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[新人戦]延長後半の土壇場で追い付き、PK戦を制した高崎経済大附が11年ぶりの戴冠!:群馬

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高崎市立の公立校、高崎経済大附高が11年ぶりの群馬新人戦制覇

[2.9 群馬県高校新人大会決勝 高崎経済大附高 1-1(PK3-0)前橋商高 敷島公園サッカー・ラグビー場]

「『こういう感覚を味わうためにサッカーをやっているのかな』という気がしますよね」と百戦錬磨の指揮官も笑顔でその瞬間を振り返る。1点ビハインドで迎えた延長後半も終了間際。チームの絶対的な中心であり、10番を背負う2年生が魔法の左足を振るうと、その軌道は投入されて間もない1年生の頭上へ届く。夢中で合わせたボールの行方は…

 前橋育英高と桐生一高の“新・県内2強”に加え、昨年の総体予選と選手権予選でファイナリストとなった健大高崎高がいずれもベスト8までに敗退。前橋育英を倒して勝ち上がってきた常磐高を前日の準決勝で退けた高崎経済大附高と、準々決勝で桐生一に3-2で競り勝った前橋商高が新人大会決勝で激突した。

 今年は全国高校総体が群馬で行われるため、開催県の出場枠は2つ。高崎経済大附を率いる田中則久監督も「今年はどのチームも強いですよ」と言い切るように、地元開催の全国大会に出場するため、2020年を1つの目安として強化してきた高校も多い中、各校が新チームで初めて挑むこの大会の決勝がフレッシュな顔合わせとなったことは興味深い。

 上州特有の“空っ風”に吹かれながらキックオフを迎えたゲームは、まず前橋商のビルドアップにこだわる姿勢が目を惹く。CBの本間輝(2年)と庄田陽向(1年)だけではなく、GKの長谷川翔(2年)も使いながら、時にリスキーとも思えるような繋ぎを徹底するスタイルに、先を見据えた笠原恵太監督の思惑も見え隠れする。

 前半20分にはキャプテンマークを託されたMF石倉潤征(2年)がFW坂本治樹(2年)とのワンツーでエリア内へ侵入し、シュートは枠の右へ外れたものの好トライ。坂本とFW仲宗根純(2年)の2トップに、MF清水葵生(1年)の鋭いドリブルは相手の脅威に。28分にも左SBの高橋大地(1年)がCKを蹴り込むと、山口涼太(2年)のヘディングは枠を襲い、ここは高崎経済大附の長身CB二ノ宮慈洋(1年)が間一髪でクリアするも、やや前橋商ペースで試合は推移していく。

 一方の高崎経済大附はMF小林司抄(2年)、MF小暮壮志(2年)、MF松本天夢(2年)と技術の高い中盤のトライアングルを揃えながら、「アイツらは面白いんですけど、向こうも警戒していたと思うんですよね」という田中監督の言葉通り、前橋商の速いプレスに封じ込まれ、効果的に前を向けるシーンは稀。1トップの関雅宗(2年)が前線で奮闘するも、流れの中からフィニッシュは創れず、前半はスコアレスで折り返した。

 ハーフタイムを挟んでも展開に大きな変化はなく、後半も得点は動かずに40分間が終了。覇権の行き先は前後半10分ずつの延長戦に委ねられると、延長前半7分に均衡は破られた。途中出場の今泉諒陽(1年)、大熊葉薫(1年)と繋いだパスから、坂本が中央を抜け出して左足でシュート。ボールはゴールネットへ突き刺さる。ベンチ前にできたゼブラ軍団の歓喜の輪。前橋商が一歩前に出る。

 ただ、高崎経済大附のキャプテンを務めるDF眞壁汰季(2年)は不思議と落ち着いていた。「絶対やれると思っていたので、自分たちで『もっと行こう』という感じになっていました」。決定的な追加点のピンチをGKの篠原希紗良(2年)がファインセーブで凌ぎ、二ノ宮を最前線に上げて勝負に出ていた延長後半9分。右サイドでCKを獲得する。

 チームの絶対的な中心であり、10番を背負う松本が魔法の左足を振るうと、その軌道は投入されて間もない柴田達輝(1年)の頭上へ届く。「慈洋を狙うコーナーキックがいつも多いので、ファーに流れた」172センチが夢中で合わせたボールは、ゴールへと吸い込まれていく。

「いつもお世話になっている先輩たちに恩返しできて、とても嬉しかったです」という1年生の奇跡的な同点弾に、眞壁が「もう、ヤバいっすね。鳥肌がヤバかったです、マジで」と興奮気味に語れば、指揮官も「『こういう感覚を味わうためにサッカーをやっているのかな』という気がしますよね」と満面の笑み。土壇場でスコアが振り出しに引き戻されたファイナルは、PK戦へともつれ込む。

 明暗は残酷に分かれた。先攻の高崎経済大附は松本と小林がいずれも成功。後攻の前橋商は1人目も2人目も枠を外す。迎えた3人目も高崎経済大附は小島寛大(2年)が冷静に沈めると、ここで魅せたのが篠原。「2本連続で枠外に飛ばしていたから、3本目は慎重にゴロの球が来るだろうと予測した」守護神は横っ飛びの完璧なシュートストップ。「自分たちはかなりPKも練習しているので、自信を持って蹴れたんじゃないかなと思います」と眞壁も胸を張った高崎経済大附に凱歌。チアガールも動員して声を振り絞った応援スタンドと、11年ぶりの戴冠を喜び合う結果となった。

「県のチャンピオンなので『選手が良く頑張ったな』と思うと同時に、今大会は激戦続きだったので、本当に最後まで諦めない戦いができた所は凄いなと思いました」と田中監督。実は準決勝の常盤戦でも、後半のラストプレーで決勝点を奪う劇的な勝利を経験しており、チームがこの2日間で大きな自信と手応えを得たことは想像に難くない。

 群馬県出身ながら帝京高(東京)に越境入学し、名門中の名門で技を磨いた経験を有する田中監督が高崎経済大附に赴任してほぼ四半世紀が経過しつつあるが、石原直樹(湘南ベルマーレ)や沼田圭悟(FC琉球)など何人ものJリーガーを輩出してきた中で、全国大会の出場はまだ一度もない。

「やっぱりそこが目標だと思うんです。(高崎市立の)公立だからいろいろな難しい所はありますけど、そんなことを言い訳にせず、ウチの学校が今までになかったタイプの群馬の強豪校になれるようにしたいなと。進学だとか勉強時間だとか練習時間だとか制約されたものはあるし、欲しい選手が誰でも来れるという学校でもないし、我々にとっては“来ていただいた選手”でやっているので、練習や準備という所にもっとウエイトを置いて、彼ら個人もチームも伸ばしていかないといけないんです」。

 言葉の端々に情熱が滲む。『今までになかったタイプの群馬の強豪校』を目指す先に、全国という晴れ舞台へ続く扉が待っていると信じ、田中監督とチームの挑戦は明日も明後日も続いていく。

(取材・文 土屋雅史)

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