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総理杯で2年連続の前十字靭帯損傷…明治大FW木戸皓貴は静かに再起を誓う

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二度目の大怪我を負ってしまった明治大FW木戸皓貴(中央)

[10.15 第90回関東大学リーグ第18節 明治大2-1慶應義塾大 江戸陸]

 ピッチへ立っているはずだった。優勝決定の瞬間、背番号10はスタンドにいた。明治大のFW木戸皓貴(3年=東福岡高)は今夏の総理大臣杯決勝で左膝前十字靭帯損傷の大怪我を負い、現在はリハビリ中。優勝のかかった慶應義塾大戦では応援に訪れ、チームの関東リーグ制覇を見届けた。

 昨夏の総理大臣杯2回戦で右膝前十字靭帯損傷の大怪我を負い、約9か月のリハビリを経て、今年5月に公式戦へ復帰。徐々に調子を上げると、前期リーグでは3得点を記録。存在感を増しながら、8月には総理大臣杯を迎えた。

 夏の大学日本一決定戦。木戸は得点こそなかったものの、クロスバー直撃のシュートを放つなど、明治大の攻撃を牽引。チームは順調に勝ち進み、順天堂大との決勝へ進出した。そこで悲劇が待っていた。

 1-0の前半24分、相手DFとの接触で左膝を痛めた。「最初に倒れたとき、去年ほどの痛みはなくて、できるなって思いました。アドレナリンも出ていたので」。歩くこともできたため、すぐにピッチへ戻った。しかし約5分ほどプレーした後に自ら交代を訴えた。

「出来ると思ったんですが、膝が抜けたので、その瞬間に“わかりました”」。大怪我をした右とは逆足だったが膝周辺の違和感などから、軽症ではないとはっきり感じたという。それでも交代後も気丈に仲間を鼓舞。明治大は前半の1点を守りきり、勝利。総理大臣杯優勝を遂げた。

 左膝へテーピングを施し、ベンチで優勝の瞬間を迎えた木戸。セレモニー後にはスタンドの仲間と喜びを分かち合い、日本一を噛み締めた。そんな歓喜のときを終え、待っていた現実は厳しすぎるものだった。

 高校時代にお世話になっていた地元・福岡の病院で左膝の診察を受けた。結果は『左膝前十字靭帯損傷』。約1年前と同じ大怪我だった。約9か月のリハビリを経ての復帰から、わずか3か月で起きた悲劇。

「復帰からようやく自信を持ち始め、調子も上がってきた時期だったので。そういうときに怪我をしてしまって、一気に自信をなくしてしまいました。誰の顔も見れないくらいに最初は落ち込みました。(東京へ)帰りたくないと思って……」

 それでも木戸を支えたのは、明治大の仲間たち。「みんなからの連絡やスタッフ陣から電話ももらって、支えられているなと思ったら、前を向けるようになって。“ここで終わるような選手じゃない”と自分でも思っているので。またここで切り替えて、東京に帰ったら弱音を吐かずに前向きにいこうと決めました」。これ以上ないほどに心身ともに傷を負ったが再起を誓った。

 9月14日に手術を受け、約2週間ほど入院。病院のベッドでは試合結果を追った。「サッカーはしたいけどできないので、去年同様にしっかりチームに貢献しようと」。グラウンドには行けなくても、明治の一員としてともに戦うべく病床から応援した。

 そして10月15日の雲ひとつない空の下、明治大の優勝がかかった慶應義塾大戦が行われた。「独りになると色々なことを考えてしまうんですが、こうやって試合を見にきたり、練習している姿をみると元気をもらえたり、やる気も出るんです」。木戸はスタンドで声を張って応援した。

 チームは前半15分にセットプレーから失点も、同28分に同点弾を奪うと、終了間際の45分に逆転に成功。後半もそのまましのぎ、2-1で勝利した。そして6年ぶり4度目のリーグ制覇。試合後には部員全員で歓喜に沸いた。スタンドの最前列に立った木戸は笑顔を弾けさせていた。

 仲間の戦いを見届けたFWは「素直に嬉しかったです。サッカー人生で二冠を取ったことがないので。嬉しかった。大臣杯くらいから逆転とかの勝負強さが身についていると信じていたし、後期に入って逆転の試合もあったので、先制されても焦る感じではなかったですね」と微笑む。

 これからも孤独なリハビリは続いていく。それでも木戸はひとりじゃない。明治大の仲間たちがグラウンドで10番の帰りを待っている。過去に大怪我を負い、鮮やかな復活劇をみせてくれたストライカー。きっと今度もよりたくましくなって、ピッチへ戻ってくると誰もが信じている。

 木戸は言う。「ぶれずに自分の将来から逆算して、しっかり自分の道を進んで。時にはチームメイトに元気をもらいながら、それを来年恩返しできるように……。強くなって帰ってこないといけないです。それが使命だと思っているので」。

 復帰目標は来年の5月頃。現在大学3年生の木戸にとって、来季は大学ラストイヤーとなる。「大学生活でこの怪我を二回経験する人なんて、そんなにいないし。絶対にいい経験になれるように、この経験が無駄にならないように。万全の状態で復帰して、最後に4年生として結果を残して、この先ずっとサッカーができるように。この期間を無駄にしないように頑張りたい」と静かに誓った。

 今季の明治大のスローガンは『一心』。どんなときも仲間たちと心はひとつ。辛く長いリハビリとなるが、きっとその先には再び紫紺の10番を身にまとい、ピッチを駆ける日がやってくる。二度の苦しみを乗り越えた先に。仲間たちと見る最高の景色が待っているはずだ。

(取材・文 片岡涼)

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