beacon

米国在住WEリーグ岡島“チェア”が初会見、次々語ったビジョン「女子選手に老後資金の貯め方を…」

このエントリーをはてなブックマークに追加

会見に出席した岡島喜久子初代チェア(オンライン会議アプリ『Zoom』のスクリーンショット)

 日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の岡島喜久子初代チェアが13日、日本サッカー協会(JFA)のオンライン会見に出席した。38年間にわたって金融機関で活躍してきたバックグラウンドを生かし、「長期的に成功させていくには、WEリーグの理念に協賛していただけるパートナー企業を探さないといけない」と自立的な経営に意欲を示した。

『Women Empowerment』をテーマとするWEリーグの発足に際しては今月1日、運営団体「一般社団法人日本女子プロサッカーリーグ」が設立。3日の社員総会で、岡島氏が初代代表理事に選任された。呼称は「チェア」に決定。男子Jリーグでは「チェアマン」と呼ばれる役職だが、「マン」が男性を示すため、英語圏で役職者に使われている「チェア」が採用された。

◆サッカー界とのつながり
 1958年生まれの岡島氏は東京都出身。中学2年時に男子サッカー部で競技を始め、その後日本初の女子クラブチーム「FCジンナン」でプレーを続けた。見るほうでも、高校時代は国民体育大会、全国高校選手権大会など1年間に180試合ほどの試合を観戦。1歳年上のJFA田嶋幸三会長が浦和南高で全国制覇を成し遂げた試合も現地で見ていたという。

 早稲田大に進学後はJFAでアルバイトをしながら、79年の日本女子サッカー連盟設立時には初代理事に就任。卒業後は「土曜日が休みだったのが一番大きい」という理由でケミカルバンク(現JPモルガン・チェース銀行)東京支店に就職しながら、日本女子サッカー連盟の第2代事務局長を務めるなど女子サッカーの礎を築いた。

 また選手としては日本女子代表の一員として高倉麻子現なでしこジャパン監督らととも国際大会にも出場。それでも徐々に「サッカーに向けていたエネルギーが仕事に向いてしまった」。91年に結婚を機にアメリカへ渡り、その後は国際証券(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)やメリルリンチなどの外資系金融機関で活躍した。

 WEリーグ発足にあたっては当初、「チェアになるとは思っていなかった」といい、「裏でパートナー企業を探すことだけをお手伝いしようと思っていた」と振り返る。それでも「競技面、事業基盤、社会面から適材だと考えた」とJFA佐々木則夫理事。今後もアメリカに拠点を持つ岡島氏も「ニューノーマルでオンライン会議が一般的になったことで、私でもできる」と就任を決断した。

◆経営面で高まる期待
 金融機関での豊富な経験を持つ岡島氏にとって、当面のミッションは協賛企業の募集だ。JFAから開幕準備に3億円、その後4年間で8億円という予算が組まれているが、持続的な運営のために自立した資金モデルを構築しなければならない。今後の見通しについて岡島氏は「前向きに検討していただいている企業もある。早めに発表できる形に持っていきたい」と述べた。

 また岡島氏は「アメリカの女子のチームがなかなか財政的にうまくいかなかったのは、男子のチームと離れていたことがある」と指摘。「日本はJリーグのチームが女子を持っているところもある。そういうところが(初代加盟チームとして)手を挙げて下さると思うので、Jリーグの手を借りながら成立させていきたい」と期待を語った。

 経営面ではチームだけでなく、選手個人のキャリアプランにも助言をしていく予定だという。岡島氏は「女子選手に老後資金の貯め方、お金の増やし方を一人一人に教えてあげたい。アマチュアとして働いていて給料をもらっていても将来のことを考える余裕はないと思う。若い時から長期で貯めることが大事なのでそのあたりをお伝えしていきたい」と意気込みを語った。

◆問われる観客動員は…
 プロリーグを運営していくにあたり、安定した観客動員は欠かせない要素だ。佐々木理事が6月上旬に明かした構想によれば、当面の間は平均5000人の来場を目指し、10年間で1万人に乗せたいという。果たして、どのような層がターゲットになるのか。

 岡島氏はまず「少女選手に会場に来てほしい」と願う。WEリーグが目指すのは「WEリーガーが夢の職業になる」という理想像。そのためには「少女のチームの試合が土日にあって忙しくてどうしても行けないと聞いている。なんとか都道府県協会とも連携しながらWEリーグの試合を午後遅くにしたりして少女選手に会場に来てほしい」と訴えかける。

 さらに月刊少年マガジンで連載中の女子サッカー漫画『さよなら私のクラマー』(新川直司)の名前を挙げ、「ファンや読者にも会場に来てほしい」と提案。WEリーグを通じて女性の異業種コミュニティをつくり、試合会場で交流するというビジョンも明かし、「会場に来れば楽しいことがあるという魅力を作っていかないといけない」と意気込んだ。

 また選手とファンとの交流も積極的に進めていく予定。「試合以外のところでもっと少女たちと交流する場をつくったり、一般の女性ともサッカーではないヨガなどをするような場をつくったり、交流ができるようにしたい」。そう語った岡島氏は「来てもらって、見てもらって、憧れの存在になってもらえたら」と希望を述べた。

 その他、リーグではクラブ役職員の50%を女性とするという規約(猶予期間3年間)も策定しており、女性の社会進出支援も目指す。「サッカー選手の引退後の受け皿にしたいという気持ちがある」とセカンドキャリアにも思いを向けた岡島氏は「日本人女性は奥ゆかしいというか自分の意見をなかなか言わない。選手はSNSで言ってもいいし、直接話をするのもいい。チームの待遇に文句があるなら言ってもいい。そういう教育をしたい。日本の女性が今までと違う活躍ができる、女性が頑張っているというメッセージを出していけたら」と熱く語った。

(取材・文 竹内達也)

TOP