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ポーランド電撃移籍の奥抜侃志「この状況で大宮を抜けるのは…」決断の裏にあった葛藤と覚悟【単独インタビュー】

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グールニク・ザブジェに加入したMF奥抜侃志

 欧州リーグの移籍ウインドーが佳境に入っていた8月31日、大宮アルディージャ所属のMF奥抜侃志がグールニク・ザブジェ(ポーランド1部)に期限付き移籍することが発表された。すでに現地入りしており、9月上旬からは新天地のトレーニングにも参加。『ゲキサカ』では中学時代から過ごしたクラブを初めて巣立ち、念願だった欧州挑戦を実現させた23歳に単独オンラインインタビューを行った。

——移籍のニュースは驚きました。周囲からの反響はいかがでしたか。
「多くの方から連絡が来て、次の日はほとんど返信に時間を使っていました(笑)。あまりネガティブな反応はなくて、『頑張れ』というようなポジティブな反応が多かったので良かったです」

——オファーをもらった時はどのような気持ちでしたか。
「やっぱり嬉しかったですね。生活面では心配もあったんですが、自分の気持ちを大事にしたら挑戦したいという気持ちが大きかったので、すぐに行きたいという感じでした」

——自信のほどは。
「あまりネガティブなことは考えないタイプなので、いまはすごく自信に満ちあふれています。早くプレーしたいという気持ちが強いですね」

——一方、現在J3降格の危機に瀕している大宮の現状を考えると、迷いもあったのではないでしょうか。
「中学生から11年間大宮で過ごしてきたので、この状況で大宮を抜けるというのは、試合に出ていた身としてすごく考えさせられるところはありました。ただ、そこに対する責任や自覚を持ってこっちに来たので、いまはここで成功するんだという気持ち、絶対に失敗できないという気持ちが強いです。ガムシャラに頑張っていきたいです」

——今季は19試合の出場でしたが、とくに相馬直樹監督の就任後はますます存在感が増していた印象でした。
「8月に入ってから2連勝することができていて、チームの流れもちょっと上向きになっていたので、そこですごく悩みました。移籍で流れを変えてしまうこともあるのかなとも考えましたし、ここでチームを去るとなると、(すでに移籍ウインドーが閉じていた)日本では新しい選手の補強もできない状態なので、自分もすごく心が痛かったです。ただ周りの選手たちや、強化部の方たちが後押しをしてくれたので、いまはそのことに感謝して、前を向いてやってやろうという気持ちです」

——周囲からはどのような後押しがあったんですか。
「一部の人からはシーズン途中での移籍を反対されたのですが、後押ししてくださった方の中には海外経験がある人もいて、『一生に一度しかないから』という言葉をかけてくれましたし、悩んでいる時には監督のエピソードも聞いて『ここで挑戦しなきゃいつか後悔する』と思って決断しました」

——監督からはどんな言葉を……。
「実は監督が若い時、海外挑戦ができるという機会があったらしいんです。ただ、その時は行かない決断をしたそうで、『いまはすごく後悔している』というふうにお話されました。『もし自分がその当時に戻れるとしたら絶対に行っていると思う。だから侃志はいま行きたいという気持ちが少しでもあるんだったら行ってこい』という話をされて、その言葉がすごく残っています」

——それは重く響きますね。
「監督自身は行ってほしくないという思いだったようなんですが、俺のことを考えたら……というふうに言ってくれたので、すごく感謝しています」

——他の選手の反応はいかがでしたか。
「後輩は『僕も後を追います』と言っていたので、自分が道しるべというか、しっかりとここで活躍して、大宮ユース出身の選手がヨーロッパでも活躍できることを証明したいと思います」

——大宮ユースの看板を背負う存在になりますよね。
「自分が初めて欧州リーグに挑戦する選手になるので、責任と重みはしっかりと感じています。ここでなんとなくプレーするんじゃなくて、一日一日を命がけで戦うという気持ちを持ってプレーしたいです」

——ちなみに海外への意識はいつ頃からありましたか。
「小さい頃からずっと持っていましたけど、中学に入ったくらいからはかなり意識していました」

——具体的に世界を意識したきっかけは。
「中学2年生の時に大宮ジュニアユースでオランダ遠征に行ったんですが、そこで現地の選手と対峙した時に自分的にはすごく好感触で、海外の選手のほうが日本人選手よりも抜きやすいなというのは感じていました」

——プロに入ってからは海外挑戦をどのような位置づけとして捉えていましたか。
「同年代の選手が海外に行く姿を記事とかで見ていたりしたので、そこは意識していました。特に橋岡選手(浦和ユース出身の橋岡大樹/シントトロイデン)がベルギーに行った時は、自分も早く行きたいなと。今年もJ2から何人か海外に行っていたので、すごく刺激になっています」

——実際に海外移籍が実現したタイミングについてはどう捉えていますか。
「自分の理想ではもうちょっと早く海外に行きたかったなというのが正直なところです。ただ少し遅れたぶん、Jリーグで経験したものは大きかったと思います。この経験があったからこそ前向きに自信を持って挑戦することができるので、いまはすごく楽しみな気持ちです」

——Jリーグでプレーする経験を重ねるにつれて、背負う責任も大きくなっていったことも大きいのでしょうか。
「昔は自分のことだけを考えてプレーしていたんですけど、ここ数年の勝てていない時期はチームのためにプレーするということをすごく考えさせられました。自分のためにプレーしていても結果が出ないことが多くて、チームのためにプレーするようになってからは大事なところでパスが来るようになったり、結果が出るようになりました。今回のチームもみんながチームのために戦う気持ちが強いので、大宮で経験していたことで溶け込める状態にあるなと感じています」

——そう思えるのは大宮でプレーし続けたからでもあると思います。海外挑戦のルートとしては、J1クラブを経由して羽ばたく選択肢もある中、大宮から直接移籍するということについてどう捉えていますか。
「実は3年目くらいまで『大宮から海外に』という思いがすごく強かったんですが、4〜5年目になってチームとしての結果が出なくなった頃に、『日本で上に行ってからのほうがいいのかな』という考えになったこともありました。その時は正直、海外が遠のいている感じがあったので……。ただ、このチームから海外に出ることに意味があると思ったので、必ず大宮から海外挑戦することにこだわりを持ち続けていました。今回そういう形になってすごく嬉しく思います」

——日本人選手がそう多くないポーランドへ行くことについて迷いはありませんでしたか。
「まずはヨーロッパに行かないと市場に入らないと思っていたので、迷いはなかったです。ここはドイツも近いですし、日本よりも多くのスカウトが直接試合に来るそうです。またこのチームから最近ACミランに移籍した選手もいますし、見ているチームは見ているんだなと思います。Jリーグで活躍するのとこっちで活躍するのとではステップアップできる可能性も全然違うと聞いていましたし、結果を残せば可能性が広がるため、早くその市場に入りたいという思いが強かったです」

——すでにポーランドに入っているそうですが、環境はいかがですか。
「自然がいっぱいあって、住みやすそうです。また選手たちもフレンドリーなので、すごく良い環境かなという感じです」

——トレーニングはいかがですか。
「(取材時点で)まだ参加したのは1日だけですがいい感じですね。アジリティは日本に比べてそこまで高くない印象があるので、うまく自分の特長のスピードを出せたらいい感じにできそうです。細かいタッチや一瞬のスピードは自分でも自信を持っていますし、練習した中でもちょっとしたボディフェイントで引っかかってくれる部分もあったので、こっちに来てからも少し自信が出てきました。あとは結果を出せば注目されると思いますし、第一に結果を求めてやっていきたいなと思います」

——チームからはどういったものを求められていると感じますか。
「個人としてはドリブルや結果だけでなく、一番求められるのがインテンシティだと感じています。監督も守備の強度や走るところを大事にしているので、日本人のスタミナやアジリティを活かしながらチームに貢献していけば、おのずと上は見えてくるのかなと思います」

——そのあたりもJリーグで学んだ部分と言えそうですね。
「本当に昔は攻撃しかしない選手だったので(笑)、守備や切り替えの速さはプロに入ってからJ2で戦って身についたものだと思っています。いまはそこにもすごく自信を持っていますし、もっとうまく合わせていくことができれば、チームとしても助かるし、個人としても上に行けるアピールになるんじゃないかと思っています」

——最も大事な“結果”を出すためのアプローチは。
「海外は結果が評価されるところなので、まず決め切るところですね。日本にいた時はチャンスがあっても外す場面が結構多かったので。こっちのキーパーはすごくクオリティーが高いなと練習を見ていて思うので、しっかりと決め切るところを意識してやっていきたいなと思っています。」

——やはりGKのレベルが高いんですね。海外にも名選手が数々いますが、JリーグにもGKヤクブ・スウォビィク(FC東京)、GKカミンスキー(元磐田)といったポーランド出身GKの活躍が目立っています。
「本当にそうですね。反応がすごく速いし、身体も大きいので、ちょっとシュート練習した時にもう少しシュートスピードを上げないと触られちゃうなというのを感じました」

——すでにシーズンは始まっていますが、ここから出場機会を獲得するためどのように取り組んでいこうと考えていますか。
「まずは自分の特徴を分かってもらわないといけないですね。スピードもそうですし、足元でもらった時に細かいタッチでリズムを作るところなど、練習でコミュニケーションを取りながら伝えていけたらなと思っています」

——最後に将来のビジョンを教えてください。
「やっぱり5大リーグでプレーしたいというのがあるので、まずはここで結果を残したいです。年齢的にもそんなに若いと言える歳じゃないので、1日でも早く上の舞台でプレーできるようになって、どんどん自分の名前を世界に広げていけたらなと思います」

(取材・文 竹内達也)



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