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「生きてきて一番キツかった試合」の先にあった悲願の青森制覇!八戸学院野辺地西FW藤田律主将が「去年のキャプテン」からもらった「勇気のメッセージ」

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八戸学院野辺地西高を逞しく牽引するキャプテン、FW藤田律(3年=八戸FC出身)

[6.2 インターハイ青森県予選決勝 青森山田高 1-1 PK5-6 八戸学院野辺地西高 プライフーズスタジアム]

 ずっと、ずっと、目指し続けてきた『打倒・青森山田』。それがとうとう実現したのに、みんなの笑顔や涙を見て、視覚では確かにわかっているものの、心が全然追い付いてこない。これは、現実?それとも、夢?本当にオレたちは勝ったのか?

「まだ全然実感がないですね。やっとちょっとずつ『本当に勝ったんだな』というのは周りの人たちの反応も含めて感じますけど、まだフワフワした感覚がありますね。正直、『本当に勝ったのかな?』みたいな感じです」

 悲願とも言うべき初の青森制覇を達成した、八戸学院野辺地西高(青森)を牽引するキャプテン。FW藤田律(3年=八戸FC出身)は夢にまで見た歓喜の瞬間を迎えた時、その場に突っ伏し、あふれてくる涙を抑え切れなかった。


「生きてきて一番キツかった試合でした」。

 終わったばかりの試合を振り返って、藤田は率直な感想を口にする。インターハイ予選決勝。八戸学院野辺地西の前に立ちはだかるのは、もちろん青森山田高。ここまでは大会24連覇中。県内の公式戦も418連勝中という絶対王者を前に、彼らは何度も涙を呑んできた。

 試合前の円陣で「70分後に歴史を変えるぞ」と声を掛けて臨んだ一戦。「山田さんは前半の15分とか特に前に強く来ることはわかっていました」と藤田。だからこそ、まずは立ち上がりが重要。その共通認識の下、いきなり前半2分に掴んだ決定機は生かせなかったものの、7分には藤田も絡んだ流れからMF阿部莞太(3年)が先制ゴール。八戸学院野辺地西は早々にアドバンテージを握る。

「うまく点が獲れたんですけど、獲った後は山田ももっと来たので、1個1個集中が切れるとやられるという気持ちはあって、ずっと緊迫していました」と藤田も話したように、ビハインドを負った青森山田は得意のセットプレーを中心に、圧力を強めてゴール前へと迫ってくる。

 ただ、八戸学院野辺地西の選手たちには“半年前の経験”があった。その効果をキャプテンはこのように口にする。「半年前の新人戦で山田とやった時に、『思い切ってやれば、意外と自分たちもある程度はやれるな』と感じてはいたんです。その『意外と』が大事で、1つ前を向くとか、1つ運ぶとか、1つ走るとか、そういう細かい部分なんですけど、そういうところを積み重ねていくと自分たちにもやれる感覚が出てくるので、それを今日は本気で思い切りぶつけて戦えました」。新人戦の彼らは、ただ負けたわけではない。明確に渡り合える部分もあるという肌感覚を得て、この日を迎えていたのだ。



 それでも、青森山田にも意地がある。後半19分。ロングスローの流れから同点ゴール。「中に入っている時は必死で、本当にキツかったです」と攻守に走り続けた藤田は、この失点直後に交代を命じられ、後輩のFW里村斗望(2年)にバトンを託し、ピッチを後にする。

 仲間が懸命に戦っている姿を見て、胸が熱くなる。みんなが歴史を変えようと、120パーセントの力を出し尽くしている。オレにもできることはあるはずだ。「交代してからは、もっとオレが鼓舞すればみんなの士気が上がって、勝てるものも勝ててくるなと思っていたので、自分はキャプテンとしてふさわしい振る舞いを考えていました」。そう話す声は、もうガラガラに嗄れていた。

 試合は延長も含めた90分間を戦っても、決着はつかず。優勝の行方はPK戦へと委ねられる。みんなで作った円陣。PKを蹴ることは叶わない藤田は、仲間の表情を見て、確信した。「選手たちは決めに行く目をしていたので、『これは絶対勝てる』と思って、信じて見ていました」。

 もつれ込んだ7人目。先攻の青森山田のキックを、GK喜村孝太朗(3年)が弾き出す。後攻の八戸学院野辺地西。DF中野渡琉希(3年)が冷静に蹴り込んだキックが、ゴールネットを揺らす。ピッチサイドから飛び出していくオレンジの選手たち。藤田はその場に突っ伏し、あふれてくる涙を抑え切れなかった。

PK戦で勝利を掴んだ直後。藤田はピッチサイドに崩れ落ちる

突っ伏す藤田に駆け寄るチームメイトたち


「目で見て、勝ったことはわかるんですけど、『え?どういうこと?』みたいな。もう混乱しました。よくわからなかったです」。

 仲間たちが駆け寄ってきて、声にならない声を掛けられる。それでもまだ、自分たちが青森山田を倒したことも、青森県の頂点に立ったことも、全国大会の切符を掴んだことも、実感が伴わない。表彰式が終わり、スタンドの応援団の前で一緒に勝利の歌を歌ったころから、ようやくジワジワと喜びが押し寄せてくる。気づけば、もう涙が止まらなかった。




 実はこの試合を前に、藤田の元には前任のキャプテンからメッセージが届いていた。去年はインターハイ予選、高校選手権予選とともに決勝で青森山田に敗れ、悔し涙に暮れた堀田一希(現・流通経済大)は、責任感の強い“今年のキャプテン”に対し、こんな言葉を掛けたという。

「結構毎試合メッセージを送ってくれるんですけど、今回は『オマエは硬くなるから、普通に、冷静にやれよ』と言われました。僕は責任感が人一倍強い性格なので、『ここで負けてしまったらどうしよう……』とか、あまり考えないようにはしていたんですけど、堀田さんの言葉で肩の重荷が取れたというか、その感じで勢い良く試合に入っていくことができました」(藤田)

 絶対王者に挑むキャプテンの気持ちは、それを経験したキャプテンにしかわからない。自分の性格まで把握して、プレッシャーを感じすぎないようなメッセージを送ってくれた堀田の気遣いが、藤田はとにかく嬉しかった。

 打倒・青森山田は果たした。悲願の全国切符も手に入れた。ここから先は未知のステージ。でも、もう藤田をはじめとした選手たちの覚悟は、とっくに定まっている。青森代表として、堂々と晴れ舞台に乗り込んでやる。

「『青森の高校サッカーと言えば山田でしょ』となっていると思うんですけど、今まではそれが世の中の常識みたいになっていたと思うんですよ。今回でそういうものを覆せたので、全国にも影響を与えていけると思いますし、自分たちが今度は全国で勝っていくために、少ないチャンスを決め切っていけるチームになっていきたいと思っています」。

「全国でも1回戦で負けてしまっては、『山田の方が良かったね』となってしまうと思うので、自分たちが今日以上のゲームをして、野西の底力を見せたいです。そうすれば野西も全国に認められるはずですし、山田さんに勝った後の自分たちの結果にフォーカスして、より一層頑張っていきたいなと思っています」。

 真面目に、コツコツと努力を積み重ねてきた、信頼されるリーダー。八戸学院野辺地西の精神的支柱。藤田律は新たな歴史を築き始めた青森王者を束ねるキャプテンとして、全国のピッチでも今までと変わることなく、限界まで力の限り、走り抜く。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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