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[関西選手権]2人のライバルも、今までの自分も超えるための挑戦。大阪産業大DF湯本創也の勝負はまだまだこれから

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大阪産業大のディフェンスリーダー、DF湯本創也

[7.3 関西学生選手権4回戦 大阪産業大 2-1 大阪体育大 万博記念競技場]

 誰も知らない環境で、勝負してみたかった。ずっとライバルだと思っている、アイツらを超えるためにも。そして、何よりも今までの自分自身を大きく超えるためにも。その決断が正解だったかどうかは、まだわからない。でも、それは自分次第で、どんな答えにも色を付けていける。勝負は、きっと、まだまだこれからだ。

「僕もプロを目指してやっているので、目の前のことを精一杯やることはもちろん、今まで以上に自分の足りないところを変えていかないと、これ以上は上には行けないと感じていますし、そこは言葉だけじゃなくて、行動で示していきたいと思います。もちろんサッカー面もいいチームですし、私生活の部分でも充実しているので、大阪、楽しいですね」。

 青赤育ちの剛毅な護り人。大阪産業大を後ろから支えるセンターバック。DF湯本創也(3年=FC東京U-18出身)は飛び込んだ大阪の地で、もっと高く羽ばたくための準備を着々と整えている。

 大事な試合であることは、みんなわかっていた。関西学生選手権4回戦。前日の試合に1-0で競り勝った大阪産業大は、難敵の大阪体育大と対峙する。「今日勝って、次も勝てば全国という、かなり可能性の広がる試合だったので、『ホンマに全国を目指していこう』とチーム一丸になって臨む試合でした」と話す湯本も、もちろん例外ではなくいつも以上に気合が入る。

 前半11分にFW赤塚ミカエル(4年)のゴールで幸先よく先制したものの、前半のうちに追い付かれると、後半は大阪体育大の猛攻に晒される時間が続くが、「今年のチームは特別上手い選手がいるわけではないですけど、本当にみんなマジメで、特に『際の部分で泥臭くやっていこう』と。みんなで声を掛け合いながら集中して、ホンマに全員が支え合っている感じですね」と湯本。奮闘していた相方のCB大木巧也(3年)の負傷交代後は、ボランチからスライドしたDF笠原恵夢(3年)と連携しながら、1つずつピンチの芽を潰していく。

 18分にGK中村春貴(4年)が相手の決定機をファインセーブで凌げば、34分の大ピンチもDF橋本翔和(2年)が決死のタックルで回避。直後にも右サイドを崩されたが、湯本が身体でブロック。38分にも相手の放ったシュートが、クロスバーを直撃。水際のところで何とか踏みとどまると、歓喜の瞬間が耐えてきたチームに訪れる。

 42分。MF奥野龍登(1年)の蹴った左FKが、湯本の元へと届く。ヘディングで枠へ収めたシュートは相手GKがラインギリギリで掻き出すも、こぼれを拾った湯本は後方へパス。MF伊藤友弥(4年)のシュートを、最後は赤塚がプッシュ。土壇場での勝ち越しゴールに、みんなの感情が爆発する。

「アレ、入っていたと思うんですけどね(笑)。でも、ネットを揺らせないと、ですよね」と笑った湯本は“ゴール未遂”に“アシスト未遂”となったが、チームはその後の相手の猛攻もかわし切る。2-1。強豪相手に劇的な勝利を収め、大阪産業大は全国出場に王手を懸けた。



 湯本の前所属はFC東京U-18。好タレントの輩出に定評のあるFC多摩ジュニアユースから加入したが、同期には木村誠二(モンテディオ山形)と岡哲平(明治大)、1つ下には大森理生(FC琉球)という実力者が居並ぶ中で、なかなかレギュラーポジションを掴むまでには至らず、トップチームの昇格は勝ち獲れなかった。

「もちろんFC東京で昇格できれば一番でしたけど、叶いませんでした。次は関東の1部の大学に行くことが、将来のために繋がるのかなという想いはあったんですけど、そこにも行けなくて……。そんな時にもともと関西にも興味はあったんですけど、監督の中村(忠)さんの繋がりで、大阪産業大から話を戴いたんです。実際に練習に行ってみたら、雰囲気も良かったですし、もっといろいろな経験を積んだ方が自分のためにもなるかなと思ったので、決めました」。

 大阪行きを決断した理由は、サッカー面以外の部分も熟考した上だという。「もともと人生はサッカーだけではないと思っているので、プロになれたとしても、サッカーキャリアは長くないかもしれないですし、プロになれなかった時にも人間関係を広げることは大事だよなって。あとは、僕自身が人見知りでしたし、あまりふざけられない性格だったので、そこを変える意味でも、関西というのはプラスになるんじゃないかなと。そこはまだまだですけど、頑張っている所です(笑)」。人間としての幅をより広げるためにも、知り合いのいない土地で様々な経験をしてみたい想いが、湯本を大阪へと向かわせた。

 実際に入学した大阪産業大は、いろいろな面で自分に合った素晴らしい環境だった。「大阪産業大学は先輩も含めて、みんな良い人ばかりなんです。スタッフも監督の安里(晃一)さんも含めて、年も近いですし、凄く関係性を作りやすいチームで、特にサッカーの部分では『友達がいないから、やりづらいな』ということは感じずにできたかなと思います」。周囲にも恵まれ、サッカーを楽しむことができている一方で、改めて感謝の念を抱いている人たちもいる。

「今は一人暮らしなので、自炊とか家事とか、今まで自分でやってきていないことを経験したことで、親に感謝しないとなという想いはありますね。高校までは『実家暮らしをしたいから』という理由で進路を選んできた感じでしたし、実家を出たくない派でしたから」。親のありがたみを実感したことも、大阪に来て良かったことの1つだそうだ。

 高校時代からの友人であり、ライバルの2人には、やっぱり負けたくない。「誠二のことが気になって、SNSはちょくちょく見ているんですけど、Jリーグでもコンスタントに試合に出て、代表に選ばれていましたし、哲平も全日本の大学選抜に選ばれて注目されているみたいで、僕自身も一緒にやっていた身としては負けていられないなという想いはあります」。

「実際に今はアイツら2人の方が確実に上のステージにいるわけですけど、僕は負けている状態なので、逆に『2人を食ってやろう』という気持ちでできるのは、やりやすいかなと思いますね。目指すべき場所がありますし、『アイツらに追い付きたい』『アイツらを追い抜きたい』という気持ちは常に持っています。僕ももっと頑張るので、アイツらにも頑張ってほしいですね」。

 何回か口から出た「ホンマ」というフレーズに、“関西化”を感じたため、本人にそのことを伝えると、意外な答えが返ってきた。「僕、ちょっと関西にいたことがあるんですよ。2歳から小学校の前半ぐらいまで兵庫にいたことがあるので、当時も“エセ関西弁”って言われていたんですけど、まだ今も全然“エセ関西弁”ですよね(笑)」。

 実は馴染みのあった関西で、サッカーも生活も充実していることは間違いない。ただ、それもすべては自分自身が掲げ続けている目標を達成するのに必要な時間。アイツらを超えるために。そして、自分を超えるために。湯本の勝負は、きっと、まだまだこれからだ。



(取材・文 土屋雅史)
●第100回関西学生L特集

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