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見つめる先にはA代表、そしてアーセナル…FW浅野拓磨「チームでの結果が全てにつながる」

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シュツットガルトでプレーする日本代表FW浅野拓磨

 激動の1年を過ごした。所属クラブは広島からアーセナル、そしてシュツットガルトへと変わった。また、1月のAFC U-23選手権を制して五輪出場を決めると、8月にはリオデジャネイロ五輪本大会で世界の猛者を相手に戦い、A代表ではW杯アジア最終予選に出場するなど、日の丸を背負って痺れるような試合を経験してきた。多くのことを経験した16年をFW浅野拓磨はどう振り返り、17年につなげていこうとしているのだろうか――。

アーセナルの選手だけど
僕は「すごい選手ではない」


――16年はアーセナルへの移籍、そしてシュツットガルトへの期限付き移籍。リオデジャネイロ五輪出場にA代表初ゴールといろいろなことがあった1年でしたね。

「16年は本当にいい経験ができたし、濃い1年でした。年始の五輪アジア最終予選から始まり、自分にとっても大きな出来事がずっと続きましたからね。一つひとつの経験は自分の成長につながることばかりでしたが、結論から言うと、まったく納得ができなかったし、もっともっとやらないといけないと思えた1年でした」

――納得のいかなかった部分とは?

「簡単に言えば、結果を全然残せなかったことです。シュツットガルトではもっと結果を出せると思うし、結果を残さないといけないのに、納得のいくゴール数を残せていません(13試合2得点)。それにA代表にも呼んでもらえるだけでなく、試合に出させてもらってゴールを決めるチャンスもたくさんあったのに、それを結果に結び付けられなかった。FWとして一番分かりやすい結果はゴールだし、チームの勝利に貢献するためにも、もっともっとゴールを決めないといけない。それがFWとしての仕事だし、1年を通して結果をもっと求めていかないといけないシーズンだったと思っています」

――「ゴールにこだわる」という考えは日本にいるときから変わらない部分ですね。

「やっぱり、一番前のポジションでプレーしている限り、そこはブレるべきものではありません。サッカーをやっていて、喜びを感じることがあれば、悔しさを感じることもありますが、それを感じられるのも自分の中では勝利とゴールがすべてだと思っています。自分がゴールを決めてチームが勝てば最高に気持ちがいいし、自分にゴールがなくてチームが勝っても納得のいくゲームではなく、さらにチームが負けたら悔しさばかりが残りますからね」

――シュツットガルト加入後はなかなか結果が出ませんでした。

「正直、焦りはありましたし、ゴールを取らないとヤバいなと思っていました。結果を残せなかった日は、『何であそこでああいうプレーをしてしまったんだろう』と考えて、寝られないくらい、本当に悔しいときもあります。でも、すぐにまた次の試合があるし、良い時期があれば、悪い時期があるのは当たり前なので、『慌てずにやろう』と自分の中でコントロールできたと思う。僕のプロとしての経験値は決して高くはないけど、その中でもたくさんの経験をしてきたからこそ、冷静になるところと熱くなるところのコントロールができているのかなと思います」

――10月30日のカールスルーエ戦での移籍後初ゴールで、肩の荷も下りたのでは?

「正直、ちょっとホッとしましたよ。過信しているわけではありませんが、シュツットガルトは僕のことをアーセナルから来た助っ人として見ていて、僕もアーセナルから来ているんだという意識があった。助っ人として来ているからには結果を残さないといけないと思っていたので、ようやくゴールが生まれて安心しましたね」

――アーセナルからのレンタルということで、加入当初のチームメイトの反応は?

「皆が、ちょっとリスペクトしてくれている感じでした。もちろん僕もアーセナルの選手だと自覚していましたが、自分自身、そんなにすごい選手ではないと自分が一番理解していたし、そこで勘違いしてはいけないと思っていました。ただ、僕がなかなか結果を残せなかったので、僕に対しての『すごい』みたいな感覚がなくなっていったような気がします(笑)。でも、逆にそうなった方が僕もやりやすかったですね」

――ゴール後には「ジャガーポーズ」を初披露しました。

「超気持ち良かったですね。日本の皆さんが応援してくれているのは分かっていたので、早くゴールを取って、日本に届けるという意味で早くジャガーをやりたかった。でも、ドイツの人たちは全然知らなくて、まだ『タイガー』と言っている人がいるので、もっと頑張らないいけないなと思います。でも、日本の皆さんにそういう姿を見せられるのは、自分にとっても一つの喜びなので、素直に気持ち良かったです」

代表に定着したなんて
これっぽっちも思っていない


――納得いかない中でも手応えを感じた部分もあったと思います。

「もちろん、経験してきたことのすべてが自分の成長につながると思っています。五輪の最終予選では厳しい状況、いろいろなプレッシャーがある中、韓国との決勝(○3-2、自身は2得点)で、ある程度結果を残せて、五輪の切符を得たことで自信がついたし、その自信を持って新しいシーズンに臨めました。その後はA代表でゴールが取れたり、海外移籍の話が来たり、一つひとつが自分の成長につながるだけでなく、一つひとつの出来事がつながってきていると実感しています」

――ドイツの選手と日々対峙することで、プレー面での変化もあるのでは?

「ドイツに行ったばかりの頃は、僕がボールを持ったときの相手の寄せの早さを感じました。日本ではスピードがある選手に対して、簡単には飛び込んでこないで、まずは相手を見て対応してきますが、ドイツではまずボールにガッツリ来ます。最初はボールを持ってから考える時間が長かったので、1対1になっても自分のテンポでなかなか仕掛けられなかったし、相手との駆け引きで負けていることが多かった。でも試合を重ねるごとに相手の間合いや、プレッシャーを掛けてくるスピードを見極められるようになってきて、スピードを活かせる場面も増えてきています」

――逆に浅野選手の分析も進んできていると思いますが。

「日本でプレーしていたときのように距離を置くとか、明らかな対応の変化はまだ感じません。日本だと1対1に持っていく時間もなかったし、2人目がすぐにカバーにくることもありましたが、ドイツでは個人でガツンと来るので、そこの駆け引きを制することができれば、一瞬のスピードで相手をはがすことができると思っています」

――ボールを受けた際の第一選択肢は、当然ゴールに向かうこと。

「まずは第一にゴールを考えるし、チームからもゴールを求められていると思いますが、そこだけではないと(ハネス・ヴォルフ)監督に言われています。シュツットガルトではサイドでプレーしているし、アシストやゴールに結び付けるプレーをもっと増やしていかないといけない。もちろん、ゴールへの貪欲さは変わっていませんが、そういうことを意識することで、プレーの幅は広がりつつあるのかなと感じています」

――新スパイクとなる「ハイパーヴェノムⅢ」の印象はいかがでしょう?

「ヴェノムを履くのは初めてですが、僕みたいなプレースタイルの選手は、特にスパイクの軽さにこだわるというのが正直なところあります。少しでも相手と差をつけるために、スパイクの重量は少なからず影響を与えると感じていますが、ヴェノムはすごく軽いので僕のスピードもより活きると思います。あと僕は結構、見た目も重視するんですよ。見た目の良いスパイクを履いていると、モチベーションが上がるし、良いイメージが湧いて、プレーにプラスに働くと感じています。新しいヴェノムは目立つ色で僕好みなので、早くこのスパイクを履いてピッチに立ちたいですね」

――17年はどのような1年にしたいですか。

「まずはシュツットガルトでしっかり結果を残すのが一番大事です。まだ僕はブンデスに来て納得のいく結果を残せていないし、このままでは、この先、上に行けないと感じています。自分の本当の所属チームはアーセナルだし、将来そこでプレーするためにもシュツットガルトで目に見える結果を残したい」

――3月にはロシアW杯アジア最終予選が再開します。

「僕自身、代表に定着したなんて、これっぽっちも思ってないし、シュツットガルトで結果を残さなければ、代表に選ばれないのは当然だと思う。僕は自分のチームでコンスタントに結果を残し、良いコンディションでなければ、代表には呼んでもらえないだろうし、呼んでもらったときにも良いプレーができないと思っている。代表で本当の中心メンバーとして戦いたい気持ちもあるし、『代表でコンスタントに試合に出て結果を残す』と話すこともありますが、まずはメンバーに呼ばれるために、常にチームで結果を残さないといけません。『代表でコンスタントに試合に出る』『そこで結果を残し続ける』というのは、チームで結果を残し続けてから考えるべきかなと感じています。急激に成長することはないので、少しずつ成長できるように、まずは目の前のことに対して、100パーセントでコツコツ積み上げていくしかありません。いろいろな目標はありますが、すべての目標につなげるためにも、まずは目の前のことに全力で取り組んでいきます」

(取材・文 折戸岳彦)

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