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“疑惑のFK”で失点した日本、『ビデオ判定』は何故なかった? ロシアW杯GL第1節・VAR全事例集

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日本コロンビア戦、“疑惑のファウル”シーンで抗議するMF長谷部誠

 ロシアW杯から新たに導入されている『ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)』制度は、出場全32チームの初戦16試合を終えて、計4回の介入が行われてきた。だが、まだまだルールが周知されていないのも事実。ここでは全ての事例を見ながら、グループリーグ第1節を振り返ってみたい。(第2節はこちら)

 VARはビデオモニターを見ながら試合を追い、必要に応じて主審に助言を行う審判、またその制度のこと。一般には『ビデオ判定』とも呼ばれている。今大会では、モスクワの別会場に集まった国際主審4人が担当しており、①得点②PK判定③一発退場④人違いの4要素に関するものについて、「明白かつ確実な誤り」があれば判定に介入することになっている。(詳しくはこちら)

 ここまで介入があったプレーの内訳は、②PK判定が3回、③一発退場が1回。①得点に関しては、ゴールラインテクノロジー(GLT)という別のシステム(2014年ブラジル大会から導入)もあるため、VARに頼るような機会はなかった。またこれまでのところ、警告や退場の④人違いは起こっていない。

【事例1】大会3日目 フランスvsオーストラリア(②PK判定)
 記念すべき初めての介入が行われたのは、大会3日目のフランス代表対オーストラリア代表戦。スコアレスで迎えた後半9分、FWアントワーヌ・グリーズマンの突破に対し、併走するDFジョシュ・リズドンがスライディングで対応した場面だ。

 いったんプレーは流されたものの、VARからの連絡を受けた主審は試合を止め、ピッチ脇のモニターを確認。映像では、リズドンの右足がボールにかすっていたが、グリエーズマンの足にも接触していた。その後、主審は両手指で四角を描くサインを出し、VARによってPK判定を下した。グリエーズマンは自らPKキッカーを務め上げ、これがW杯史上初めての“VARゴール”となった。

 これについては、賛否がくっきりと分かれた。試合後、グリエーズマンが「足に当たって少し痛みがあった」と話せば、リズドンは「タックルした際にボールに触れていた」と抗議。VARの介入が「明白かつ確実な誤審」でのみ行われるという観点で見れば、やや微妙な介入であったと言える。なお、フランスの決勝点がGLTによる認定だったことも、あわせて話題となった。

【事例2】大会3日目 ペルーvsデンマーク(②PK判定)
 初めての介入から時間が経つこと約6時間。同日に行われたペルー代表デンマーク代表戦でもVARが登場した。スコアレスで迎えた前半44分、PA内で切り返そうとしたペルーMFクリスティアン・クエバがデンマークFWユスフ・ポウルセンに倒された場面だ。

 このシーンでは接触の疑いがあってから、約30秒間にわたってプレーが止められず、中盤でデンマークがボールを回している最中に、突如としてホイッスルが鳴らされた。本来であれば、主審はVARとコミュニケーションを取っている間、片耳の通信デバイスに手を当てるサインを出すことが定められている。だが、それが行われなかったことも混乱を後押しした。

 とはいえ、主審がスローモーション映像を確認すると、残された足に相手選手の接触があったのは明らかだった。前半アディショナルタイム1分、ようやくPK判定が下されると、クエバがペナルティースポットについた。だが、クエバはこのPKを大きくふかしてしまって失敗。ペルーはテクノロジーの活躍を生かすことができず、奇しくもポウルセンの決勝点で敗れることとなった。

【事例3】大会4日目 コスタリカvsセルビア(③一発退場)
 17日に行われたコスタリカ代表セルビア代表の一戦では、これまでと異なる形でVARが存在感を示した。セルビアの1点リードで迎えた後半アディショナルタイム、セルビアFWアレクサンダル・プリヨビッチがボールを追う際、後ろから走ってきたコスタリカDFジョニー・アコスタの顔面に手が当たったという場面だ。

 ここで問題となったのは、プリヨビッチの行為が一発退場にあたる反則かどうかだ。故意のヒジ打ちであった場合など、レッドカードが提示される可能性がある。しかし、接触したのは手の平だったため、ここではイエローカードが出されるにとどまった。

 なお、VARの対象は一発退場にあたるかどうかの反則だけであり、イエローカードはその対象にならない。だが、今回のように、一発レッドの疑いがあった場合に、イエローカードに格下げされることは起こりうる。また、2枚目の警告が疑われた場合でも、介入は行われないという点に注意しておきたい。

【事例4】大会5日目 スウェーデン対韓国(②PK判定)
 18日のスウェーデン代表韓国代表戦では、Jリーグで活躍した選手がVARによる反則対象となってしまった。問題が起きたのは後半18分、自陣PA内でのこぼれ球に反応した元鳥栖の韓国DF金民友が、スライディングでスウェーデンMFビクトル・クラーソンを倒してしまったシーンだ。

 主審の位置からでは接触場面が見えにくかったのか、ただちに試合が止められることはなく、流れたボールを拾った韓国の選手たちが一気にカウンターを開始。相手ゴール前でのチャンスシーンでようやくホイッスルが吹かれ、主審はビデオ映像を確認するため、ピッチ脇モニターに向かった。映像では金民友の足はボールに触れておらず、明らかなファウルがあったとしてPK判定が下された。

 このPKを後半10分、DFアンドレアス・グランクビストが決め、スウェーデンの決勝点となった。なお、もし金民友のスライディングがファウルでなかった場合、ドロップボールで試合が再開されるため、韓国はカウンターのチャンスをフイにした形になってしまう。したがって、VARが主審とトランシーバーで入念に連絡を取り、PKの確信を持って介入が行われたとみて良いだろう。

【※例外事例】大会5日目 コロンビア対日本
 VARの介入が行われなかったシーンでも、ファンを中心にVARの介入を求める声が多々あった。象徴的だったのは日本代表コロンビア代表戦の前半37分。MF長谷部誠がFWラダメル・ファルカオと競り合い、コロンビアにFKが与えられたという場面だ。長谷部が身体をぶつけられているように見えるため、ネット上では「VARはないの?」という疑問が発生。直後に失点を喫したこともあり、その疑問は大きなものとなっていた。

 ところが結論を言えば、ここでVARが出てくる可能性は限りなく『ゼロ』である。その理由は、VARの介入対象となる①得点②PK判定③一発退場④人違いという4要件のいずれにも該当しないためだ。また「VARを求めないの?」という声もあったが、これも適切なアクションではない。規則では、選手がVARを要求するジェスチャーを行った場合、無条件でイエローカードが提示されることになっている。

 その他、各国メディアではアルゼンチン代表アイスランド代表戦、イングランド代表チュニジア代表戦などで、PA内の反則に際して「VARが介入するべきだったのではないか」「PKを取るべきだったのではないか」という議論があちこちで巻き起こっている。

 とはいえ、これらはVARの介入条件である「明白かつ確実な誤審」であるとは言えなかった可能性が高い。“神の目”のように思われるVARは、あくまでも「アシスタント」という立場。基本的には、主審が自らの目で判断したジャッジが優先されることになっているということも、合わせて確認しておきたいところだ。

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