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アディダスのスパイク開発者に直撃インタビュー!『エックスゴースト』の開発秘話とは!?

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アディダスのシニアプロダクトマネージャーのPHILIPP HAGEL氏


 アディダスは、サッカースパイク『エックス』シリーズの最新モデル『X GHOSTED(エックスゴースト)』を9月2日に全国のアディダス商品取扱店で発売した。爆発的なスピードをもたらすことをコンセプトに軽さや加速性にフォーカスしたスパイクである。

 新スパイク『エックスゴースト』についてスパイクマイスターKoheiがアディダススパイクの開発責任者のPHILIPP HAGEL(フィリップ・ヘーゲル)氏にインタビューを実施。開発秘話、機能性の特長、知られざる進化ポイントなど、新スパイクの魅力を存分に語ってもらった。


Kohei エックスゴーストを開発する中で一番苦労した点はどこですか?

ヘーゲル氏 エックスゴーストを開発する中で3つのポイントを重要視しました。「スパイクの見た目も速く見えること」「履き心地に軽さ・速さを感じれること」「最速の自分自身になれること」。それらを実現するために3つの要素を組み合わせています。

 一つ目の要素は"フルロスキン"という新しいアッパー。見た目でも速さやスピードを連想させるスパイクを造りたかったので、アッパーに使用している素材はエックスシリーズ史上最軽量&最薄のもので、ボールタッチに軽量感や素足感をもたらすことを追求しました。

 エックスを愛用してくれているプロフットボーラーや一般のフットボーラーの方々とお話しした時に「ボールタッチはなるべく素足に近い感覚で感じたい」という要望が多くあり、できるだけ自分の第二の肌かのようなフィット感が得られるアッパー材を目指しました。

 二つ目の要素はバキュームフィットをもたらす"シルエット"。アッパーが肌に密着した状態でプレーでき、繊細なボールタッチ・ボールフィーリングも感じられるアッパーに設計しました。そして実際に着用しているときに何か違和感を感じないかどうかという、フィッティングにも配慮しています。

 三つ目の要素はカーボンプレートを搭載している"アウトソール"。実はエックスゴーストの開発において最も苦労した点もこのカーボン搭載の新ソールの開発です。サッカーの動きに特化して新しくカーボンプレートを搭載したので、実際に力強く蹴り出して爆発的なダッシュ・スプリントを発揮したいときにこのカーボンファイバープレートが皆さんの助けになってくれると思います。


Kohei アディダスのランニングシューズ『アディゼロプロ』に搭載されているカーボンプレートとサッカースパイクの『エックスゴースト.1』のカーボンプレートではどういった違いがありますか?

ヘーゲル氏 カーボンプレートの材質や、カーボンを提供してくれている提携企業はまったく同じです。ただしランニングシューズの『アディゼロプロ』ではランニングの動きに合わせて設計していて、カーボンの反発性とソールの屈曲性のバランスはあくまでもランニングシューズ用に設計しています。一方、エックスゴーストのカーボンプレートはサッカー特有の様々な動きに合わせて設計しています。

Kohei エックス20ではなくエックスゴーストの名称になった理由は?

ヘーゲル氏 エックスゴーストは英語の表記だと『X Ghosted』という過去形の表記です。これは二つの意味があるダブルミーニングとなっています。亡霊のように消えるように速く動く様や、相手にとってブレて見えてしまうぐらい速く動く様からインスパイアを受けているのと、英語でGhostedという過去形の表記にすると"何かがスッと消えてしまった"という意味があるので今回エックスゴーストという名称を採用しました。

 『プレデターミューテーター』に続いて、エックスも『エックスゴースト』へ。単純に数字だけでなく、それぞれのスパイクの特徴やコンセプトに合うネーミング、そのモデルに伴う感情や気持ちの面も盛り込んでスパイクの名称を決定していく流れとなっています。

Kohei なるほど。それでは今後『ネメシス』や『コパ』も20.1や21.1とかではなく、何か単語が付加される可能性があるということですか?

ヘーゲル氏 現時点ではまだ何も言えません(笑)。半年後~1年後ぐらいにそれに関するお話を皆さんにプレゼンテーションできる日がくるのを楽しみにしています。常に私たちは限界に挑戦して限界を超えるように、イノベーションを重ねてユーザーがより良いパフォーマンスを発揮できるように日々プロダクト開発に励んでいます。是非、今後も期待してください。


Kohei エックスゴーストのトップモデルを購入するとシューズキーパーが付属されるようになりましたね。その理由は何ですか?

ヘーゲル氏 シューズキーパーは付加価値のサービスとして提供することにしました。見ての通りアッパーは半透明で軽量ですので、耐久性が低そうに見えてしまいがちです。実際にはアディダスの厳格な耐久テストの基準は満たしているので耐久性が低いということはありません。

 付属のシューズキーパーを使用することでアッパーの型崩れを防止することができ、そのシューズキーパーも最初から付属されていれば特別感を出すことができると思い、今回エックスゴーストのトップモデルにはシューズキーパーを付けています。

Kohei 今回エックスゴーストのアッパーはかなり極薄で軽い分、耐久性が心配です。耐久性は大丈夫ですか?

ヘーゲル氏 良い質問ですね。実際に見た目が薄くて軽量なので、すぐに破れてしまったり脆いのではないかと心配になると思うのですが、そんなことはありません。他のサッカースパイクと同じように耐久テストをクリアしています。常に軽さや薄さの限界にはチャレンジしていますが、実際にプレーするクオリティを犠牲にしたプロダクトを市場に出すことはあり得ませんので、アディダスの品質基準をしっかり満たしたものになっています。


Kohei 開発段階のプロトタイプのテスト履きで最も多くフィードバックをもらったプロサッカー選手は誰ですか?その中で印象的だったフィードバックの内容や意見は何ですか?

ヘーゲル氏 まず一般的な開発手順からお伝えすると、アイデアからスケッチを描き、そこから最初のプロトタイプを製作します。そのプロトタイプやサンプルの修正を何回か繰り返して、プレーができるレベルまで持っていけた段階で、プロクラブのアカデミーの選手たちに履いてもらってテスト履きを行います。対象はバイエルンアーセナルマンチェスター・ユナイテッドレアル・マドリーなどの選手たちです。

 そこでプロトタイプのスパイクが実際どのようにパフォーマンスするのか、どのような要素が好まれるのかについてフィードバックを集めますが、ここまでが第1段階です。
 私たちはそこからさらに修正を加え、トップレベルの選手にもテスト履きをしてもらいます。今回エックスゴーストのテスト履きに協力してもらった選手はモハメド・サラー(リバプール)、ガブリエル・ジェズス(マンC)にも意見をもらいましたし、他にもDFアクラフ・ハキミ(インテル)やアジアの選手だとソン・フンミン(トッテナム)など、本当に多くの選手に試してもらうことができました。

 初めて彼らにエックスゴーストを見せて、これが私たちの新しいプロダクトで、こういった素材で、アッパーで、カーボン搭載アウトソールなんですよと説明した時には、トップレベルの彼らがとても驚いてくれたのを覚えています。その瞬間がすごく特別なものに感じられました。


Kohei 重量数値に関しては『エックスゴースト.1 FG』も前作の『エックス19.1 FG』もほぼ一緒ですが、実際に履き比べてみると『エックスゴースト』の方がより軽く感じました。その要因は何だと思われますか?

ヘーゲル氏 心理的な効果もあると思います。シューズにはカーボンなどのテクノロジーを採用していますが、半透明の素材を使って、見た目も軽く見えるようにしています。皆さんもこのシューズを見ただけで「これは軽くてプレーを邪魔しないだろうな」とポジティブに感じてくれると思います。このように心理的にポジティブに働くことでプレーヤーは自信をもつことができ、実際により速いプレーをすることができるのだと、そう考えています。

Kohei 前作の『エックス19.1』では"鷹の爪を模した"形状の履き口を採用し、それが特長の一つでもあって気に入っていた選手も多かったと思います。今回『エックスゴースト』でローカットの履き口を採用したのはなぜですか?

ヘーゲル氏 今作の『エックスゴースト』のコンセプトは"ミニマリズム"です。できる限り不要なものを削ぎ落して、最低限のものを搭載するという考え方で造りましたので、鷹の爪の履き口もローカットに変更しました。ただフィット感や安定性を犠牲にしないように配慮しています。

Kohei マニアックな話になりますが、前作の『エックス19.1』までは履き口や甲の繋ぎ合わせのところにステッチによる接合があったのですが、『エックスゴースト』ではそのステッチによる接合が無くなり、アッパーのパーツがすべて熱圧着による一体化構造になっています。その設計にこだわった理由は何ですか?

ヘーゲル氏 さすがサッカースパイクのエキスパートだけあって、細かい部分を見ていますね(笑)。おっしゃる通り、アッパーのパーツは熱圧着で一体化していますので一切糸がいらない仕様になっています。

 このスパイクは見た目も速く、本当に最速になるという意味を込めていますが、それだけではありません。これからのフットボールブーツ(サッカースパイク)がどのように進化していくのか、またどのようなテクノロジーだったらイノベーションが可能か、というのを示すプロダクトでもあります。そういう意味で細部にもこだわって開発しました。

 あらゆることが可能であるということをユーザーに見せる意味でも、さまざまな形でサッカースパイクの可能性を伝えていけたらいいと思っています。透明でも透明じゃなくても、何かクレイジーな効果が出せるものでも。いろいろやりたいですね。

左が『エックスゴースト』右が『エックス99.1』

Kohei エックスゴーストのアッパーと、過去にリリースされたリミテッドモデル『エックス99.1』の半透明のアッパーは素材が似ているような気がします。『エックス99.1』などの開発で得た技術や知見をエックスゴーストに活かした部分はありますか?

ヘーゲル氏 おっしゃる通りです。『エックス99.1』や6年前にリリースした『F50アディゼロ99グラム』もインスピレーションを得たスパイクになります。今回速さを出すためにアッパーに半透明性を採用したいと思いましたが、このインスピレーションを実現するために過去のスピードブーツの開発で培った技術を活かし、私たちが改善を重ねてきた多くのナレッジ(知識や知見)が今の製品に活かされているのです。

F50アディゼロの2014年モデル

Kohei いまだに『F50アディゼロ』は根強い人気があります。僕も『F50アディゼロ』ファンの1人です(笑)。アディダスのスパイク開発者(シニアプロダクトマネージャー)からみて、『F50アディゼロ』はどういう存在ですか?

ヘーゲル氏 今回の新作『エックスゴースト』や過去の『エックス15~19』そして『F50アディゼロ』は、アディダスフットボールにおけるスピードブーツのレガシー(財産)です。そういう意味で1つのファミリーのようであり、スピードブーツの歴史だと言えるでしょう。これらの開発で得た技術や知見のすべては、これからの私たちのシューズの未来と、より良い開発を支えてくれるものです。

Kohei では、今後『F50アディゼロ』の復刻版が発売される可能性はありますか?(笑)

ヘーゲル氏 ・・・(笑)。ここ数年私たち開発チームもさぼっていたわけではないのですよ(笑)。詳しいことはまだ言えませんが、これからもエキサイティングなプロダクトを出していくということはお約束します。

アディダスのシニアプロダクトマネージャーのPHILIPP HAGEL氏

Kohei それでは最後に、開発者視点で『エックスゴースト』をどんなプレーヤーに履いてほしいか、メッセージをお願いします!

ヘーゲル氏 もっと速くなりたいと思うすべてのプレーヤーに履いてほしいです。アップダウンを求められる後方のディフェンダーでも、もちろんストライカーでも、スピードが必要なすべてのプレーヤーに着用してもらいたいと考えています。エックスゴーストはそんなプレーヤーのために開発しました。

 サッカーの試合は近年スピード感がアップしていますよね。走るスピード、判断のスピード、ボールをさばくスピードなどあらゆる面でスピードが求められています。だから、"このポジションにはこのスパイクを"と限定するのではなく、"スピードを求めるすべての選手にこのスパイクを"履いていただきたいです。

 サラー、ジェズス、ソンのようなストライカーでも、後方のマルセロ、ハキミのようなディフェンダーでも、どんなポジションでもエックスゴーストと組み合わさればよりスピードを出せるということをぜひ体感してください。

Kohei 本日はありがとうございました。

ヘーゲル氏 こちらこそありがとうございました。素晴らしい質問をいただけて光栄でした。楽しかったです。プロダクトの売上も大事ですが、それよりも今はこのコロナ禍の中、世界中すべての人が安全で健康でいることが大事だと思っています。また世界中のフットボーラーが安心・安全にフットボールを楽しめる日が来ることを願っています。


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