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ベンチもスタンドも一体の“全員サッカー”でこじ開けた新たな歴史の扉!明星学園は東京朝鮮をPK戦で下して初の東京8強!

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明星学園高は全員サッカーでPK戦を制して堂々と東京8強進出!

[6.3 インターハイ東京都予選2回戦 明星学園高 1-1 PK6-5 東京朝鮮高 戸吹スポーツ公園]

 それは確かに自分たちでも少しビックリしたけれど、逞しく勝ち上がってきた結果の東京ベスト8だ。胸を張って、全員で勝利を喜んでいい。でも、まだまだこれで終わるつもりなんて毛頭ない。ここまで来たら、もう宣言しよう。全国への切符を真剣に狙っていると。

「子どもたちには『全員でサッカーをやって、全員でサッカーを楽しめ』と。『ただ、楽しむというのはふざけてやることではなくて、一生懸命やることだ』と。それがウチの特徴なのかはわからないですけど、みんなサッカーを楽しんでくれているのかなと。みんなでサッカーをやるのがウチの一番のストロングだと思います」(明星学園高・細井卓磨監督)

 ベンチもスタンドも一体の“全員サッカー”でこじ開けた、新たな歴史の扉。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技東京都予選2回戦が3日、戸吹スポーツ公園で開催され、昨年度の高校選手権予選でも顔を合わせた東京朝鮮高と明星学園高が激突した一戦は、PK戦の末に明星学園が勝利し、リベンジを達成。同校初となる東京8強へと勝ち上がった。

 試合は立ち上がりから、双方が持ち味を発揮し合う。前半8分は東京朝鮮。ハイプレスから高い位置でMFリュ・サンウ(3年)がボールを奪ってラストパス。3列目から飛び出したMFキム・セリャン(3年)のシュートは、明星学園DF湯本勘太郎(2年)がブロックしたものの、チームの狙いとする良い守備から良い攻撃を体現するような一連で、チャンスを創出する。

 一方の明星学園は「相手が前から来ていても繋いで、パスで崩すことを練習からやっています」とキャプテンのDF森楓馬(3年)も口にしたように、DF尾澤志優(2年)と湯本の両センターバックを起点にボールを動かしながら、MF寺尾陸(3年)とMF黒沢航志(3年)で組んだドイスボランチもパスを受ける意識が高く、アタッカー陣は“ポケット”を取りに行く姿勢を鮮明に。15分には左CKを森が蹴ると、ファーでフリーになったFW松木鷹平(3年)が折り返し、FW村松晴登(3年)のシュートは枠を逸れるも、デザインされたセットプレーを披露する。

 19分には東京朝鮮に決定機。左サイドを再三仕掛けていたリュ・サンウが、ここも縦に突破して中へ。MFパク・チソン(3年)が枠へ収めたシュートは、明星学園GK大野柊真(3年)がファインセーブで回避。20分にもゴールまで約25mの位置から、MFキム・ヒョンジョン(3年)が直接狙ったFKは壁にヒット。33分にはキム・ヒョンジョンが左へ流し、リュ・サンウのカットインシュートは大野がキャッチしたものの、ゴールの香りを漂わせ始める。

 ところが、ゲームは意外な形で動く。36分は明星学園の右CK。寺尾がショートで蹴り出すと、近付いていった森との意思疎通が合わず、2人は衝突してしまったが、そのこぼれを自ら拾った森はすかさずクロス。ここに飛び込んだ湯本のシュートがゴールネットを鮮やかに揺らす。「ショートコーナーをもらって、そこから中に上げるという形だったんですけど、ぶつかって……。でも、その後に落ち着いてセンタリングを上げることができました」と冷静に振り返った森のアシストから、センターバックが貴重な先制点。明星学園が1点をリードして、前半の40分間が終了した。

 後半も試合の大きな構図は変わらないものの、1点を追い掛ける東京朝鮮のギアが一段階上がると、赤の歓喜は後半10分。右サイドでボールを持ったDFパク・カンシン(3年)のピンポイントクロスに、突っ込んだFWパク・スノ(3年)のヘディングはゴールネットへ突き刺さる。1-1。たちまちスコアは振り出しに引き戻された。

 「ゴールを決められた時はみんな『ああ……』って感じだったんですけど、そのあとでしっかり切り替えて、自分たちのサッカーをやれたと思います」と森も口にした明星学園は、徐々に運動量が低下し、押し込まれる時間も続く中で、最後の局面では身体を張って凌ぎつつ、隙さえあれば縦へ差し込もうとするファイティングポーズを取り続ける。80分間では決着付かず。試合は前後半10分ハーフの延長戦へともつれ込む。

 東京朝鮮のビッグチャンスは延長前半1分。パク・スノのパスから、途中出場のMFリ・チシン(2年)が放ったシュートは枠を捉えるも、「アレを止めるのが自分の仕事ですし、キーパーコーチの大石さんにも叩き込まれているので、それが出たと思います」と振り返った大野がビッグセーブで応酬。勝ち越しは許さない。延長の20分間を終えても、スコアは1-1のまま。次のラウンドへの進出権はPK戦へと委ねられた。

 両チームとも3人目までは全員が成功。先攻の東京朝鮮は4人目もきっちり沈めたものの、後攻の明星学園4人目のキッカーは足を滑らせてしまい、ボールは枠を外れていく。決められれば敗退という絶体絶命の状況で、その守護神は覚悟を決める。

「飛ぶ方向は決めていたので、そっちに飛んで止められたらヒーロー、止められなかったら負け、と腹を括りました」(大野)。東京朝鮮5人目のキッカーが蹴ったのは自身の左。大野が飛んだのは自身の右。ボールは弾き出され、チームメイトとスタンドの絶叫が響く。明星学園の5人目も冷静に成功。試合はまだ終わらない。

明星学園高にとって絶体絶命のピンチを守護神のGK大野柊真がビッグセーブで救う!


 6人目は揃って成功。そして、7人目。再び大野の勘が冴える。「味方が外して、オレが止めるしかないという状況に追い込まれたところで、火が付いたんだと思います」。完璧なシュートストップ。形成は逆転した。決めれば勝利の明星学園7人目。途中出場のDF阿部楓太(3年)が飄々と蹴り込んだボールが、ゴールネットを確実に揺らす。

「4人目の時は次に決められたら負けというところでしたけど、PK戦になった時点で、『もう負けても誰も悪くない』という感じだったので、『大丈夫だよ』みたいな声を掛けていましたし、キーパーの柊真が止めてくれるとみんな信じていたので、みんなも冷静に決めることができたと思います」(森)。土壇場から甦った、執念の粘り勝ち。明星学園が激闘を制して、準々決勝へと駒を進める結果となった。

「もう笑うしかないですよね。PKを蹴るヤツが転んじゃったり(笑)。でも、子どもたちが頑張ってくれたというのがもう一番で、本当に信じられないです。この明星学園がベスト8まで来るというのが考えられないことで、それこそ高輪台もそうですし、東京朝鮮もそうですし、テレビで見てきたような相手とガチンコ勝負がやれて良かったなと思います」。細井卓磨監督はそう笑いながら、一息に言い切った。

 彼らのインターハイは4月30日に始まった。支部予選初戦は調布北高に2-1で辛勝。「初戦はギリギリの勝利だったので、正直その時はここまで見えていなかったですね」という大野の言葉は偽らざる本心だろう。

 しかし、3つの白星を重ねて迎えた一次トーナメント決勝。関東大会予選3位の東海大高輪台高戦は、3-1の快勝を収めてしまう。「高輪台に勝った時に、川島(純一)先生が『必ず上に行かないとダメだよ』と言ってくれたんです。川島先生は以前からチーム作りの相談に乗ってくれたりしましたし、いろいろ話もしてきた仲なんです」(細井監督)。優勝候補の一角を崩したチームは、二次トーナメント初戦でも日大鶴ヶ丘に5-3と打ち勝つ。間違いなくチームは勢いに乗り、この日の一戦を迎えていた。

 決して煌めくタレントが揃っているわけではない。「今のウチにいる子で、中学生の時のチームでスタメンで出ていた子ってほとんどいないんです。Bチームにいたり、控えの選手だったりした子がウチに来て、そういう子たちをどう育てていくかと考えたら、みんなで一生懸命サッカーをやろうと」(細井監督)。だからこそ、全員で一歩ずつ、一歩ずつ、前へと進んできた。

 印象的だったのはベンチとスタンド。ピッチを見つめているベンチメンバーには笑顔が絶えず、スタンドの応援団は得点の時も、勝利の瞬間も、全員でその歓喜を爆発させていた。「試合に出ていない選手がああやって喜んでくれるのは、凄く嬉しいことですよね」と森が話せば、「雰囲気だけならT1、T2のチームにも負けていないと思います(笑)」とは大野。みんなでサッカーを楽しむ一体感は、明星学園の大きな武器だ。

 大石文弥コーチはこの大会を通じて、選手たちの変化を実感しているという。「ちょっと前までは『都大会に出られたら』と言っていた選手たちが、『修徳とやりたい!』とか『全国に行きたい!』と言い出してきたので、本当に勝つことで見えてきたものがあると思いますね」。

 大会7試合目となる次の相手は、関東大会王者の修徳高。細井監督は「次は本当にどうなるのか、ですよね」と苦笑を浮かべたものの、謙虚な言葉を連ねていた大野は、最後に力強くこう言い切った。「次の試合も楽しみです。ここまでだいぶ格上を食ってきていますし、“ジャイキリ”の楽しさもわかっているので、もっとそういう相手を倒していきたいと思います」。

 ここから先は未知の世界。だからこそ、もう思い切って自分たちのサッカーを貫くだけだ。明星学園がこじ開けてきた新たな歴史の扉の先に、全国大会へと続いている道がほんの少しだけ、でも、確実に、その姿を覗かせ始めている。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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