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山本昌邦のW杯分析「名勝負を支えたマネージメント力」

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 ブラジルW杯は決勝トーナメント1回戦が終わり、ベスト8が決定した。02年日韓W杯日本代表コーチや04年アテネ五輪U-23日本代表監督などを歴任した山本昌邦氏が、今大会屈指の名勝負を紐解く。

冴え渡るビルモッツ采配

 ベスト8を決める最後の試合となったベルギー代表アメリカ代表は、延長までもつれ、死闘と呼ぶにふさわしい一戦だった。

 ベルギーのシュートは120分を通して38本。枠内シュートは実に27本に及んだ。それでも2得点におさえられてしまったのは、アメリカのGKティム・ハワードの活躍が大きかった。2-1で勝利を飾ったベルギーのGKティボー・クルトワも好セーブを連発、ワールドクラスのGKが揃うと好ゲームになることを改めて証明してくれた。

 この試合では途中出場のFWロメウ・ルカクが2得点に絡む活躍を見せたが、今大会のベルギーはマルク・ビルモッツ監督の交代策が冴え渡っている。グループリーグの4得点のうち、3得点が途中出場の選手が挙げており、ブラジルではメディアを賑わせている。

 仮に先発からルカクが出場していれば、DFマット・ベスラーも対応できていたはずだが、ルカクが出てきた延長戦の段階では、FWディボック・オリジとの攻防でかなり体力を消耗していた。そんな状態でフィジカルにも優れたルカクとマッチアップしては、抑え切るのは難しくなってしまう。

 体力的な面でもベルギーは優位だった。グループリーグ3戦目でドイツと激闘を演じて2位に滑り込んだアメリカに対し、ベスト16入りを決めていたベルギーは3戦目で主力選手を温存できたからだ。

 ベストメンバーにこだわっているようでは、W杯では勝てない。先発選手をどう使い回すのか、交代はどのタイミングで誰を出すのか……、23人をいかにマネージメントするかが問われる大会なのだ。

優勝には「0.5失点」の守備力が必要

 ベルギーが放った38本というシュート数を見ると、攻撃力がクローズアップされがちだが、その強さを支えているのは守備力にある。GKのクルトワ、センターバックのDFビンセント・コンパニとDFダニエル・ファン・ブイテンが並ぶゴール前は世界トップクラスの強固さを誇るだろう。

 最後尾の3人だけでなく、チーム全体で守備意識が高くシュートブロックが多いため、ゴールマウスにシュートを飛ばさない点も素晴らしい。決勝点となったルカクのゴールの起点となったのは、ファン・ブイテンのシュートブロックだ。

 私は1試合平均「0.5失点」におさえなければ、W杯で優勝するのは難しいと思っている。ここまでの4試合でベルギーの失点は2で、平均「0.5失点」だ。短期間の大会で守備力が必要なことは歴史が証明している。前回南アフリカW杯で優勝したスペインも、攻撃力より守備力に支えられたチームで、7試合での失点はわずかに「2」だった。

初出場の19歳はなぜ得点できたのか

 敗れたアメリカも非常にいい戦いを見せていた。大会ごとに成長を感じさせるチームだ。選手はタフなメンタリティを備えており、中でもFWクリント・デンプシー、MFジャーメイン・ジョーンズ、MFマイケル・ブラッドリーは際立っていた。

 ベルギー同様、サブの選手も躍動していた。各チームともブラジルに入ってから3週間が経とうとしており、出場機会のない選手はどうしても試合感がなくなってしまう。いきなり試合に出て活躍するには、コンディションやメンタルを整えるために緻密な準備が必要となるのだが、今大会初出場のMFユリアン・グリーンは延長戦から投入されると、見事にゴールを決めてみせた。しかも彼はまだ19歳。育成という準備もしっかりできており、アメリカのマネージメント力の高さを見た。

 これでベスト8が揃ったが、コスタリカは非常におもしろい存在だ。イタリア、ウルグアイ、イングランドと同居した“死の組”を首位通過したのは実力以外のなにものでもない。スライディングを駆使したボールの奪い方や、素早く前線の選手に当てるボールの動かし方は新しい戦い方を提示してくれており、体格的に似ている日本は学ぶべきところがあると思う。

 世界のサッカーは、進化している。日本はなぜ敗れたのか? 監督選びの前に、まずは検証することから始めるべきではないだろうか。

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