beacon

[MOM2343]神戸U-18MF谷川勇磨(3年)_転機は『嫌われる勇気』、壁乗り越えた主将が守備で躍動

このエントリーをはてなブックマークに追加

キャプテンマークを巻いて躍動するヴィッセル神戸U-18MF谷川勇磨

[11.26 高円宮杯プレミアリーグWEST第16節 神戸弘陵高 0-4 神戸U-18 三木総合防災公園 陸上競技場]

 プレミアリーグWESTを制した2013年は、2年生ながらチームを統率したMF中井英人(現関西大)。チーム史上最多の勝ち点を手にした昨年度は、攻守で絶大な存在感を示したMF野田樹(現FC今治)。強い年のヴィッセル神戸U-18には、特徴であるポゼッションの起点となりつつ、主将としてチームをまとめる頼もしいボランチがいる。

 残り2節を残して、首位に立つ今年は、MF谷川勇磨(3年)が条件に当てはまるが、「技術はない」と野田知監督がキッパリと言い切るように、歴代の主将とは少し毛色が違う。球際の強さを活かしたボールハントや、周囲の状況を見ながら、バランスを取るなど守備が特長の選手だ。

 神戸弘陵高との神戸ダービーを戦った今節で目立ったところも、守備の部分だ。「相手のカウンターをいかにケアするかを考えていた」と振り返る通り、ボール奪取から素早く神戸U-18のDF裏を狙った神戸弘陵の攻撃を警戒しつつ、危ない場面でボールを持たれた際には身体を張って、シュートを防いだ。

 奪ってからは、「怪我人が帰ってきて、攻撃のクオリティーが上がっているので、そこをどう活かすか考えていた」とシンプルなパスを選択。「黒子の選手だと思っている」との自覚通り、渋いプレーで4-0の快勝を支え、試合後には野田監督から「守備で、しっかりと中央を埋めてくれた。ずっと本人に『守備がオマエのストロングなんだから』と言った通りに、彼の役割はしっかりと果たしてくれた」と及第点を貰った。

 今でこそ、堂々としたプレーでチームを引っ張る谷川だが、シーズンのスタートは、上手くいかないことだらけだった。新チーム立ち上げ当初は自らが志願し、キャプテンになったものの、ポゼッションが上手くできず、試合後に涙を流すこともあった。プレミアリーグWESTの開幕直前には、スタメンを外され、Bチームでのプレーも経験した。開幕後はスタメンで試合に出ていたが、キャプテンマークを巻いたのは、谷川ではなくMF佐藤昴(3年)。谷川は「新チームになった時は不貞腐れていたと思うし、チームが勝つために、自分が何をすべきか客観視できていなかった」と振り返る。

 転機となったのは後藤雄治コーチから渡された一冊の本だった。心理学者のアルフレッド・アドラーが提唱する「アドラー心理学」を基に、人間関係の悩みを解決し、“嫌われる勇気”を持ちながら自分らしく生きるための方法を紹介した『嫌われる勇気』(岸見一郎、 古賀史健著。ダイヤモンド社)だ。

 後藤コーチがこの本を渡したのには理由がある。現役時代の後藤コーチも、順風満帆なキャリアではなく、大津高に入ってすぐに大怪我をし、2年間プレーできなかった。ただ、怪我で悩んでいた時に、平岡和徳監督(現総監督)から「この怪我があったから、今の自分があるんだと思えるようになりなさい」と声をかけられたことで怪我という苦しい状況を前向きに捉えることができた。

 当時の自分と自らのプレーに悩む谷川を当て嵌め、「物事が良いか悪いかは捉え方次第。起こったことに対する捉え方次第で人生は変わる。谷川は能力があるし、凄い真面目だけど、前への進み方が分かっていなかったので、考え方を変えて欲しかった」。

 谷川が「価値観や、人間としての在り方を学ばせてもらった。そこが一つの分岐点だった」と話すように、読了後は持ち味である守備により力を注いだ。ボールを奪ってからは、自らが無理して頑張るのではなく、シンプルに味方へと繋ぐことを心がけた。“黒子”という新たなヴィッセルのボランチ像を築きながら、勝ち点を積み上げていくと、「キャプテンは自分でなるモノではない。周囲から認められた時に、自然とキャプテンマークを巻くようになる」という後藤コーチの言葉通り、後期からキャプテンマークは谷川に渡っていた。

 考えを変えることで苦しい時期を乗り越えた谷川と共に、チームも低かった前評判を覆し、首位で残り2節を迎える。「後藤さんがいなければ、今の僕がないと思うので、感謝しきれない。最後の2つ勝って恩返しがしたい。ここまで来たらメンタルの部分が勝負。次のガンバ戦も勝ち点3を加えるために、自分たちらしく泥臭くやるしかない」と意気込むように、ブレずに谷川らしい働きで、勝利に貢献する。

(取材・文 森田将義)
●2017プレミアリーグWEST

TOP