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「27歳にしてやっと…」“限界”を突破したシュツットガルトMF遠藤航

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ブンデス1部に初めて挑むシュツットガルトMF遠藤航

 昨夏からブンデス2部のシュツットガルトに戦いの場を移したMF遠藤航。加入直後こそ出場機会は限られたが、初めての先発出場でチャンスをつかむと、その後はスターティングメンバ―に名を連ねてクラブの1部昇格に貢献した。クラブ、チームメイト、現地紙からも絶賛の声が止まない男は、一度は「限界」と感じたボランチで確かな成長を遂げていた。


理想としているボランチ像に
自分のプレーが近付きつつある


――今季は21試合に出場してチームの1部昇格に貢献するだけでなく、独誌『キッカー』の年間ベストイレブンに選出されるなど、充実したシーズンを過ごせたと思います。
「最初の数か月は試合に出られなかったので難しい時期を過ごしましたが、1試合(第14節カールスルーエ戦)スタメンで出させてもらってからは自分のパフォーマンスも徐々に良くなっていった。チームが無事に昇格できただけでなく、ずっと先発で試合に出させてもらって個人的にも成長できたので、とても充実したシーズンだったと思います」

――加入後、なかなか出場機会をつかめない時期に意識していたことは?
「とにかく準備し続けるだけでした。同じポジションでは、監督が連れてきた選手がずっと試合に出ていたので、なかなかその壁を越えるのは難しいという思いもあり、先が見えない感じもあったけど、普段の練習からしっかりやることは当然として、自分がどうやったら試合に出られるかを常に考えながら取り組んでいました」

――試合に出たときに、どういうプレーで貢献しようとイメージしていましたか。
「難しいことはせずに、僕はとにかくガムシャラに、100パーセントを出すだけだと思っていた。アンカーで出る選手の重要性を感じていたので、守備の部分の貢献だけでなく、自分のところでいかにボールを受けて前につけられるか、逆サイドに振れるかなど攻撃の部分でも貢献できるように意識していた。試合に出られないときにベンチから見ていても、その部分に関しては試合に出ている選手よりも自分の方がやれると思っていたので、試合に出たときはその部分にトライしようとしていました」

――日本にいる頃はボランチ以外のポジションでのプレーが多く、ボランチとしての経験値をなかなか積めず、「ずっとボランチとしてプレーしている選手とは違う感覚かもしれない。ボランチとしての限界がきたという感じもある」と話していました。海外で継続してボランチでプレーすることによって、新しい景色も見えてきたと思います。
「ボランチとしてコンスタントに中盤で戦うのは、ベルギーのシントトロイデンに移籍してからなので、まだ2シーズンだけですが、理想としているボランチ像に自分のプレーが近付きつつあると思っています。クラブでCBやSBの位置に入り、年代別代表やA代表だけボランチとしてプレーしていた頃に比べたら間違いなく自分は成長できていると思うし、自分が求めていたものはこれなんだと感じる機会は多くなりました」

――元々自信のあった部分だと思いますが、空中戦とデュエルでの強さは現地紙などでも評価されていました。
「ブンデスでは、とにかくデュエル、1対1の部分でしっかり勝っていかないといけない。でも、そういう環境に身を置くことで成長したというよりも、今まで自分が積み上げてきたものがブンデス2部でも通用した感覚が強いです。ブンデスの2部とは言え、今まで自分がやってきたこと、考えてきたことをシンプルにシーズンを通してしっかり出せた結果が空中戦やデュエルの勝率の良さにつながったと思います」


ボールに関わる回数は誰よりも多い
そこがボランチの一番面白い部分


――過去にはボールを受けた後のプレーを課題として挙げていましたが、大きな成長を感じていると思います。まずはボールを受けた際のファーストタッチで前を向く回数や相手をはがす場面が増えたと感じます。
「確かにボールの置き所は意識しています。昔の自分だったら、相手のプレッシャーを感じたときにシンプルにワンタッチではたくプレーを優先的に考えていたけど、ベルギーに移籍してドイツに来てからは変化があると思う。中盤の選手はプレッシャーをすごく受けるポジションだけど、ただワンタッチではたくプレーだけではなく、いかにプレッシャーがある中でもファーストコントロールを自分の置きたい場所に置いてスムーズにプレーできるか。そこは意識してきた部分です」

――前を向いた後は勝負のパスへのこだわりが強かったと思いますが、今はバックパスや横パスを効果的に使っている印象です。
「あまり無理はしないようにしていますが、監督からは常に前を見て縦にボールをつけろと要求されているし、そこは僕も元々意識が強かった部分なので継続はしています。でも、ゲームの中でどうしても前を向けない場面はある。その後の判断に変化があって、例えば今までなら右SBからボールを受けたら、ワンタッチでそのSBに返すことが多かったけど、一回コントロールして逆のCBに出したりして、サイドを変える意味でのバックパスや横パスは増えたかもしれません」

――勝負のパス、チャンスへと結び付ける縦パスの正確性やパススピードが上がったと感じますが、取り組み方を変えた部分はありますか。
「周りの選手のパススピードが速いので、何か意識を変えたというよりも、その環境に身を置いたことで自然と身に付いていったと個人的には思っています。浦和からベルギーに行った時もそうだし、ベルギーからドイツに来た時もそうだけど、環境が自分を変えるということが大前提にある。それにプラスして、レベルの高い環境に身を置けば置くほど成長していける感覚があります」

――ボールを受けるときも、次にどうしようか考えることを楽しみながらプレーしていますよね。
「そこがボランチの一番面白い部分だと思っています。90分間の中でボールに関わる回数はどの選手よりも多いと思うし、その分、一つひとつのプレーに責任感を持たないといけない。だからこそ、やりがいがある。ボールを受けたくないではなく、失ってもいいからボールを受けてチャレンジし、それができなかったときに何が原因だったかを考えながら次につなげていく。そういう良いサイクルに入れば、中盤の選手として成長できると実感しています」

――「限界を感じる」と語っていたボランチでのプレーですが、可能性が大きく広がったようですね。
「リオ五輪の経験やロシアW杯で出場できなかった思いとか、そういうことを考えると、こだわってボランチで勝負して本当に良かった。ある意味そこでしか、僕が海外や代表でスタメンを勝ち取るのは難しいと思っていたので。やっと、27歳にしてやっとブンデス1部に挑戦できますが、これも自分にとって一番早い、最速のタイミングだったと思えるし、ブンデス1部に挑戦できることが楽しみでしかない。自分がボランチとしてブンデス1部でどれだけやれるか、そこにこだわってトライしていきたいです」

――ブンデスリーガの日本人選手と言えば、アジア人最多出場記録を更新し、クラブでも確固たる地位を築いている長谷部誠選手(フランクフルト)がおり、同じボランチとして学ぶことも多いと思います。
「あれだけ経験があり、ブンデスで13シーズンもプレーしているハセさんにはリスペクトしかありません。日本人選手としてハセさんが色々な結果を残してくれたし、間違いなく目指すべき一つの目標になってくれています。ただ、ハセさんもボランチとしてコンスタントに出場していた期間はそれほど長くなく、SBやCBでプレーしているイメージが個人的にはあるので、僕はとにかくボランチでプレーし続けることにこだわって結果を残していきたい」

――“相棒”となるPUMA「FUTURE」の印象を教えて下さい。
「スパイクは履きやすさが一番大事だと思っていますが、『FUTURE』はアッパーの部分がとても柔らかくてフィット感があるので、すごく履きやすいです。『FUTURE』だけでなく『PUMA』には野生感があるイメージが僕にはあり、守備でがっつり行くプレースタイルとフィットしていると感じるので、『PUMA』のスパイクは自分に合っていると思う。『FUTURE』は履きやすさや軽さがある中でも、しっかりトライできるスパイクになっているので、デザイン性を含めてとても気に入っています」

――「NET FIT」システムによって、靴紐を自由にカスタマイズできるのが特長の一つです。
「靴紐の位置を自分で変えられるのはすごく良いですよね。今は自分の型というか、気に入ったところに紐を通していますが、最初は紐なしでやってみたり、ちょっとワイドにしてみたりしていました。いろいろな場所を試してみて最終的には自分が履きやすい形を見つけられるので、一人ひとりが工夫しながら履けるスパイクだと思います」

――16年リオ五輪、18年ロシアW杯では悔しさを味わったことで、オーバーエイジで呼ばれる可能性がある東京五輪、そしてカタールW杯への思いも強くなっていると思います。
「東京五輪はオーバーエイジ枠で入れるかどうかだし、正直、そこで誰が呼ばれるかは全然分からないけど、常に呼ばれる準備をしておきたい。呼ばれたらいつでも行けるようにしておくことが大事だと思う。そのためにも、まずはクラブでコンスタントに試合に出続けなければいけない。新シーズンからブンデス1部でプレーできるので、ずっと試合に出て良いプレーを続けていれば、20年の夏よりも21年の夏の方が良い状態で臨むことができると思う。それを継続することが、22年のカタールW杯にもつながっていくと思うので、まずはシュツットガルトで、ブンデス1部でプレーし続けることを目標としてやっていき、その先に東京とカタールがあればいいと思っています」

(取材・文 折戸岳彦)

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