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[選手権予選]終了間際の劇的同点弾、蘇った夏の王者・麻布大附が延長戦制す:神奈川

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[10.12 全国高校選手権神奈川県予選3回戦 麻布大附高 2-1 川和高 日大藤沢G]

 第93回全国高校サッカー選手権神奈川県予選は12日、3回戦を行い、全国高校総体予選2連覇中の麻布大附高は昨年の関東大会王者・川和高と対戦。0-1の後半39分にMF中山克広(3年)のゴールで同点に追いついた麻布大附は延長前半6分にFW竿下征也(3年)が決勝点を決めて2-1で逆転勝ちした。麻布大附は25日の準々決勝で湘南工科大附高と戦う。

 2年連続で夏の神奈川王者に輝いている麻布大附。今年は関東大会予選も制しているが、トーナメント戦の初戦は“鬼門”だった。昨年の全国総体、選手権予選、今年の関東大会、全国総体はいずれも初戦敗退。加えて10番MF塚越亮(3年)が試合開始直後に負傷を抱えていた左ももを痛めて交代してしまう。さらに13分にはCKのこぼれ球を川和MF山田隆太(3年)に鮮やかに決められてリードを奪われてしまった。

 早くも暗雲漂った麻布大附は持ち味のポゼッションに加えて、夏から取り組んできたSBを交えた外からの攻撃で反撃。ただ、なかなかサイドで主導権を奪えず。また、中山、竿下、FW阿部速秀主将(3年)、そして交代出場の2年生MF大木健汰を軸とした中央でのアイディアあるパスワークで切り崩そうとしたが、中央に人数をかけて守る川和の守りは容易には崩れない。また出足の速い川和はボールホルダーとの距離を確実に詰めて相手に思い通りの攻撃をさせなかった。そしてオープンスペースへの飛び出しから迫力ある仕掛けを見せるFW佐々木大やFW北岡正平(ともに3年)らがしたたかに2点目を狙っていく。

 麻布大附は夏の全国総体初戦の尚志戦を1-2で敗戦。先制したものの前半のうちに逆転され、ハーフタイムのムードは最悪だったという。当時は自分たちから崩れてしまったが、同じくリードされて前半を終えたこの日は選手たちが前向きだった。安彦篤監督は「ハーフタイムに言っていたのは絶対に自分たちの時間帯が来る。だから、じわじわ行こうと。(選手同士で)意見出し合って確認できたし、気持ちが切れなかったのが良かった。ハーフタイムの雰囲気が(全国総体とは)違ったので。あの時は文句しかなかった」。また中山も「(自分たちは)負けていると顔の表情悪くなっちゃうんですよ。そこをきょうは結構いい顔でできたんですよ」と意識の変化を感じていた。
 
 1点ビハインドは選手たちに重くのしかかった。しかし、心にゆとりをもって戦っていた麻布大附は交代出場の近藤秀太(3年)が決定的なシュートを放ち、竿下のヒールパスから交代出場のFW山口諒(3年)が右足を振りぬくなどチャンスをつくる。尚志戦では早々とパワープレーにスイッチして勝ち切れなかったが、この日は焦れずに自分たちのスタイルで攻め続けていく。ただCB西宮康隆主将やGK新川大地(ともに3年)を中心に同点ゴールを阻止した川和は、攻撃面でもボールを簡単に失わない。そして佐々木の左クロスがいい形でPAの北岡に入ったほか、MF高田智大(3年)のラストパスから佐々木が左足シュートを打ちこむなど2点目をもぎ取ろうとする。

 麻布大附は29分に左サイドから切れ込んだ竿下が右足シュートを放ったがGK正面。それでも終盤はCB藤田和樹(3年)を前線へ上げ、トップ下の中山を左サイドに出して川和の守りを壊しにかかる。すると、39分に劇的な同点ゴールが生まれた。右FKのクリアボールをファーサイドで拾った中山が左足シュート。密集にできたわずかな隙間を抜けたボールは、ゴール左隅へ吸い込まれて同点ゴールとなった。安彦監督は「綺麗なゴールじゃないですけど、こういう粘りもできるというのがひとつ大きなことかなと。か弱かった感じを見せていた彼らがちょっと逞しくなれた」。華麗なサッカーをする一方で初戦で幾度も見せていた勝負弱さ。その印象を拭い去った瞬間だった。

 こうなると流れは麻布大附だ。延長前半開始直後には左サイドから中山、阿部とつないで交代出場のFW中尾亮介(3年)が右足シュート。そして6分、中尾が「(チームがピンチの時に)そういう時に自分が入るのは分かっていた。流れを変えてやろうと思っていた。思い切ってやろうと思って、縦行くのが武器なので、縦ボール蹴って、DFを振り切れたので中に強引に出した」と単独で右サイドを打開してからラストパスを入れる。これをDFを背負いながら受けた竿下が「最初、中尾からボール来て自分が要求したんですけど、一度ボール見えなくなったんですよ。それで一応相手抑えていたんですけど、(阿部)速秀がスルーして、これ無理かなと思って足出したらトラップできて。あとはそのままいつも通り、ゴール感覚っていうか。GKは受ける前に見ていたんで左に、腰捻って打ちました」と決勝点となる右足シュートをゴール左隅へ決めた。

 夏の王者は苦杯を糧に成長した実感がある。全国総体敗戦直後、落ち込む選手たちに安彦考真コーチや安彦監督は「オマエら、負けを認めろ。これは自分たちの負けだ。一からやりなおそう」と声をかけ、思いを立ち切らせるためにすぐに会場から撤収した。安彦監督が「何もできなかった。通用しないし、神奈川を代表して恥ずべきことだった」と振り返る敗戦から立て直し、神奈川のライバルたちを圧倒してきたポゼッションにサイド攻撃を加えた攻撃強化。そして「尚志の方が一歩目が全然早かった」(中山)ことから長距離のランメニューから、アジリティ強化へテーマを変えてトレーニングをしてきた。そして藤田、岸星斗(3年)のCBコンビ中心により強固になった守備陣。もう一度「日本一」という目標に挑戦するためのチームをつくってきた。

 チームの柱である塚越の負傷の状態が気がかりだが、夏場に長期離脱していた塚越の不在の間に取り組んできた自信と下級生たちの底上げもある。そして「間違いなく乗れました」(安彦監督)という初戦での劇的な勝利。勢いに乗った麻布大附が神奈川を突破し、現日本代表のDF太田宏介、FW小林悠を擁した05年度以来(当時は麻布大淵野辺高)となる全国切符を掴み取る。

[写真]延長前半6分、決勝ゴールを決めた麻布大附・竿下がチームメートたちと喜ぶ

(取材・文 吉田太郎)

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