beacon

【インタビュー】「おもろない選手になるのが怖かった」…MF堂安律、ドイツで示した変化

このエントリーをはてなブックマークに追加

ビーレフェルトMF堂安律

↑クリックして今すぐゲキサカオンラインストアへ↑

 
日本代表MF堂安律は今季、オランダからドイツに新天地を求めた。1年前、PSVでは本領を発揮できずに苦しんでいたものの、ビーレフェルトでは開幕から全試合先発出場を続け、躍動したプレーで攻撃陣をけん引している。ドイツでのチャレンジをスタートさせて半年。果たして、22歳の若武者にどのような変化があったのだろうか――。※取材は1月18日にオンラインにて実施


1年前はドリブルで抜けていない感覚があった
小学生がするような初歩的な練習に取り組んだ


――オランダからドイツへと移籍し、心機一転、新たなチャレンジを楽しんでいるように見えます。
「それを求めてドイツに来ました。自分には何か変化が必要で、ほとんどすべて、気分も変えて半年間取り組んできました。一皮むけたいと思って移籍を決断しましたが、今はピッチ上で自分を表現できるようになってきて、躍動感あるプレーを少しずつ出せていると思います」

――オランダとドイツのピッチ上での違いをどう感じていますか。
「ドイツの方が比較的、プレーしやすく感じています。クラブの違いもあり、オランダではPSVと対戦したチームは基本的に引くため、積極的にボールを奪いに来ない相手に仕掛ける難しさがありました。スペースも限られていたので、バチバチしながらゴリゴリ行く自分の特長を出し切れなかったけど、ドイツではボールを奪いに行く習慣があります。デュエルは五大リーグの中ではプレミアの次に激しいと思うけど、バチっと体をぶつけるところは僕の強みなので、奪いに来てくれる分、オランダよりも相手をはがしやすいし、抜きやすいと感じています」

――体格では相手に分があっても、簡単に倒される場面は少なく感じます。
「元々、自信がある部分なので、そこの心配はなかった。海外でプレーする他の日本人選手と比較しても、当たりの強さは自分の特長だと感じています。そこがベースにあるのは自分にとっても大きく、プラスアルファで日本人の特長であるアジリティや賢い判断力を出せれば、間違いなく成長できると思っていました。体の強さの特長を出せているのは、この半年間の良い部分だと思います」

――体の強さを出すだけでなく、以前よりもスピードの緩急をつけたドリブルで状況を打開する場面が多くなったように思います。
「1年前にPSVでプレーしているときに、ドリブルであまり抜けていない感覚があった。だから、トレーニングを変えて、小学生がするような、初歩的なドリブルの練習をするようになりました。本当に単純ですよ。マーカーを5、6個置いて、相手と対戦するイメージでドリブルを繰り返す。緩急をつけたり、一度止まってみたり、相手の間合いを見ながらドリブルする練習を、この半年間は続けてきました。ドリブルの良い感覚が少しずつ戻ってきたことは、自分にとっても大きかったと思う」

――その練習はドイツに来てから取り組み始めたのですか?
「ドイツに来てからですね。アタッカーとして、何かおもろないプレーをしているなと思っていたので、自分の映像を見返しました。映像を見ていても誰もワクワクしないプレーをしていたので、すごく葛藤があった。もう一度、チームの中心としてプレーできるように、あいつがボールを持ったら何かしてくれそうだというプレーをするためには、やっぱりドリブルをしないとアカンと基本に戻りました。ドリブルからのシュート練習にも取り組んでいますが、今フォーカスしているのはドリブルですね」

――練習を積み重ねることで、結果がすぐに出たということでしょうか。
「技術面が成長したというよりも、頭のイメージとかメンタル、感覚の部分が変わった。スピードのトレーニングもしてきたので、単純に足が速くなったというのもデータに表れています。これまでトレーニングしてきたものが自分のモノになり、すべてが噛み合ってきた感覚があります」

――ドリブルにつなげるファーストタッチの意識に変化はありましたか?
「特に意識は変えてないけど、最近はよくボールが止まっているし、ファーストタッチが前に向かっているので、相手にとって脅威だろうと思う。最近、ファーストタッチが良いところに置けているし、一つ目のタッチでスピードに乗れている。ファーストタッチで勝負できると自分から仕掛けられ、逆にファーストタッチが悪いと相手にプレッシャーを掛けられてしまう。後手を踏んでしまうのはアタッカーにとって一番良くないけど、先手を取れているのは良いことだと思っています」


マインドで変えたのが「今日、点を取ろう」ではなく
「今日、5本以上シュートを打とう」と考えること


――PA外、右45度でボールを持ったときに「何をしてやろうか」と楽しんでいるように見えます。
「どうやって、相手をいなそうかなと考えていますね。最近は、相手の左サイドバックを途中で交代させてやろうと思いながらプレーしています。それは完全に相手が嫌がっている証拠なので、その部分でも楽しんでいます」

――ボールを受けた後のプレーの選択肢として、現在上位にあるものは?
「ボールを前に運ぶことです。1年前の僕や半年前の調子が悪かったときは、バックパスが圧倒的に多かった。自分では『こうしたい』と考えていても、試合ではできないこともありました。でも、それだったら、前にチャレンジのパスを出して失ってもいいという感覚になった。そうでなければ、自分はおもろない選手になってしまうと分かっていたし、それが怖かった。ドイツに来てから考え続け、悩み続け、チャレンジし続けたからこそ変われたと思う」

――PSVでは苦しいシーズンを過ごしましたが、その経験をプラスにつなげられた印象を受けます。
「間違いなく、あの1年間は辛い時期だったけど、あの経験があったのは大きかった。よく、本田(圭佑)さんや長友(佑都)さんが『壁があったら、自分が成長できるチャンス』と話していましたが、僕にはその意味がよく分からなかった。今まではずっと、『壁なんて、ない方がいいやろ』と思っていた。でも今は、壁を乗り越えたことで成長できた自分を感じられているので、ようやく、あの言葉の意味が分かったと感じます」

――ビーレフェルトでは全試合先発出場しており、監督やチームメイトからの信頼も感じると思います。
「かなり信頼は感じています。だからこそ、チームを残留させなければいけない。自分がチームの中心でやっている以上、残留させないといけないプレッシャーも感じますが、そのプレッシャーが自分を成長させてくれると思っています。本当に良い環境にいられていると感じていて、子供の頃に戻ったような気分です。必死にボールを追い掛け、仲間からパスを受け、ゴールを生み出すプレーをしてチームを勝たせたい。そんな、子供の頃のような気持ちでプレーできています」

――チームから求められているものを、ご自身ではどう考えていますか。
「得点やアシストです。ここ数試合は結果を残せていないので、不甲斐なさを感じています。ただ、そこに行くまでの回数はかなり多くなってきているので、求められていることに少しずつ近付けているとは思います」

――迷いなくフィニッシュに持ち込んでいることで、シュート数も増えていると思います。
「圧倒的にマインドで変えたのが、『今日、点を取ろう』ではなく、『今日は5本以上シュートを打とう』と考えること。ゴールという結果ではなく、そこまでの過程に集中するようになった。単純な計算ですけど、シュートを5本打てばゴールの確率は上がるから、ドンドン打ってやろうという感じです。今は、いろいろなところに変化を加えながらプレーできていると思います」


仲間やファンから「ドウアンはどうなるの?」の声も
「今はいらんことを俺に言わないで」


――欧州のトップクラブであるバイエルンやドルトムントと対戦することで、差を感じた部分はありましたか。
「バイエルンは圧倒的に強かったし、バイエルンやドルトムントの選手の止めて蹴る部分の質や、あれだけ良い選手がこんなにシンプルなプレーをするのかと感じました。ただ、ビーレフェルトと対戦するバイエルンと、チャンピオンズリーグでプレーしているバイエルンは違います。僕はバイエルン戦でゴールを奪い、『あのバイエルンからゴールを決めた』と言われますが、そうではない。バイエルンがチャンピオンズリーグの試合で出しているクオリティーの中で、同じことをやれないといけないと思っています」

――ドリブルやスピードなどを成長させてきましたが、今後に向けて課題と感じている部分は?
「シュート精度を上げないといけない。あとは、ラストパスの部分ですね。僕は純粋なフォワードではなく、ウインガーとしてプレーしているので、アシストの数字も必要になってくる。試合を見返すと、最後のパスの精度さえ良ければ、点が入ったというシーンが結構あるんですよ。ラストの10メートルほどのパスですが、そこの強弱を含めて、トップの選手と比べるとまだまだだと感じているので成長させないといけないと感じています」

――ブンデス初ゴールは第4節のバイエルン戦でした。PUMA「ULTRA(ウルトラ)」を初めて履いて臨んだ試合だったようですね。
「オランダとドイツとではインテンシティが違い、上下運動もドイツの方が速いので、スピードの出るスパイクである『ウルトラ』を履かせてもらうようになりました。初めて履かせてもらったときから、履き心地がすごく良かったし、バイエルン戦で履いてみようと思って臨んだら点を取れたので、そこからは『ウルトラ』の虜です。バイエルン戦で奪ったゴールによって、監督やチームメイト、サポーターからの信頼をより感じられるようになったので、周囲の目を変えた意味でもあのゴールは大きかった」

――『ウルトラ』の気に入っているポイントを教えて下さい。
「皮が薄いので素足に近い状態でボールを蹴れるし、圧倒的に軽い部分が気に入っています。あとはスパイクによってスピードが引き出される感覚があり、バイエルン戦のゴールシーンのように一度またいでから縦に行く初速や、一歩目からアジリティを出せる感じは他のスパイクとは全然違います。スピードを出せるだけでなく、カットインしたときにキレ味を出せるので、自分のプレースタイルには『ウルトラ』が一番フィットすると感じています」

――ご自身にとって、スパイクはどのような存在ですか。
「一番大事だし、一番こだわれる部分だと思います。ユニフォームはクラブが決めるけど、スパイクは自分で選べます。自分の好きなスパイクを履けるので、スパイクに足を入れた瞬間に『よし、今日も行けそうだ』と思わせてくれるようなスパイクを選びたいと思っていた。試合前に靴紐を結んでいるとき、『ウルトラ』はそんな気持ちにさせてくれるスパイクだと感じています」

――PSVからの期限付き移籍ということもあり、オランダ紙やドイツ紙では来季の去就についても注目されています。現時点で来季以降のプランはどう考えていますか。
「少しずつですけど、ドイツでも僕の名前を知ってもらい、オランダの記事だけでなく、チームメイトやファン・サポーターからも『ドウアンはどうなるの?』と言われますが、本当に頭の中に入れないようにして、耳を塞いでサッカーに集中している状態です。本当に来シーズンのことは分からないので、『今はいらんことを俺に言わないで』という感じです。過去には移籍したいと考え過ぎて失敗したこともあり、考えても無駄なことだと分かっているので、今はシーズンが終わる5月まで突っ走ろうと思っています」

――残りのシーズン、どのようなことを意識して過ごしていきますか。
「日々、うまくなりたい気持ちを持ってプレーします。もちろん、プロである以上、数字や結果にもこだわっていきますが、根本では、『今日よりも明日うまくなりたい』気持ちを持ってプレーしたい。『今日の自分に勝つ』ことを意識してトレーニングを続ければ、自然と夢に近付くと思っています。僕には、20代後半にはチャンピオンズリーグで優勝したい夢があります。3年、4年をかけて自分が成長できれば達成できる夢だと思っているので、その夢を叶えられるように一日一日を過ごしていきます」

(取材・文 折戸岳彦)

TOP