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シビアなトーナメントを勝ち抜くための「しゃあない」という寛容と一歩踏み出す勇気の希求。近江は粘る比叡山を延長後半の決勝弾で振り切って県3連覇へ王手!

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近江高は延長後半の決勝点で競り勝って県3連覇へ王手!

[6.5 インターハイ滋賀県予選準決勝 近江高 1-0(延長) 比叡山高 布引グリーンスタジアム]

 それはいいサッカーを披露するに越したことはないけれど、もちろん相手だって真剣に勝利を目指してくるのだ。いつでも自分たちの思うようなスタイルを打ち出せるわけではない。それがトーナメントとなればなおさら。ならば、割り切りながら、勇気を奮い立たせながら、目の前の試合に全力を尽くすだけだ。

「やっぱりうまくいかない部分もあります。『しゃあない』ですよ。昔はこういう時も目くじらを立てて、できていないところとかを言っていましたけど、そればっかりだとダメ出しばっかりになっちゃうから、『こういう時もあるよね』と。決定力とか攻撃のバリエーションとか、言い出せばいろいろありますけど、久しぶりに『ようやったな』と言いました」(近江高・前田高孝監督)

 焦らず、騒がず、土壇場の決勝点で粘り勝ち!令和7年度全国高校総体(インターハイ)滋賀県予選準決勝が5日、布引グリーンスタジアムで開催され、3連覇を狙う近江高と4年ぶりの頂点を目指す比叡山高が対峙した一戦は、延長後半5分にセットプレーからFW吉川愛輝(3年)が先制ゴールを挙げた近江が、そのまま1-0で競り勝ち、7日の決勝へと駒を進めている。


 立ち上がりから構図は明確。ボールを握る近江に、きっちり守りながらチャンスを窺う比叡山。その中でも「相手がどう出てくるかでビルドアップをやっている中で、引かれることは想定していたんですけど、距離感が遠くなったりして、難しかったなと思います」とキャプテンのMF中江大我(3年)が話したように、近江は3バックのDF藤田准也(3年)、DF河野翔空(3年)、DF岩見壮汰(3年)からビルドアップを繰り返し、テンポアップするポイントを探るものの、なかなか相手陣内で良い形を作れない。

 一方の比叡山は、守備時は2トップのMF谷口佳生(3年)とFW島田柊汰(3年)、左サイドハーフのFW上田大翔(3年)を相手の3バックにそのままぶつけ、右サイドハーフのMF藤本颯太(3年)が低い位置まで落ちて、「変則の4-4-2みたいな形」(林孝紀監督)で相手のアタックに対抗する、練り込んだプランを徹底。最終ラインに並んだDF高本旺汰(3年)、DF西田樹(3年)、DF高田匠(2年)、MF前田凱斗(3年)の4バックも攻守の可変に適応しながら、きっちりと堅陣を敷き続ける。

 34分は近江。左からFW松山大納(3年)がCKを蹴り込み、こぼれを中江が叩いたシュートは枠を越えるも、前半の惜しいチャンスはこの1本ぐらい。比叡山の「我慢して、少ないチャンスで仕留められたらなというプランニング」(林監督)がある程度は奏功した格好で、前半はスコアレスで推移した。

比叡山ディフェンスは複数人で素早いボールアプローチを見せる


 後半のファーストチャンスは比叡山。6分。左サイドの深い位置まで侵入し、高田が果敢に狙ったシュートはクロスバーの上へ外れたものの、フィニッシュに滲ませる得点への意欲。9分にも右サイドでFKを獲得し、藤本が蹴ったキックは近江GK岡本航太朗(3年)にキャッチされるも、少しずつ反撃の手を繰り出し始める。

 12分は近江。MF関大駕(2年)、MF村山慎波(3年)とパスが回り、中江のシュートはクロスバーの上へ。13分も近江。松山が残したボールにMF森新(3年)が枠へ収めたシュートは、比叡山GK松尾龍弥(2年)にキャッチされるも、ようやく高い位置でボールが動き出し、決定機に近い形を創出する。

 それでも比叡山の軸はまったくブレず。「比叡山っぽさは出ていたでしょう。全員で協力する、声を掛け合う、声を返す、コミュニケーション、ハードワーク、攻守の切り替え、そういったところはウチの哲学の部分です」と林監督。ドイスボランチのMF片岡唯翔(3年)とMF長谷川叶和(2年)もプレスに、セカンド回収に奔走。29分には島田がマーカーと入れ替わり、シュートまでは持ち込めなかったが、あわやというシーンを。赤と黄色の応援団を沸かせてみせる。

 とはいえ、近江も今大会無失点を続ける守備陣は安定。「練習から設計していた通りに相手が来たので、そこはしっかり対応できましたし、練習がうまく生かせて良かったです」とは河野。70分を終了して、スコアは動かず。激闘のセミファイナルは前後半10分ずつの延長戦へともつれ込む。

 9番はその瞬間を虎視眈々と狙い続けていた。PK戦もちらつき出した延長後半5分。近江は左サイドでCKを獲得。キッカーの松山が丁寧に、鋭く蹴り込んだ軌道に、ニアへと飛び込んだ吉川は決死のヘディング。ボールはゴールネットへと到達する。

「自分はインターハイ期間中にあまり試合に出られなくて、『今日は自分がゴールを決めてやる』という気持ちは持っていたので、メッチャ嬉しかったです」と笑う、途中出場のストライカーが決め切った一撃で勝負あり。比叡山の奮戦、及ばず。近江が粘り強く勝利を引き寄せ、3連覇へ王手を懸ける結果となった。




 延長が始まる前のこと。近江のキャプテンを任されている中江は、チームメイトが醸し出す空気感に一定の手応えを感じていたという。「もう1点の勝負だと思ったので、『絶対に気持ちを切らさないぞ』『もっと前から行こう』とも言っていました。少しは焦りもありましたけど、あとは決めるだけみたいなシーンも多くあったので、最後のところをしっかりやれば大丈夫かなと思っていました」。

 指揮官も自身が感じたチームの雰囲気を、こう口にする。「PKまでは行きたくないですし、『1本獲りたいな』というのはありましたけど、そんな簡単には獲れへんし、絶対的な力があれば崩せたり、いろいろなことができると思うんですけど、これが今の現状やから、それに対して一喜一憂することなく、急には良くならないので、淡々とじゃないですけど、少しずつやるしかないんですよ」。

「今日は試合が終わった後に、選手が喜び切れていない顔つきをしておったから、ちょっとほめたんですよね。彼らもハッキリ言えばふがいない戦いだったというのはわかっていると思うんですよ。でも、それをつつき出すとキリないから、まあ『しゃあない』です」。

 昨年、一昨年と2年続けてのインターハイ予選制覇。加えて一昨年度は高校選手権で全国準優勝を経験するなど、間違いなく周囲から向けられる近江への視線も以前とは変わってきている中で、だからこそ選手たちに持っていてほしい部分を、指揮官はこんなふうに表現する。

「選手に言ったのは、『今日一番大事なのは「やろう、やろう」とする勇気や』と。まだ一歩を踏み出せないところもあるから、そこを僕らが背中を押してあげたいですし、躍動する姿を見たいなと。全国に行くに越したことはないんですけど、それ以上にこのインターハイの経験を踏まえて、プリンスでも変わらんといけんし、その先の選手権に繋げんとあかんしとなると、どっかで勇気を出さんと。まだなんかサイドブレーキを引いちゃって、縮こまってるから、決勝に向けて勇気を押し出せるようにやっていきたいと思います」。

 もちろん選手たちもその“一歩”の大切さは、十分に理解している。「今年はあまりうまくいっていない時に力を出せないことが多いですし、まだ思い切ったプレーが少ないんですけど、そういうプレーで流れが変わることも多くあると思うので、決勝はそういうプレーもしていけたらなと思います」(中江)「後ろはとりあえず無失点で抑えられたのは良かったと思いますし、準決勝ということで結果にこだわっていたので、勝ちを持ってこれたのは良かったですけど、自分たちからもっと仕掛けていって、立ち上がりから相手を飲み込むようなプレーで、決勝に挑みたいです」(河野)

 求められるのは『しゃあない』と割り切る寛容さと、ここぞという時に一歩アクセルを踏み込む勇気。県3連覇を真剣に目指す湖国の海賊たちは、自分たちにベクトルを向け直し、ファイナルの舞台へ堂々と挑む。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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