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夏準Vから冬の日本一へ。帝京主将は“らしい“宣言の一方で、優勝校の姿を瞼に焼き付ける

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帝京高FW伊藤聡太主将(10番)は表彰式、その前後も優勝校の姿を目に焼き付けていた。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[7.30 インターハイ決勝 帝京高 0-1 前橋育英高 鳴門大塚]

 主将は優勝校が表彰を受ける姿から目を背けなかった。20年ぶりの優勝を目指した帝京高(東京1)は後半アディショナルタイムの失点によって0-1で敗戦。プレミアリーグ勢の前橋育英高(群馬)に主導権を握られる展開ではあったものの、執念に近い守備で無失点を継続し、個々のスキルの高さと切り替えの速さを活かしたカウンター、巧みな崩しで決定機も作り出した。

 FW伊藤聡太主将(3年)は、「崩しの面に置いても、球際の面に置いても、前橋育英が一歩上回っていたと思います」とした一方、「自分たちのやりたいサッカーというのは崩さずに最後まで続けて、『帝京を貫けた』のかなと思います」と胸を張る。

 今大会は大分鶴崎高(大分)との初戦を7-2で制すと、2回戦で昨年度3冠の青森山田高(青森)からインパクトのある勝利。その後も、伝統校の丸岡高(福井)や、近年台頭してきている岡山学芸館高(岡山)、昌平高(埼玉)を破った。帝京は戦後最多タイの選手権優勝6回、インターハイ優勝3回の特別な歴史を持つチーム。その名門が全国大会では07年以来となる白星から連勝を続け、19年ぶりに全国決勝の舞台に立った。

 かつての帝京は74、77、79、83、84、91年度の選手権決勝、76、82年度のインターハイ決勝で通算6勝2分、94年のインターハイ決勝で敗れるまで決勝での“不敗伝説”も続けていたチームだ。決勝戦で圧倒的な強さを見せるなど一時代を築いていた名門校が、新たなスタイルであるテクニックとポジショニングの質の高さ、距離感の良さを活かした崩し、また粘り強さを発揮しながら連勝。その復活劇は開催地・徳島の観衆からも注目を集めていた。

 この日は、かつてのような決勝で勝ち切る強さを表現するには至らなかった。それでも、見る人々を感動させるような好勝負を演じての準優勝。伊藤は「こうやって試合があるたびにたくさんメッセージをくれたりとか、自分たちの知らない人たちも、現地の徳島の人もたくさん見に来てくれて、その中でもプレーするというのは本当に幸せなことだと思いますし、その中で好きに、楽しくやらせてもらえたので本当に最高の大会でした」と振り返る。

 ただし、目指していたのは通算10度目の全国制覇。ユニフォームの胸の星を9から10個にすることだった。喜ぶ勝者の姿を凝視していた主将はその理由について、「正直、1ミリも見たくもなかったですけれども、見ることが一番悔しいことだと思って、(また)負けたんで相手のことを讃えなきゃと思ってずっと見ていました」と明かす。

 そして、「ロッカールームにあとで戻ったら、(チームメートに)『ここまで戦ってくれてありがとうだけど、まだ冬があるんで、全員が落とさずにもう一回この悔しさを忘れずに次は勝とう』と言いたいです」と続けた。

 今回のインターハイが、低迷期から這い上がってきた“新たな帝京”にとって大きな大会になったことは間違いない。1試合不戦勝だった前橋育英よりも、どのチームよりも多い計6試合を経験。日比威監督は「きょうで6試合ですけれども、(予選を含めて)インターハイ9試合やらせてもらったことは選手、指導者にとっても財産。(新しい帝京が)少しずつ動き始めたと思います。(学校、卒業生も含めて)オール帝京の力で返り咲ける場所に返り咲きたい」という。

 その財産を持って、帝京は選手権で10個目の星を目指す。伊藤は「帝京高校は主役なので。夏獲れずに冬獲ったらみんな感動できるんじゃないかということで、一種のエンターテイメントとして良かったんじゃないかと思います」と報道陣を笑わせた。“伊藤らしい”言葉での優勝宣言だったが、瞼に焼き付けた優勝校の姿は決して忘れない。東京に戻り、また一つ一つ努力を重ねて冬は帝京が頂点に輝く。

(取材・文 吉田太郎)
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