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「上で出せないと意味がない」 Bチームで関東王者の前橋育英、さらに手強いチーム内競争へ

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先制ゴールを喜ぶ前橋育英高の選手ら

[6.4 関東大会決勝 成徳深谷高1-2前橋育英高 正田スタ]

 第61回関東高校サッカー大会は最終日の4日、群馬県の正田醤油スタジアム群馬で決勝戦を行い、前橋育英高が初優勝を飾った。今大会はBチームでの参戦だが、ライバルのAチームを次々に倒しての快挙。山田耕介監督が見守る中、“昇格”に向けて絶好のアピールとなった。

 宇都宮短大附高(栃木)、東海大相模高(神奈川)を連戦で破り、ついにたどり着いた地元開催での決勝戦。すでに県内2冠を達成している成徳深谷高(埼玉)を迎え撃った。「今日が一番難しくなると思っていた」と櫻井勉コーチ。Aチームの選手もスタンドで応援する中、意地の一戦がキックオフした。

 堅守を持ち味とする相手に対し、序盤から一方的に主導権を握った。前半9分、裏に抜けたFW高橋優斗(3年)のシュートはGK神尾龍汰(3年)に防がれるも、同13分にも高橋に決定機。同20分にはロングボールに反応したFW倉俣健(2年)のキックがポストに阻まれるなど、得点の雰囲気が漂っていた。

 すると前半27分、ついに均衡が破られる。自陣右サイドでボールを持ったDF峯崎雄大(3年)が前に持ち出し、前線の動きを見てロングボールを配給。これがPA右にうまく落ちると、斜めの動きで走り込んだFW石井陽向(3年)が反応し、正確な右足ショットでゴールを打ち抜いた。

 一方の成徳深谷は直後の前半28分、MF岩崎蓮(3年)に代えてドリブラーのFW北原港(2年)を投入し、停滞した雰囲気の打開を図る。ところが長所であるはずのボディコンタクトが思うように通用せず、球際の部分で競り勝てず。MF長澤壮竜(3年)の突破を許すシーンも見られ、シュート0のままハーフタイムに入った。

 成徳深谷は後半開始時にFW戸澤雄飛(2年)に代えてFW新井飛雅(3年)を入れ、早くも2枚目の交代カードを使う。前橋育英も倉俣、高橋を下げてFW深澤康太(3年)、MF上野詩音(3年)をそろって投入。気温30度を超える猛暑の中、互いに用兵をうまく活用しながらゲームプランを組んでいった。

 後半9分、成徳深谷にこの試合で最初のチャンスが訪れる。起用されたばかりの北原が中盤左サイドで前を向き、ゴール前まで約70mのドリブル突破を披露。だが、クロスは相手DFにクリアされてしまう。同11分にはMF石川怜磨(3年)に代わってFW間中実來(2年)をピッチに送り込んだ。

 次に試合を動かしたのも前橋育英だった。後半15分、右サイドを猛然と突破した峯崎が鋭いクロスボールを送ると、ファーサイドに走り込んだ上野がダイレクトで落とす。そこに反応したのが同時に投入された深澤。左足シュートでネットに流し込み、リードは2点に広がった。

 成徳深谷は後半19分、北原のカットインから間中がシュートを狙うも、ボールはGK高橋怜士(2年)の正面。しかし、徐々に勢いを取り戻すと、給水タイム明けの同25分にようやく1点を返す。神尾の鋭いパントキックからカウンターをしかけ、左サイドを北原が突破。パスを受けた間中がカットインシュートを決め切った。

 さらに攻勢を強める成徳深谷は後半26分、負傷離脱していた183cmDF成澤圭梧(3年)を最前線に送り込み、DF長谷玲央(3年)のロングスローも交えながら積極的にボールを集める。だが、ここで崩れないのが前橋育英。終盤に放った石井の決定的シュートはポストに阻まれたが、コーナーキープをしながら時計を進め、2-1のまま逃げ切って関東初タイトルを獲得した。

 敗れた成徳深谷の為谷洋介監督は「こういった3連戦を乗り切るだけの底力がある。自分たちより実力のある選手たちが、役割をきちんと徹底しているのがすごい」と前橋育英のチーム力に脱帽。「終了のホイッスルが次へのスタート。インターハイに向けてもう一度仕切り直す」と県予選に向けて意気込みを示した。

 前橋育英の櫻井コーチは「こうやって3試合、いろんな相手と試合ができたのが収穫になった。トップチームに関わっていける選手も少なからずいるんじゃないか」と手応えを認識している様子。その一方で「関東大会が全てじゃない。ここでやってきたことを上で出せないと意味がない」と選手たちには伝えたという。

 1点目を決めた石井に代表されるように「トップチームに居ないタイプ」(櫻井コーチ)が見つかったのも事実。だが、多くの選手たちが夢見る大舞台に立つためには、Aチームでの生存競争に勝たなければならない。「彼らがこれから、どう感じるかですね」(櫻井コーチ)。初夏の3連戦で自信を勝ち得た“関東王者”にとって、さらに手強い相手との日常生活がこれから始まっていくようだ。

(取材・文 竹内達也)

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