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3度のファイナルを経験した守護神。名古屋U-18GK東ジョンの武器は“決断する勇気”

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昨年、3度の“ファイナル”を経験した名古屋グランパスU-18GK東ジョン

[2020シーズンへ向けて](※名古屋グランパスの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 クラブユース選手権。Jユースカップ。高円宮杯プレミアリーグ。クラブチームの高校年代における3大大会で、すべてのファイナルを経験したゴールキーパーは、サッカーのある日常の意味を痛感している。「練習が大変な時は『休みたいな』と思う時もあったんですけど(笑)、いざサッカーを取られると自分は何もやることがなくなりますし、自分が『生きてる!』って感じられるのはサッカーをしている時が一番強いので、『やっぱりサッカーがないとつまらない』というのは強く思いましたね」。名古屋グランパスU-18の護り人。東ジョン(3年)のビッグセーブが、今年もチームの栄冠を力強く引き寄せる。

 出番は唐突に訪れた。絶対的な守護神だった1つ年上の三井大輝(現名古屋)が負傷。高円宮杯プレミアリーグWEST第6節のアビスパ福岡U-18戦で、東の名前がスタメンのリストに書き込まれる。「『チャンスはそうそう来ないだろうな』と思っていた中で、三井さんがケガしたことによって、予期しない形での出場になったんですけど、そこで思いきり自分のプレーをしようと思っていたのに、最初は上手くいかなくて…」。デビュー戦は後半39分まで2点をリードしていたものの、結果的には3-3のドロー。最後の失点はキャッチミスと言われても仕方がないものだった。

 それでも、「試合の勝敗に関わるミスもしてしまったんですけど、周りが凄く自分が成長するためにいろいろなアドバイスをくれたので、去年は本当に3年生に助けられました」と振り返るように、周囲のサポートも得て少しずつ自信を纏っていく一方で、チームも6月以降は公式戦無敗を継続。クラブユース選手権でも快進撃を披露し、西が丘でのファイナルへ進出すると、この晴れ舞台で東は眩い輝きを放つ。少なく見積もっても3度のファインセーブで失点の危機を救い、全国制覇の瞬間をピッチで体感した。

「勝っていくうちに『本当にやれるんじゃないか』という気持ちがどんどん強くなってきて、やっぱり準決勝、決勝になってくると『日本一以外は見えない』という状況だったので、優勝したあの景色は今でも忘れられないですね。決勝は最初に何本か止めて、『コレ、行けるぞ』って感じはありましたし、心の余裕もあって楽しくプレーできました」。2か月前のデビュー戦とは見違えるような16番の姿が、そこにはあった。

 今年からトップチームに昇格した“先輩”の存在が、自身の成長を促したことも間違いない。「上のレベルに追い付くためには先輩が基準になるので、そこに追い付くためにいろいろなものを吸収しようと思いましたし、少しでも三井さんに近付けるように去年は頑張ったので、自分にとって凄くプラスな存在でした」。

 秋口には負傷から三井が復帰。リーグ戦ではスタメンを譲る機会もあったが、Jユースカップと高円宮杯プレミアリーグのファイナルには、どちらも東がスタメンに指名された。「複雑な想いはありましたけど、自分としては勝ち続けてきて、凄く結果を出せましたし、自分の良いプレーを出せるようになったり、発言したりすることで、プレーでもプレー以外でも自信を持って振る舞えたから、監督やコーチの信頼を勝ち獲れたのかなと思っています」。自身のパフォーマンスがチームの結果へ直結する自覚は、今まで以上に心の奥へ刻んでいる。

 今年の1月にはU-18日本代表に選出され、スペイン遠征を経験。初めての代表活動で実感したのは、“武器”を持つことの重要性だった。「スペインやメキシコの選手たちに共通して言えるのは、必ず自分の大きな武器を持っていることで、失敗しようとも成功しようとも、それを出そうとしてくるんですよね。たとえばドリブルが得意な選手だったら、ずっとそのドリブルで抜きに掛かろうとしていて、キーパーだったら積極的にビルドアップに参加して、攻撃に繋がるようなパスを出していて。自分たちも確かな武器を1つでも2つでも持っていないと、世界とは戦えないなと強く感じましたし、世界でも自分の武器が他の人よりも突き抜けられるようにしないといけないなと強く思いました」。

 だからこそ、自分の特徴を語る言葉にも力が入る。中でも、自信を持っているのは“決断力”だという。「相手の足元に飛び込んで行くようなプレーは結構得意ですね。去年もそれで何回も相手にファウルされたんですけど、迷わずに止めることだけを考えて飛び込むと意外とケガしないので、そういうメンタル面も関係しているのかなと思います」。ただ、普段のそれは、サッカーほどではないらしい。「プライベートではコンビニでも『何買おうかな…』って迷いますよ。何分も考えていることもありますし、そういう意味では決断力はないかもしれないですね(笑)」。そう話す笑顔は等身大の高校生そのものだ。

 サッカーへの想いは、この自粛期間でより強いものになった。「練習が大変な時は『休みたいな』と思う時もあったんですけど(笑)、いざサッカーを取られると自分は何もやることがなくなりますし、自分が『生きてる!』って感じられるのはサッカーをしている時が一番強いので、『やっぱりサッカーがないとつまらない』というのは強く思いましたね。ここからはやっぱり結果にこだわってやっていきたいですし、今まで先輩たちがしてきてくれたことを、後輩たちにもできるようにすることと、自分の一番の目標はトップに上がることなので、今はそのことだけを考えてやるようにしようと思います」。

 世界へと続く扉はもう視界の先に捉えている。愛と勇気と決断力と。名古屋グランパスU-18の護り人。東ジョンのビッグセーブが、今年もチームの栄冠を力強く引き寄せる。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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