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ブラジルが教えてくれた無限の可能性。清水ユースMF成岡輝瑠が走り出した世界へのtraveling

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清水エスパルスユースの絶対的な司令塔、成岡輝瑠

[2020シーズンへ向けて](※清水エスパルスの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 サッカー王国で初めて経験した世界の舞台は、想像以上に自分を解き放ってくれる感覚があった。「楽しいの一言でしたね。感じたことのない雰囲気だったり、今までプレーしてきたのとはまた全然違った興奮だったり、『どこまでも走れるんじゃないか』という気持ちよさだったり、そういうモノを感じられたんです」。清水エスパルスユースの絶対的な司令塔。成岡輝瑠(3年)が走り出した世界へのtravelingは、どこまでも果てしなく続いていく。

 クラブユース選手権で日本一を獲得し、Jユースカップでは準優勝。素晴らしい成績を収めた2018年のチームでも、1年生ながら出場機会を得ていたこともあり、「3年生が抜けてからは、『自分たちがチームの中心になるんだ』というのは凄く思いましたね」と新たな決意で、昨シーズンを迎えた成岡。もちろんエスパルスのことを第一に考えながらも、常に“10月のブラジル”は強く意識していた。

 23人のメンバー入りを果たし、日の丸の付いたユニフォームと共に乗り込んだFIFA U-17ワールドカップ。エスパルスユースからは唯一の選出ということもあり、仲間の想いも背負って挑んだ世代最高峰のステージ。初戦のオランダ戦、2戦目のアメリカ戦と共にスタメンでピッチへ送り出されると、右サイドハーフの位置で効果的なプレーを繰り返す。

「個で仕掛けるよりは、中央でボールに絡んで、チームの流れを作るのが自分の役目だとわかっていたので、サイドバックの畑(大雅・湘南ベルマーレ)とも良い関係を築けていましたし、自分が中心になって前の選手を動かしたりする部分は、世界でも十分通用しましたね。右サイドから攻撃ができるという自信もありましたし、それは大会を通してできたかなと思います」。

 だが、悔しさを伴って思い出すのは、ラウンド16のメキシコ戦。2点のビハインドを追いかける後半34分。一番得点の欲しい時間帯に、交替ボードへ掲げられたのは自分の番号だった。「あの日の出来を考えると、『替えられて当然』という気持ちもありましたけど、やっぱり残り10分も自分がピッチに立っていたかったですし、ベンチから負けるシーンを眺めていたのは今でも鮮明に覚えていて、凄く悔しかったです」。

 勝利と敗戦を知り、手応えと悔恨を手にしたワールドカップは、改めて世界との距離を教えてくれた。「自分の通用する部分と通用しない部分がはっきりとわかった大会だったので、自分の基準がよくわかりましたし、『あの舞台で次はもっと良いプレーをしたい』という気持ちは常に持っているので、あの大会を経験してからは世界を意識できているかなと思います。どれだけ全力でぶつかっても倒れない相手もいましたし、逆にスピードで振り切ろうとしても付いてくる相手もいて、自分より上のモノを持っている選手がどれだけたくさんいるのかというのは改めて感じました」。

 加えて、サッカー王国で初めて経験した世界の舞台は、想像以上に自分を解き放ってくれる感覚があった。「楽しいの一言でしたね。感じたことのない雰囲気だったり、今までプレーしてきたのとはまた全然違った興奮だったり、『どこまでも走れるんじゃないか』という気持ちよさだったり、そういうモノを感じられたんです」。“何も怖くないモード”を知ってしまった今、あのステージへの欲求は高まり続けている。

 対照的にユースでは思うように行かないことの多い1年だったようだ。「正直に言うと、結果は出せていないのかなと感じています。チームに迷惑を掛けているシーンが多かったですし、逆にチームを助けるプレーも多くはなかったので、もっとチームの中心という意味でも、まずはプレーで示せるようになっていかないといけないのかなと思いました」。一番の課題は得点力。実はこの2年間のプレミアリーグで、成岡は一度もゴールネットを揺らせていない。

「もちろんチームが勝つことが一番ですけど、ゴールがなかなか取れないのは自分の力不足でもありますし、やっぱり毎試合悔しい想いが残りましたね。ゴールへの意識は強くなっているのに、決め切れない、決める所にいないというのは、もっと見つめていくべき自分の課題です」。自らのゴールで、チームを勝たせる。より勝敗の責任を負える選手へ。自身に課すハードルは決して低くない。

 輝瑠という字に、“ひかる”という名前はシンプルにカッコいい。由来を尋ねると、嬉しそうに答えが返ってくる。「父親が宇多田ヒカルさんの大ファンで、そこから取ったというのは聞いたことがあります。自分でも凄く気に入ってますね。字もカッコよくしてもらって(笑)」。急ぐことはないけれど、本家以上に“ひかる”の名前を知ってもらうためにも、ここからの活躍はもはや義務付けられていると言っていいだろう。

 2020年は勝負の年。自粛期間にサッカーへの想いをより強くした成岡が、見据える未来は明確だ。「自分はフィジカル面で劣っているとずっと言われてきたので、そこをまず見つめ直していかないと、トップチームでプレーしている選手にも追い付けないかなと。技術もまだまだ足りない部分が多いので、そこはもっともっと高いレベルを目指していきたいですし、その中でも通用する判断や頭の良さを伸ばしていきたいですね」。

「ワールドカップの時に代表の森山(佳郎)監督からも『プロはなって当たり前だ』と。『世界だともうU-17の舞台には来ないで、トップチームでプレーしている選手もいるんだぞ』という言葉ももらったので、自分も絶対プロにはならなきゃいけないと思っています」。

 まさにこれからがいいところ。清水エスパルスユースの絶対的な司令塔。成岡輝瑠が走り出した世界へのtravelingは、どこまでも果てしなく続いていく。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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