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日本人チェルシーサポーターが顔面流血の現地ファンを救う! 試合中の勇気ある行動に賛辞

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チェルシーのホームであるスタンフォード・ブリッジ

 2月25日に行われたプレミアリーグ第26節チェルシースウォンジー戦の最中、一人の日本人チェルシーサポーターが“大役”をやってのけた。

 この日、スタンフォード・ブリッジには特別な雰囲気が漂っていた。2月2日に現役引退を発表したチェルシーのレジェンド、フランク・ランパードがハーフタイムにピッチ上で挨拶をすると公表していたためだ。スタジアムの外ではフランキーの記念写真が無料配布され、マッチデイプログラムの表紙もランパード仕様になるなど、大歓迎ムードが演出された。

 当然、チェルシーサポーターとしては是が非でも立ち会いたい特別な機会だ。ロンドンの大学院で国際保健を学ぶ医師の濱口麻里奈さん(28)も、そう考えるひとりだった。クラブ史上最多得点記録を持つスーパーレジェンドとの再会を心待ちにしていた濱口さんは、当日ウェストスタンドで試合を観戦する中、1分1秒でもその場面を見逃したくないとトイレが混み合うことを予測して前半の途中に席を立っていた。

"事件"に遭遇したのはその帰りだ。階段を上がってすぐの所で異変に気付いた。

 60代半ばに見える白髪の大柄な男性が、血を流しながらうずくまっていたのだ。周囲の座席は真っ赤で、足下に広がるのは滴り落ちた血の痕。それでもなお、鼻の頭から激しい流血が続いていた。

 周りのファンは警備員を呼び、警備員も救急隊の手配をしたが、誰もそれ以上のことはできず慌てふためいていた。あまりの出血量に絶句し、退くファンが続出する中、濱口さんは人の流れに逆らって男性に近付いた。

「大丈夫ですか? 私は医師です。どうされましたか?」

 聞けば、上部の座席にいたものの、ふらついて転落してしまったのだという。そうこうしている間にランパードがピッチに登場し、それに気付いた男性は他のファンに迷惑をかけたくないとばかりに無理をして立ち上がろうとしたが、濱口さんは優しく言葉を続けた。

「大丈夫ですよ。安心して下さい。誰も気にしていませんから。このまま救急の到着を待ちましょう」

 そう言って隣に寄り添い、ティッシュを束ねて止血を試みた。このため、スーパーフランクの大チャントを耳にしながら、結局ピッチ上の様子を見ることはできなかった。

 ハーフタイムが明ける頃、ようやく救急隊が到着。状況を説明し、男性の身を任せる際には「適切なご対応、本当にありがとうございました」と深く感謝された。

 この出来事を通じて濱口さんは言う。

「今回の最大の問題点は救急隊の到着の遅さ。私があの男性に遭遇してから少なくとも20分はかかりました。転落時に頭を打ったらしく、場合によってはもっと深刻な状態を迎えていた可能性もゼロではありません。にもかかわらず、応急手当てをするスタッフさえおらず、一般の方がひとり付き添っていただけ。男性はほぼ孤立状態でした。スタジアムの構造上、難しい状況であることは分かりますが、それにしても危機管理が甘すぎます。あの場で血を流しながら20分も待たなければならならなかった男性の気持ちを考えても、大きな問題でした」

 その後、濱口さんはより良いスタジアム環境作りのため、チェルシーと直接メールのやり取りをしたという。最後の最後までランパードを見逃したこと対する後悔の言葉は口にせず、「当然のことをしたのみ」と平然としていた。道理的にはもちろん言う通りなのだろう。だが、多くの人が退いてしまうほどの大量出血を前に、ただひとり助けに向かうことはそう簡単に起こせる行動ではなかった。

 今回の濱口さんの優しさと勇気に溢れる決断には、多くの目撃者が強く胸を打たれたはずだ。


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