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109億円の輝きとユーベの野望…イグアインが示した移籍金以上の価値

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ゴンサロ・イグアインが移籍金以上の価値を示している

 ユベントスは“その時点”で十分な戦力を擁し、幾度もセリエAで栄光を収めてきた。だが、FWゴンサロ・イグアインと契約したことで、さらに大きな目標を持っていることが明確になった。それはチャンピオンズリーグで優勝することだ。

 各ポジションに一線級の選手を揃えるユベントスであるが、ことストライカーに関しては絶対的な選手が不在だった。厳しい局面や、数少ないチャンスの場面でチームを導く高いレベルのセンターフォワードが求められていたのだ。ユーベは今大会で、チャンピオンズリーグの栄光を追求する21年間の日々に終止符を打つつもりだ。

 イグアインはこれまで34試合で23得点を挙げ、セリエAでは申し分のない活躍をしてきた。しかし、果たして彼がチャンピオンズリーグ制覇の為にユーベの求める人材であるのか、それはモナコ戦を終えるまで確証は得られなかった。

 レアル・マドリー時代の成績を見て、懐疑的な意見を持つ者もいた。それもそのはずだ。彼はマドリー在籍中にチームをタイトルへ導くことはなかった。しかも、彼が退団した後、マドリーは3シーズンで2度も欧州制覇を果たしている。

 イグアインはレアル・マドリー時代、CL2011-12シーズンのラウンド16で激突したCSKAモスクワ戦、翌年の準々決勝ガラタサライ戦では好パフォーマンスを見せたものの、同大会通算48試合に出場したうち、9得点しか挙げられなかった。さらにはノックアウトステージで出場した20試合ではたったの2得点に留まった。大舞台での勝負弱さは全世界に知れ渡ることになっている。

 そして、今大会でも予想通りと言うべきか、良いスタートを切ることができなかった。グループステージでは6試合中3ゴールを挙げ、悪くない結果を残した(もっとも、そのうち2得点はグループ最弱と見られていたディナモ・ザグレブとの2戦で決めたものだったが)。ラウンド16でのポルトとの2戦では大きなインパクトを残すことはなく、バルセロナ戦では、パートナーとして出場したFWパウロ・ディバラが素晴らしいパフォーマンスで人々を魅了し、称賛を浴びた。

 しかし、イグアインは自分が“主役”となるときを虎視眈々と待ち続け、ついにチャンスをつかみ取ったのだ。これまでに大きなチャンスを逃してきたことで、あまり期待はされてはいなかったが、敵地で行われたモナコとの準決勝ファーストレグで、彼は期待に応えた。勝負を決めたと言っていい、効果的な2ゴールを挙げてみせたのだ。彼に対する見方は180度変わっただろう。これまで大事な一戦で結果を残せずに来た選手が、今大会では主役としてスポットライトを浴びているのだ。

 イグアインは試合後に「落ち着いて、平然を保つことが必要だった。大きな一勝をホームに持って帰れるよ。まだセカンドレグが残っているが、チームはこの試合で勝利したことを喜んでいる」と喜びを語っている。

 ほとんどの人は戦前、10代にしてチームをけん引するキリアン・ムバッペに注目していた。しかし、ユベントスの守護神ジャンルイジ・ブッフォンと成熟度の高い守備陣はモナコの若きアタッカーを阻んでみせた。

 ユーベは、ムバッペと彼の良き見本となっているラダメル・ファルカオへの対策を十二分に練って試合へ臨んだ。アンドレア・バルザーリを先発メンバーへ追加したことは意外な選択に思えたが、守備陣は5枚になり、ムバッペやファルカオに対応できるセンターバックを1人増やすことを可能にしたのだ。この決断は間違いなくポジティブな方向に働き、マッシミリアーノ・アッレグリ監督は選手たちからだけでなく、手厳しいイタリアメディアからも絶大な信頼を得ることに成功している。

 それによって、モナコの攻撃の要であるムバッペ、ファルカオ、ベルナルド・シルバやトーマス・レマルは必要なスペースを見つけることができず、普段の勢いや展開力を抑えられた。ユーベの守備ラインを突破することができなくなったモナコは本来の力が発揮できず、ヨーロッパで一番注目されてきたのとは裏腹に平凡なチームへと成り下がってしまった。

 さらにユーベを勝利へ導いたもう一つの理由に、ダニエウ・アウベスの右サイドからの素早い展開力があった。チャンスが巡ってくる度にジブリル・シディベに勝負を仕掛け、常に右サイドで先手を打ち続けていた。イグアインの先制点もアウベスのアシストあってのものだ。

 アウベスは右サイドにスペースを見つけるとバックヒールでエリア内にクロスを出し、それをイグアインが押し込んだ。2度目のゴールもアウベスの見事な右足が生み出したものだった。彼のクロスには一ミリの狂いもなく、イグアインに求められたのはカミル・グリクの背後を冷静に突くことだけであったが、“らしい”ゴールであることに変わりない。

 ユベントスはこのステージを乗り切るために経験と才能を結集させ、モナコの脅威を打ち消した。その旗手となったのがイグアインだったのだ。CL優勝というさらなる大きな勝利を手にするため、イグアインの爆発はユベントスにとって素晴らしい知らせとなったことだろう。

文=Peter Staunton/ピーター・ストーントン

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