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サッカー界の未来を担う“女性リーダー”育成へ…WEリーグがJFAと共同でプログラムを開講

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 2021年9月12日、日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』が開幕した。新リーグの理念は「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する」。リーグはこのミッションを実現すべく、昨年度から『JFA女性リーダーシッププログラム』を実施している。

 このプログラムは、サッカー界・スポーツ界をこれから牽引する女性役員と経営人材の育成を目的に、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)と公益社団法人日本女子サッカーリーグ(WEリーグ)が共同で開講。「ジェンダーと自己理解」「マインド変革」「経営リテラシーの獲得」を柱に、各期4回のモジュールで行われている。

 プログラムの参加者は、47都道府県サッカー協会の役員やWEリーグ・なでしこリーグ所属クラブ、リーグ・連盟で経営者候補の女性12名。オンラインも活用して行われた講義・ディスカッションで「アサーティブコミュニケーション」「リーダーシップ」「サッカーを通した社会貢献・開発」などについて議論を重ねつつ、学びを深めた。

 10月25日には、第2期の最終講義としてシンポジウムを開催。城西大の山口理恵子教授が進行役を務め、『女子サッカーの意義・WEリーグの価値とは』をテーマに、WEリーグ理事の小林美由紀氏、株式会社サンフレッチェ広島取締役兼レジーナ事業本部部長の久保雅義氏、AC長野パルセイロ取締役兼レディース本部長の加藤久美子氏(第1期卒業生)、WEリーグシルバーパートナーのパーソルキャリア株式会社で執行役員を務める大浦征也氏の4人が、それぞれの立場から議論を繰り広げた。

 ディスカッションは『参入のきっかけ、参入への期待』『WEリーグの理念について、参入した手応え、見えてきたこと』『女子サッカー発展の可能性』の3つのトピックで展開。なかでも、WEリーグ理念やプロ化により見えてきた課題についての議論で盛り上がりを見せていた。


 昨年6月3日に設立され、今年の9月12日に開幕したWEリーグ。理念推進部部長も兼任する小林氏がシンポジウムの冒頭で「Woman Empowerment Leagueと言って、理念を全面に出したリーグ」と強調したように、 リーグは設立当初から“理念”に重きを置いてきた。そこには「女性の社会進出、活躍のためサッカーをアイコンにして社会を変えていく」という強い想いがあるという。

 小林氏によると、発足当初は選手たちから「仕事をしながらサッカーをやっているなでしこリーグにも意義がある」「今の状態で満足」「なんで今頃プロになるんだ」といった新リーグへの不安や疑問の声もあったそうだが、開幕を前にWEリーグの岡島喜久子チェアが、各クラブを回って理念に込めた思いなどを説明。WEリーガークレド(信条・行動指針)や開幕宣言をともに作り上げながら、リーグと選手に共通の指針が固まってきたのだという。

▼WEリーガークレド
WE PROMISE
私たちは、自由に夢や憧れを抱ける未来をつくる。
私たちは、共にワクワクする未来をつくる。
私たちは、互いを尊重し、愛でつながる未来をつくる。
みんなが主人公になるためにプレーする。

 こうした目的意識はリーグ日程にも表れている。11チームで構成されているW Eリーグは、毎節1チームが試合を行えないという事情があるが、そこで設けられたのが『WE ACTIONDAY(理念推進日)』。各チームがWEリーグ理念を体現するため、それぞれの活動を行う日だ。

 リーグ開幕から第6節を終えた時点(10月25日)ではジェフユナイテッド市原・千葉レディース、INAC神戸レオネッサ、三菱重工浦和レッズレディース、ノジマステラ神奈川相模原、アルビレックス新潟レディース、大宮アルディージャVENTUSの6チームが理念推進日の取り組みを実施。各クラブの立場から、さまざまなアクションを起こしている。

 例えばN相模原は、「サッカーでインクルーシブな社会を!」をテーマに掲げ、活動拠点のノジマフットボールパークに知的障がいや発達障がいのある子どもたちを招待。トップチームの全選手が参加し、サッカーを通じた交流会を開いた。他のクラブもコロナ禍に配慮しながらも、オンラインを活用しながらトークショーなどを企画した。

 こうしたリーグ理念に賛同しているのはクラブ・選手といった当事者だけではない。

 さまざまな人材サービスを手掛けるパーソルキャリア株式会社の大浦氏は、シンポジウムで「創設にあたって掲げている理念に強く共感したということに尽きる」とリーグ参画の経緯を説明。「女性活躍という文脈自体が、非常に私どもの企業活動とフィット感があった」と手応えを語った。


 もっとも、重要なのは理念の表明にとどまらず、実現に向かっていくことだ。リーグや選手のプロ化による懸念も感じているという大浦氏は「プロ化がイコール、アスリートのセカンドキャリア問題を生み出すとも言える。その競技で飯を食っていけるということは、飯を食う口がサッカーじゃなくなったときにキャリアがなくなる」とも指摘した。

 この問題提起には、シンポジウムの参加者からも共感の声が上がった。WEリーグ所属クラブで働く参加者は「今までは、パートナー企業さんで働かせてもらいながら、そこで教育もしてもらえる状況だったのが、そこを通らずにプロになる選手が増えてきて今後が不安だと思っている」と吐露。選手のセカンドキャリアを築くため、クラブのサポート体制をどう整えればよいかを大浦氏に尋ねた。

 すると大浦氏は「現役中にサッカーだけやっていればいいという環境にしないことに尽きる」とし、「パソコンの練習をするとか、英語の勉強をするとか、そういう具体的な形じゃなくてもいいから、少なからずこの“アンテナ”を張っておくことは、現役中から意識してほしい」と回答。加えて企業側の視点として次のように助言した。

「ビジネスキャリアを作る上で、最近の重要なキーワードは“希少性”。何かと何かを掛け合わせたときにどれだけ希少的な価値を生めるかが、ビジネスフィールドに行くときに重要で、その観点でいうと希少性を作り出す掛け算になり得る経験は、女子サッカーをプロレベルまでやっている時点でだいぶ希少的なものになる。これを何かと掛け合わせができるような状態にしておくことが重要です」

 大浦氏が見つめたのは、プロスポーツ選手としての“希少性”。数少ないプロスポーツ選手としての経験を現役のうちに磨くことで、セカンドキャリアで武器になり得る可能性を秘めているという。

「例えば、チームのパフォーマンスを上げるための、仲間とのコミュニーションというのはビジネスフィールドに行けばチーミングというチーム作りになる。これをもう少し体系化すると、このまま生かせる何かになるかもしれない。それは戦術でもいいと思うし、昨日の勝ち負けを振り返ることでもいい。サッカー競技を通して得られる何かを、何かと掛け合わせられる状態に置き換えようとすると、共通言語が絶対に出てくると思う。そういった意味で言うと、サッカー用語だけで終わらせないということと、サッカーに閉じさせないということさえやっていれば、体はサッカーに集中していたとしても、無駄な経験にはならないはず。その辺りがセカンドキャリアを考えていく上で、一つ大きなポイントかなと思います」

 また大浦氏は、重要なのは選手個人の意識改革だけではないと話す。

「リーグが選手任せにせずに、こういったキャリアという問題に取り組むことで『WE(リーグ)から羽ばたく方たちはビジネスフィールドに出ても素晴らしい』という世界観になっていけば、結果的に小さい子たちが何の迷いもなく、サッカーをずっと続けたいと思うのではないかなと思う」

 リーグも選手のセカンドキャリアと向き合うことで、日本女子サッカー界の未来を創造することができるのではないかと期待を込めた。

 今回の最終講義を経て、第2期女性リーダーシッププログラムが終了。WEリーグ理事の小林氏は「私も1期のメンバーだったけれど、去年はまだWEリーグが始まっていなくて、今回パートナーの方に実際に来ていただいて、本当に始まったんだなというふうに思っている。これを継続して、この熱をどんどん大きくして、次の世代につなげていくことがすごく大切だと思う」と振り返った。

 また「2期生12名を含めて24名のリーダーシップの仲間ができた」と新たな卒業生を歓迎。「そこを核としながら、男性にも関わっていただきながら、大きな動きに社会全体を変えていって、一人ひとりが輝く世界を作っていけたらいいなと思います」と今後の活動に希望を膨らませた。

(取材・文 成田敏彬)

●WEリーグ2021-22特集ページ

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