beacon

[関東]結果にこだわる“オレンジの6番”の矜持。法政大MF佐野陸人が思い描くアイスタ帰還への未来予想図

このエントリーをはてなブックマークに追加

法政大でも“オレンジの6番”を背負うMF佐野陸人

[6.1 関東大学L1部第4節 法政大 3-1 順天堂大]

 かつてのチームメイトの帰還も決まり、今のチームメイトも加入することが発表された。焦りがないと言ったら嘘になるが、自分もまたあのオレンジ色のユニフォームに袖を通せると信じて、今できることを、確実に積み上げていくしかない。

「まだプロでやるための強度も足りないと感じているので、そこをより求めていきたいですし、今以上により数字にこだわって、得点が獲れる、アシストができる選手になっていきたいなと思います」。

 オレンジ色の6番がよく似合う、法政大のクレバーなアタッカー。MF佐野陸人(4年=清水エスパルスユース出身)が“古巣復帰”への猛アピールとも言うべき2ゴールの活躍で、チームに大きな勝ち点3をもたらした。

 6連勝で首位を快走していた東京国際大を撃破する、会心の勝利から中2日で迎えた順天堂大との一戦。前節はDF白井陽貴(4年)の決勝ゴールをアシストした佐野もサブからのスタートとなり、ベンチから出場機会を窺う。

 前半から押し気味にゲームを進めていたチームは、32分にDF堀江貴大(4年)の左アーリーを、MF高橋馨希(3年)がダイレクトボレーで叩き込むゴラッソで先制したが、後半に入って同点弾を許す。すると、その失点の直後、アップエリアの佐野に声が掛かる。

「陸人はずっと調子が良くて、前への関わりが凄く良いので、迷わずスッと投入しました」とは井上平監督。後半16分。ピッチへと6番が駆け出していく。「直前に失点してしまっていたので、自分が入ったら『絶対に逆転しよう』と思っていました」という決意は、確かな結果という形で示された。

 まずは26分。右サイドで高橋が時間を作り、DF萩野滉大(4年)を経由したボールが、佐野の足元に入る。「萩野からパスをもらった時に『オフサイドかな』と思ったんですけど、もう自分の中では打つ選択肢しかなくて、コースは見えなくて、角度もなかったんですけど、振り抜こうと思って蹴りました」。右足から繰り出した弾道がゴールネットを射抜く。

 さらなる輝きを放ったのは終了間際の45+1分。カウンターの局面に、右サイドを全速力で駆け上がってきたDF市川侑生(4年)のグラウンダークロスが、やはり諦めずにゴール前へ飛び込んだ男の目の前に届く。「市川ならあそこに出してくれると思ったので、走り込んで良かったです。自分はストライカータイプではないんですけど、シャドーをやってからは信じて走るような動きも増えたので、それが実を結んだのかなと思います」。自分と仲間への信頼が呼び込んだドッピエッタ。チームも今季初の連勝。オレンジの歓喜が夜空に弾けた。



 4年生となった今年は大学ラストイヤー。「チームは五冠を目指している中で、個人的には結果を出さないとやっぱりいろいろな方に見てもらえないですし、数字によりこだわろうと思って、シーズンに入りました」という今季は、ここまで5試合で2ゴール2アシスト。「このまま継続して結果を残せればなと思います」という言葉にも、充実感が見え隠れする。

 平岡宏章監督の指導を仰いだ清水エスパルスユース時代には、『史上最弱世代』とも評されていた3年時に、夏のクラブユース選手権で日本一を経験。佐野は今と同じ“オレンジの6番”を背負い、ボランチやサイドハーフなど様々なポジションをマルチにこなしつつ、プレースキッカーも任される高精度の右足で、チームの中核を担っていた。

 だが、トップチームへの昇格は叶わず。この世代からはGKの梅田透吾(ファジアーノ岡山)だけがプロへと進み、他のメンバーは大学へと進学することになる。印象深いのは彼らのユースでの最後の公式戦となった、IAIスタジアム日本平でのプレミアリーグ最終節。佐野もゴールを決めたそのゲームは、12人の3年生が出場して3-0で快勝。試合後には笑顔で“勝ちロコ”を踊り、みんなでここに帰ってくることを誓い合い、『史上最弱世代の王者』たちはそれぞれ新たな4年間へと旅立っていった。

 あれから3年。かつての仲間たちも、勝負の1年を迎えている。「(齊藤)聖七も活躍していますし、監物(拓歩)も復帰して、(望月)勇伸もこの間は2ゴールを獲ったりしていて、刺激をもらえる仲間ですよね」。この日は同じく清水ユースの同期に当たる、順天堂大のDF栗田詩音(4年)も途中出場。みんなが約束の場所への帰還を目指し、切磋琢磨し続けている。

 先日、DF落合毅人(4年)の清水内定が発表された。自らの目標に辿り着いたチームメイトには、祝福の気持ちもありつつ、複雑な想いを覚えたのもまた否めない。「嬉しい気持ちもありながら、その反面、悔しい気持ちもあります。自分もエスパルス出身なので戻りたい気持ちは強いんですけど、落合には頑張ってほしいなと思います」。

 正直な感情を口にした佐野にも、もちろん同じ道が用意される可能性は、十分過ぎるほど残されている。順天堂大戦の翌日にはMF齊藤聖七(流通経済大4年)の清水帰還もリリースされた。またあのスタジアムで、最高の笑顔を浮かべて、みんなと一緒に。抱え続けてきた決意は、揺るがない。こぼれた言葉が、夜のグラウンドへ確かに響いた。

「あの仲間ともう1回、エスパルスでやりたい想いは大きいです」。

「2018年プレミアリーグ最終節」の集合写真。前列中央の6番が佐野


(取材・文 土屋雅史)

●第96回関東大学L特集

TOP