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モロッコ大躍進の陰に元リバプール分析官。見破っていたクルトワの癖、CL大逆転導いたボールパーソン会議

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リバプール時代のハリソン・キングストン氏(2列目右から1人目)

 カタールW杯でアフリカ勢史上初のベスト4入りを果たしたモロッコ代表の躍進の陰には、かつてリバプールでUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)制覇を成し遂げた分析スタッフの存在があったようだ。イギリス『BBC』が24日、ハリソン・キングストン氏(36)の特集記事を掲載している。

 イギリス出身のキングストン氏は、モロッコ代表のパフォーマンス分析担当ディレクター。カーディフの大学でコーチングなどを学んだ後、カーディフ、トッテナム、バーンリーなどで分析担当を務め、2012年8月から8年間にわたってリバプールに在籍していた。

 就任当初はブレンダン・ロジャース氏がチームを率いていたが、ユルゲン・クロップ監督になっても職務を継続した。キングストン氏は「彼はトレーニングの激しさで有名だが、過密なカレンダーによってトレーニングの時間がほとんどなかった」「ピッチで何かをする時間がないので非常に膨大な量のビデオ作業が行われていた」と当時の思い出を振り返っている。

 なかでも印象的なエピソードとして明かされたのは、欧州制覇を成し遂げた2018-19シーズンの欧州CL。準決勝でのバルセロナ戦の大逆転劇だった。決勝点となったFWディボック・オリギのゴールはDFトレント・アレクサンダー・アーノルドの素早いコーナーキックから生まれていたが、そこには分析担当目線での伏線があったようだ。

 敵地での第1戦に0-3の大敗を喫した後、キングストン氏は「ほとんど圧倒していたのにどうしてあんなスコアになったんだと頭を悩ませながら帰っていた」そうだが、そこで着目したのはボールパーソンの振る舞いだった。ラウンド16で対戦したバイエルンでは「訓練された機械のように」迅速にボールを渡していた一方、バルセロナでは「非常に遅かった」ことが思い浮かんだ。

「振り返ってみると、それは意図的だったことが分かった。ユルゲンがインテンシティを落とし込むのとは違い、バルセロナは試合をスローペースにすることに適応したチームだった」。

 そこでキングストン氏はコーチングスタッフとともにボールパーソンとのミーティングを実施。ビデオを見せながら「12番目の選手であり、試合を見ているのではなく参加しているんだ」と伝え、ボールの供給速度を上げるように求めた。その結果、2戦合計スコア3-3で迎えた後半34分に当時15歳だったボールパーソン、オークリー・キャノニエ(現U-21の選手)が素早くボールを供給。これが“アシスト”につながっていたのだという。

 もっともその後、キングストン氏は「達成すべきことを達成したのだから、旅立つのに適切なタイミングだと思えた」とリバプールから離れ、国外での挑戦を決断した。モロッコは「最初の選択肢ではなかった」そうだが、モロッコサッカー連盟が国王の支援で完成させたばかりの大規模施設や、そこを利用する8〜80歳の選手たちの姿を見て、20年8月から同連盟に加わる形となった。

 アフリカの異国でカタールW杯を目指す挑戦を始めたキングストン氏だったが、本大会3か月前にバヒド・ハリルホジッチ前監督が解任され、野心を持って挑んだ仕事が道半ばで終わりそうな危機感もあった。「あの監督交代はどっちにも転ぶ可能性があった」とも認める。

 それでも後任のワリド・レグラギ監督が前体制下で悪化していた選手の関係性を回復。キングストン氏は「選手たちは個々に才能があって最高レベルの舞台でプレーしていたが、課題はそれをまとめることだった。監督がした最大のことはモロッコの選手の精神を利用したことだ」と述べ、ヨーロッパの生活様式とモロッコの文化的価値観をいずれも理解する指揮官の貢献を前向きに明かした。

 また本大会でもキングストン氏は、分析ディレクターの立場からチームに貢献していた。一つ例を挙げたのはセットプレー。グループリーグの強者とみられていたベルギー代表と対戦するにあたり、GKティボー・クルトワの守備時の立ち位置に着目していたようだ。

「彼はセカンドポスト(ニアポスト)の少し後ろに立っている。彼はそれがやりやすいからだ。背が大きいし、飛び込んだり、何かを主張したり、活動的でありたいと考えている」。それを逆手に取り、モロッコ代表は執拗にニアポストを狙うことを共有。先制点はまさに狙いどおりの形で、MFアブデルハミド・サビリの左サイド角度のないところからのFKにDFロマン・サイスが合わせていた。

 もっとも一方、キングストン氏は分析スタッフの職務は限定的であるとも強調した。「私が何かを言ったり見せたりすれば、それが実現するだろうか。それはフットボールの論理ではない」。そう述べた同氏は「もし現実がそのように機能しているのだとしたら、毎週末すでに決まっていたかのような出来事がもっと起きているだろう」と控えめに語っている。

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