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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第53回:一変(駒澤大:深見侑生)

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駒澤大DF深見侑生

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 ストライカーである深見侑生が、自陣ゴール前を守る姿を見たのは昨年の年始だった。1年半が経ち、今度はディフェンダーの深見が攻め上がる光景に出くわした。関東大学リーグ第9節、駒澤大の右SB深見は果敢に上がってクロスを送ったが、ベンチからは守備の指摘を受けていた。

「とにかく守備をやれと言われているんですけど、前が見えると自然と上がっちゃうんですよ。指示をちゃんと聞きたいと思います……」

 まだ課題はあるが、持ち前の身体能力の高さは、駒澤大でも通用している。チームの編成が変わり、選手がポジションを変えることは珍しくない。ただ、深見にとっては、すべて「あの日」がなければあり得ないことだった。

 2016年1月、全国高校選手権の準々決勝に進出した駒澤大高は、優勝した東福岡高と対戦した。負傷者が出た最終ラインの穴を埋めたのが、主将でエースFWの深見だった。プロ内定選手を擁する超強豪と個で渡り合える選手として抜擢されたのだ。

 大観衆の声援を浴びながら、同学年のトップ選手を迎え撃った経験は、とにかく刺激的だった。深見は「(付属高からの内部)進学は決めていたんですけど、サッカーはやらないつもりでした。ただ、選手権で全国大会に出て、もっと高いレベルでプレーしてみたいと思ったので。あれがなかったら、多分やらなかったと思います」と過去の迷いを明かした。

 大舞台の刺激は、さらなる変化を与えた。選手権の活躍が認められて日本高校選抜に選出されたときもDFでプレー。大学で「FWとDF、どっちがやりたいのか」と聞かれて答えたのは、DFだった。やりやすかったのだと言う。

 大学では、センターでプレーすることもあるが、主にサイドバックを務めている。前から後ろに回り、さらに横へ。短期間での目まぐるしいポジション変更は、深見のサッカー人生の激変をよく示している。あの日がなければ、大学でプレーすることも、右サイドバックになることもきっとなかったのだ。

「今はサイドでプロを目指したいと思っています。まず、自分のサイドを割られないこと。センターのカバーにも入りたいです。いろいろなポジションを経験したことは、今後も生かしたいです。特にCBはFWと表裏一体で、自分が嫌だったことをやれば通用する部分があった。SBにやられて嫌だったことも生かしたい。次こそは、日本一が目標です」

 あの日、やっぱり見たいと思った先の世界へ。今度はサイドから、夢を追いかける。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

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