[2020シーズンへ向けて](※名古屋グランパスの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

　豊田市生まれの豊田市育ち。ボールを蹴り始めた頃から応援してきた赤いユニフォームに、プロ選手として袖を通す未来は、もはや決して遠い世界の出来事ではない。「グランパスのトップチームに上がって、海外で活躍できるようなサッカー選手になりたいなとはずっと考えていて、小さい頃は結構遠くの夢だったんですけど、今は自分次第では掴める夢だと思うので、そこに向けて頑張りたいです」。数多の星が瞬く夜空の中でも、誰よりも輝く一番星に。名古屋グランパスU-18のキャプテン。鷲見星河(3年)が抱く“自分次第の夢”は、まさに自ら叶えるためにある。

　過去2年を振り返るとU-18のセンターバックには、高校在学中にトップチームデビューを果たし、現在はオランダのAZでプレーする菅原由勢や、昨シーズンはJ1でも4試合に出場した藤井陽也(名古屋グランパス)、2冠を獲得した昨年度のキャプテン牛澤健(中央大)など、強烈な先輩たちが居並んでいた。既に1年生からレギュラーとして活躍するなど、将来を嘱望されてきた鷲見は、中でもある1人から影響を受けている。

「レベルの高い環境で、練習や試合でいろいろな選手とコンビを組んで、いろいろアドバイスしてもらったことは凄く大きかったですし、特に1年生の頃は井上詩音(現専修大)さんと組むことが多くて、自分がミスをしても、カバーしてくれたり、プラスな声掛けをしてくれたり、そういう部分を凄くやってくれて、『こういうリーダーシップを3年生になったら発揮していかないといけないな』と思いました」。

　今シーズンはチーム内での話し合いにより、キャプテンにも就任した。「1年生も2年生もレギュラーとして出させてもらっていたので、その中で自分が3年生になった時はこのチームを引っ張っていきたいなという気持ちが強くありました」。特にその想いを濃くしたのは、昨シーズンの1年間だったと自ら振り返る。

「去年は3年生たちが凄く引っ張ってくれていた中で、もっと下級生もリーダーシップを持ってやっていかなきゃいけなかったのに、3年生だけに頼り過ぎていた部分が大きかったので、最後に三冠を獲れなかったのもそういう所に理由があったんじゃないかなと思っていますし、あとは代表も何回か行っていたんですけど、なかなかアピールできずに、ワールドカップも行けなくて、悔しい1年でした」。

　年代別代表の常連であり、1つ上の世代に飛び級で招集されることもあったが、結果的にFIFA U-17ワールドカップのメンバーからは落選。世界の舞台で自らの実力を試す機会は訪れなかった。さらに、チームで掲げた“三冠”のラストピースを手にするべく、12月の埼玉スタジアム2002で挑んだ高円宮杯プレミアリーグファイナルも、スタメンフル出場を果たしながら、青森山田高に3失点を喫して敗戦。表彰台の下で唇を噛み締めた。

「青森山田はなかなかやったことのないスタイルで、最初から最後まで苦戦してしまって…… 個としての能力は相手が上でしたし、自分も個の所で負けていたと思うので、その部分を強くしていかないといけないと強く感じました」。悔しい経験から得たのは、もっと自分がリーダーシップを発揮し、チームを牽引していくべきだという危機感。それをキャプテンという立場で表現する決意は固い。

　既にトップチームの練習にも参加。「トップでは自分の力を発揮できなくて、単純に止める蹴るの部分もそうですし、『まだまだ全然足りないな』と感じました。特に丸山(祐市)選手は、常に声を出してプレーしていて、そこは凄く学ぶ所が多かったです」。高いレベルで研鑽を積みながら、自身の課題も改めてはっきり突き付けられている自覚があるという。

「声を出す部分だったり、味方を動かす力は発揮できなかったです。トップでもまったく喋れず、印象も残せずに終わってしまったので、まずはトップの選手の中でもしっかり自分の考えを言えるようなメンタルを、もっと付けていかないといけないというのは感じました。1年生の頃はなかなか喋れなかったですし、それは中学校の頃からずっと言われていたことでもあるので」。

「今年はキャプテンだから、人前で話す機会も増えるんじゃない?」と水を向けると、「普段のコミュニケーションとかは全然できるんですけど、人前に立って話すのは結構苦手で……(笑) でも、頑張ります」と苦笑いを浮かべる姿に穏やかな性格が滲み出るが、きっと今年1年の立場が鷲見自身の様々な部分を変えていく気がしてならない。

　憧れの選手は吉田麻也(サンプドリア)。アカデミーの先輩でもある日本代表に、自身の未来を重ねている。「グランパスのトップチームに上がって、海外で活躍できるようなサッカー選手になりたいなとはずっと考えていて、小さい頃は結構遠くの夢だったんですけど、今は自分次第では掴める夢だと思うので、そこに向けて頑張りたいです」。ちなみに、小学生時代は25番がプリントされた金崎夢生のユニフォームを着て、グランパスを応援していたとのこと。“自分次第”ではその金崎と同じユニフォームを纏い、同じピッチで戦うことだって十分に実現可能な目標だ。

　最後に言い切った今年の1年への想いは、力強く響いた。「個人としてはトップチームに昇格することを目標として、チームとしてはこれからの公式戦の試合数も少ないと思うので、1回1回の練習も大切にしながら、1日1日を無駄にせずに、プレミアで頂点を獲りたいです。自信はあります」。

　数多の星が瞬く夜空の中でも、誰よりも輝く一番星に。圧倒的なスケールを携えた名古屋グランパスU-18のキャプテン。鷲見星河が抱く“自分次第の夢”は、まさに自ら叶えるためにある。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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