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1-10の惨敗から一歩ずつ前に進んできた確かな成長の証明!修徳は80+2分に同点被弾も80+6分の決勝ゴールで2012年以来の全国切符!

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修徳高は劇的勝利で12大会ぶり10回目の全国切符!

[6.14 インターハイ東京都予選準決勝 修徳高 3-2 國學院久我山高 AGFフィールド]

 逆境、上等。開始1分で先制されても、後半アディショナルタイムに追い付かれても、こんな晴れ舞台で戦える今をとにかく楽しむだけ。ベンチからも、スタンドからも、一緒に戦ってくれる仲間たちが見守っている。ピッチに立っているからには、もう自分たちがやるしかない。絶対に諦めない。オレたちが、必ず勝つ。

「難しい試合になるし、良い時と悪い時があるけれど、今与えられた環境と舞台を思い切り楽しめというふうに言っていますし、メンタルコーチからも『難しい時や厳しい時こそ、逆に面白いじゃないか』みたいな話もあったので、『もうやることをやるだけだ』とはみんな思っていたと思います」(修徳高・土屋慶太監督)

 80+6分に奪い切った決勝点で、12大会ぶりの全国切符!令和7年度全国高校総体(インターハイ)東京都予選準決勝が14日、AGFフィールドで開催され、修徳高國學院久我山高が対峙した一戦は、後半40+2分に國學院久我山が追い付いたものの、40+6分にMF袖山斗也(2年)が直接FKを沈めた修徳が、3-2で勝利。2012年大会以来となるインターハイ出場を手繰り寄せた。


 試合はわずか開始53秒で動く。國學院久我山はDF野上遼太(3年)がシンプルなフィードを送ると、相手DFが処理にもたついた隙を見逃さず、FW坂東輝一(3年)はかっさらったボールをゴールへと流し込む。電光石火。1-0。早くも國學院久我山が1点をリードする。

國學院久我山は開始1分でFW坂東輝一が先制ゴール!


 いきなりビハインドを背負った修徳だったが、「立ち上がりにあれだけはしないようにとみんなで言っていたんですけど、選手たちはそのあともポジティブにプレーをしていたので、僕も『まだまだ全然行けるな』という気がしていました」と土屋慶太監督が話せば、「みんな笑っていましたね。『陽大、取り返せよ』という声も出ていて、そこまでヤバいなという感じではなかったです」と話したのはキャプテンのMF澤田琉偉(3年)。チームに沈んだ様子は微塵もなく、すぐにアグレッシブな姿勢を取り戻す。

 すると、同点ゴールが生まれたのは15分。MF東山輝瑠(3年)のフィードにFW新翔友(3年)が競り勝つと、抜け出したFW高橋虎太郎(2年)は左足で丁寧にシュート。ボールは右スミのゴールネットへ到達する。「アイツは前回は決定機を何本も外していて、『今週は絶対決める』と言って一生懸命トレーニングをやっていたので、有言実行してくれましたね」と澤田も明かした、2年生ストライカーの“有言実行弾”。修徳が力強く追い付いてみせた。

修徳はFW高橋虎太郎(18番)が同点ゴール!


 アドバンテージが霧散した國學院久我山も、20分にビッグチャンス。FW加藤瑛汰(3年)のパスからキャプテンのDF藤田隼(3年)が右クロスを上げ切り、ファーに潜ったFW小笠原怜(2年)のヘディングはわずかに枠の上へ。21分にも小笠原を起点に、左からMF伊東航(3年)が狙ったミドルは修徳GK廣田大和(2年)にキャッチされるも、打ち出した勝ち越しへの意欲。以降はやや修徳が押し気味に進めながら、前半の40分間は1-1で終了した。


 次の主役は、名誉挽回に燃えるセンターバック。後半6分。右サイドで修徳が獲得したFK。袖山がニアへ蹴り込んだキックへ、突っ込んだDF久保陽大(3年)が合わせたヘディングは、ニアサイドのゴールネットへ滑り込む。「マジで1失点目は自分がやらかして、『ああ……』と思ったんですけど、すぐに切り替えられましたし、アレは僕がターゲットで決めるだけなので、練習通りでした」と笑った久保の逆転ゴール。2-1。修徳が一歩前に出る。

逆転ゴールを決めた修徳DF久保陽大が気合いのガッツポーズ!


「下がったら絶対にやられる相手なので、行けるところまで行く」(土屋監督)マインドの修徳が狙い続ける次の1点。9分。東山のパスから新がGKもかわしてゴールに迫るも、よく戻った野上が懸命にクリア。29分。袖山が左へ展開し、FW舘美駿(2年)が枠へ収めたシュートは國學院久我山GK鎌田夏生(3年)がファインセーブで回避。30分。右から高橋がロングスローを投げ込み、投入されたばかりのDF秋元大耀(3年)が叩いたシュートはクロスバーにヒット。惜しいシーンを創出するも、3点目は奪い切れない。

 1点差のままで突入したアディショナルタイムは5分。双方が最後の力を振り絞る中で、オレンジを纏った戦士たちが意地を見せる。40+2分。左サイドの高い位置で粘って押し返した流れから、MF田島遼太郎(3年)が右へ展開すると、こぼれを拾った藤田は躊躇なく右足一閃。相手DFをかすめた軌道は、左スミのゴールネットへ鋭く突き刺さる。準々決勝後に「次の試合は自分が攻撃でも、守備でも貢献して、全国に行きたいと思います」と言い切っていたキャプテンが大仕事。2-2。國學院久我山が土壇場でスコアを振り出しに引き戻す。

土壇場で國學院久我山はキャプテンのDF藤田隼が執念の同点弾!



 16番は意欲をたぎらせていた。「自分のプレーから失点に繋がってしまって、それをどうにか取り返したいと思っていました」。40+6分。袖山が倒されて得た右FK。スポットにはその袖山と澤田が立つ。「斗也に『どうする?中に入れる?』と聞いたら、『いや、直接狙う。オレが蹴って決める』と言ったので、『おお、行け!』と」(澤田)

 もう最初から自分で決めるつもりだった。ゴールしか見ていなかった。短い助走から袖山が右足で蹴り込んだボールは、クロスバーの下側を叩いて、ゴールへと吸い込まれる。その瞬間、スコアラーは大応援団の方へ向かって走り出す。「やっぱり応援してくれたチームメイトの方に行きたくなって、走り出しちゃいました。もう本当に最高の景色でした」。






 ファイナルスコアは3-2。「延長戦の準備もしてはいたんですけど、最後までやり切るというところで、最後にFKを取った時に、『これは入るかな』とベンチで話をしていたら決めてくれたので、最後までそういう何かが起こるなという希望を持ちながら、ベンチで見ていました」(土屋監督)。大願成就。80+2分の失点にも折れず、80+6分に得点を奪い切った修徳が鮮やかに競り勝って、2012年以来となる夏の全国切符を逞しくもぎ取る結果となった。




「この新チームに変わった時に、大成とリーグ戦をやったんですけど、その試合は1-10で負けたんです」(土屋監督)

 2024年11月24日。高校選手権の予選敗退を受け、この日から新チームに体制を移行し、1,2年生だけで臨んだT2(東京都2部)リーグの大成高戦。新たなチャレンジに胸を躍らせて戦った修徳は、1-10という信じられないスコアで、完膚なきまでに叩きのめされる。

「点差ほどそんなに差があるとは思わなかったですけど、切り替えとかそういう大事なところができていなかったので、スカスカにやられましたね。まずはそういうところからしっかりやろうということで、新チームは始まりました」(澤田)

 その1週間後。修徳の選手たちは奮起する。東海大高輪台高と対戦したT2リーグの試合は、1-1の引き分け。その時、指揮官はこういう話をしたという。「大成に負けた時は緩いところがたくさんあったんですけど、1週間で現実を見つめて、切り替えを徹底したことで、1-10と1-1というまったく違う結果が出たんです。そこで『オマエら、できるでしょ』と。『オマエら次第で、このチームはどこに勝つこともできるし、どこにも負ける可能性はある』という話はしました」。

 今大会も際どい勝負を潜り抜けてきた。一次トーナメント決勝では岩倉高に2-1で辛勝。準々決勝でも昨年度の高校選手権全国8強の堀越高を、PK戦の末に撃破。この日も後半アディショナルタイムに追い付かれるシビアな展開を、執念でモノにした。

「本当にあの『1-10』からここまで来られるとは想像していなかったですけど、彼らは本当に1個1個やってきてくれましたし、よくここまで来たなという感じですね」(土屋監督)「最初は『1-10』の試合から始まって、『オレらはこのままじゃダメだ』と思った中で、全国に行くならまだまだやらなきゃいけない部分があると、みんなで努力しながら、慶太さんも含めていろいろな人の力ももらって、ここまで来れたと思います」(澤田)

 謙虚であること。自分たちの力を過不足なく出し切ること。常に成長を目指すこと。当たり前のことを当たり前に続けてきたことで、この半年あまりの時間を経て、気づけば修徳の選手たちは、全国大会を真剣に狙える立ち位置まで一歩ずつ、一歩ずつ、駆け上がってきたのだ。

 ここから飛び込むのは未知のステージ。それでも、彼らは期待しか抱いていない。「もうやってみなきゃわからないですけど、やれるだけやりたいです。ここまで来たらみんなやる気満々ですし、久しぶりの修徳の全国を味わって、楽しんできます!」(久保)「自分は小学生のころから、この修徳に10年以上お世話になっているので、恩返しの意味でもしっかり戦いたいですし、一戦一戦大事にして、修徳の価値も全国に広めたいですね」(澤田)

 いつだって、やるのもやらないのも自分たち次第。福島の空に轟かせるのは、いつもの『葛飾ラプソディー』。明るく、エネルギッシュに、堂々と。修徳が全国の晴れ舞台へ、いよいよ帰ってくる。




(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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