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[デンチャレ]選抜とは無縁だったストライカーが掴んだチャンス。U-20全日本選抜FW桑山侃士が一歩ずつ重ねるステップアップ

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U-20全日本選抜の攻撃を牽引したFW桑山侃士(東海大2年=東海大高輪台高)

[3.1 デンチャレ グループA U-20全日本選抜2-0東北選抜 ひたちなか市総合運動公園]

 自らの戦うべきステージが間違いなく上がってきていることは、もうわかっている。だからと言って、怯んだり、怖じ気付いたりする気持ちは毛頭ない。行けるなら、もっと上へ。できるなら、もっと先へ。どこまでも、どこまでも。

「収めるところとかヘディングは、今日やってみて『全然やれるな』と思いましたし、この試合は自分がどういう選手なのかをみんなに知らせる良い機会だったので、そういうところはしっかり表現できたかなと思います」。

 U-20全日本選抜の最前線にそびえるストライカー。FW桑山侃士(東海大2年=東海大高輪台高)はゆっくりと、それでいて着実に、一歩ずつステップアップを重ね続けている。

 0-4の大敗を突き付けられた初戦を経て、U-20全日本選抜が迎えた2日目の相手はプレーオフを勝ち上がってきた東北選抜。前日の試合では後半からの途中出場だった桑山は、スタメンでピッチに送り込まれる。

「昨日も最初はみんなへこんでいましたけど、このチームは中心になれる選手がいっぱいいるので、そこは全然問題なかったですし、昨日はベンチで今日は先発だったメンバーは、自分も含めて『絶対にやってやろう』という気持ちがありました」。

 そう語った11番は、2トップの相方を組むFW名須川真光(順天堂大1年=青森山田高)とともに前線からプレスに奔走しつつ、14分には左サイドからMF田村蒼生(筑波大2年=柏U-18)が入れたクロスを受け、持ち込んだフィニッシュは相手DFに間一髪で弾かれて枠を外れたものの、持ち味のパワフルなプレーを披露する。

 展開としても、桑山は自身の特徴を生かしやすい流れだと捉えていたようだ。「今日は相手もアバウトなボールを蹴ることが多くて、そういう方が自分はどちらかというと生きるタイプなので、自分のところでちゃんと身体を張ってマイボールにできたりするシーンが今日は結構多かったですね」。ボールキープはお手の物。サイドハーフで構えたMF角昂志郎(筑波大2年=FC東京U-18)と田村との連携もスムーズに、チームの攻撃の基点を創出していく。

 自身のゴールこそなかったものの、1点をリードした後半43分までフル稼働すると、終盤に追加点を奪ったチームは2-0で快勝。前日の悪夢を払拭する白星に、桑山の働きも小さくない効果をもたらしたと言っていいだろう。

 2年時からレギュラーを務めていた東海大高輪台高時代は、センターバックやボランチを任されることも。もちろん攻撃的なポジションを担うこともあり、“スーパーユーティリティ”感すらあったものの、東海大入学後はストライカーポジションで勝負。1年生の頃はなかなか手応えを掴むまでには至らなかったが、ある指導者との出会いが1つのターニングポイントになったという。

「田坂さんが来たことが自分の中では一番大きかったです。ずっとプロで指導してきた方なので、言っていることがプロ基準なんですよね。プロの選手を見てきた人なので、言われたことも素直に自分の心の中にスッと入ってくるところがありましたし、積極的にいろいろ聞きに行ったりしました」。

 今シーズンからはギラヴァンツ北九州の指揮官を任された田坂和昭氏の指導を受けると、その才能は開花する。結果的に関東リーグ2部で得点ランキング2位の11得点をマーク。「まさか2年目で11点も獲れるとは思っていなかったので、『あ、獲れちゃったな』という感じでした。こんなになるとは思っていなかったですし、最初はやれる自信もなかったので、ちょっとビックリしています」と自身も驚くパフォーマンスを見せ、一気に多くの人の知る存在へと駆け上がった。

 もちろんその結果が評価されてのU-20全日本選抜選出ではあるが、桑山はしっかりと自分の足元を見つめている。「自分は正直、全日本選抜に選ばれるとは思っていなかったですし、2部で結果は残していますけど、みんなと比べたら劣っている部分が多いですね。もっとやるべきことがあるので、全然満足はしていないですし、この選抜に選ばれていても、全然トップレベルにいるとは思っていないです」。

 そう思えるのには、周囲に身近なライバルがいることもその理由。「プロでやっている歩夢も、レッズのジュニアで一緒だった彩艶も日の丸を背負っていますし、一志も得点王を獲っていて、周りには良いライバルがいるので、そういうところをちゃんと刺激にして頑張りたいです」。

 同い年には東海大高輪台でチームメイトだったU-20日本代表FW横山歩夢(サガン鳥栖)や、浦和レッズジュニアで一緒にプレーしたGK鈴木彩艶が、そして1つ上には高校時代から同じチームで戦い、昨シーズンのリーグ戦では13ゴールを挙げて、2部得点王に輝いたFW藤井一志(東海大3年=東海大高輪台高)が、桑山の日常に刺激を与えてくれている。

 高校時代は東京都2部リーグが主戦場であり、インターハイや高校選手権での全国出場も叶わなかったため、いわゆる知名度は決して高くない中で、地道に努力を重ねて辿り着いた今の立ち位置。だが、そのスタンスは何とも逞しく、頼もしい。

「もっとスピードを上げるところとか、やるべきことはまだあるので、そこがもっと伸びてくれば良い結果が付いてくるんじゃないかなと。僕にはあと2年ありますし、全然時間はあって焦っていないので、自分のペースでやっていければいいかなと思います。もともと高校の時も自信はありましたけど、より自信が付いている部分はありますね」。

 飄々と、力強く。淡々と、泥臭く。不思議な魅力を湛えるストライカー。桑山の踏み出す一歩は、それでも以前より前へ、前へと、確実に進み続けている。

(取材・文 土屋雅史)
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