。選手たちも今回の優勝が目標とする3冠への第一歩であることを強調していた。インターハイで決勝まで勝ち抜いた経験も成長に繋げること。今夏の遠征や9月に再開するプレミアリーグで学びながら、より強い前橋育英を築き上げる。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2022

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