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心に届いた指揮官のメッセージ。浦和ユースMF根岸恵汰は“当たり前のこと”を一番やれるキャプテンに

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浦和レッズユースのまとめ役、MF根岸恵汰

[2020シーズンへ向けて](※浦和レッズの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 自分の中でも意外な指名ではあったものの、指揮官の熱いメッセージを受け取った時、すべてをこのエンブレムに捧げる覚悟は決まった。「『キャプテンをやって欲しい』と言われた時に、『オレでいいのかな』『こんな人間がキャプテンでいいのかな』って。でも、やっぱり選んでいただいたからには責任を持ってやらないといけないので、プレッシャーは相当ありますけど、最後は躊躇なくやらせてもらうことにしました」。浦和レッズユースのまとめ役。根岸恵汰(3年)は“当たり前のこと”を一番やれるキャプテンになるため、日々自身と向き合っている。

 昨シーズンの高円宮杯プレミアリーグEAST開幕戦。根岸はいきなりスタメンに抜擢され、プレミアデビューを飾ったものの、「ちょっと緊張してしまって、まったく自分のプレーを出せなかったです」と振り返るパフォーマンスの中、後半途中での交替を余儀なくされると、以降の試合ではベンチに入ることすらままならない時間が続く。

「試合に出られなくなって、モチベーションを保つのも凄く難しかったんですけど、そこで腐ったりしたら終わりじゃないですか。だから、もうひたすら練習で自分のプレーを全力でやることだけは曲げないでやっていました」。風向きが変わったのは、池田伸康が新しい監督に就任してから。自身の目指すべき所が明確になった。

「その頃のボランチは(玉城)大志くんと(盛)嘉伊人で固定されていて、『そこと入れ替われないと試合には出られない』と直接ノブさんから言われたので、どうしても試合に出たくて仕方なかったですけど、そこは2人を意識しながら『絶対スタメンを勝ち獲りたい』と思って、練習に取り組んでいました」。夏過ぎからは途中出場でプレミアのピッチに立つ機会も増加。レギュラー奪取とまでは行かなかったが、練習での意識を変えることが結果に結びつくことを肌で感じることに成功した。

 加えて、大きな経験となったのはS2リーグだ。“浦和レッズB”として臨んでいる県2部リーグの公式戦に出場機会を得たことで、同じピッチに立っていた3年生から学ぶものは決して少なくなかった。「やっぱりプレミアであろうが、S2であろうが、どの場所でもチームのためにという意識でプレーしている3年生を見て、プレミアに出られていない中で、下の学年と一緒にやっていても、チームのために全力でやれる姿勢は本当に尊敬できましたね」。

 自分を“追い抜いて”いった先輩も、大事な気付きを与えてくれた。「(清水)哲太くんは1年生の時からずっと一緒にやっていたんですけど、最後は向こうがプレミアのボランチになって、自分の上を行かれてしまったので、ちょっと悔しさはありました。でも、哲太くんも前期はS2でキャプテンもやって、結果を残していたので、『どの場所でも全力を出せる選手がスタメンを勝ち獲れるんだろうな』と思いました」。S2の舞台を知っていることが、大きなアドバンテージとなる日は必ず来ることだろう。

 今シーズンはチームのキャプテンを任されることが決まっている。指名したのは池田監督。その時のことを、根岸は感慨深そうに思い出す。「ノブさんが自分の家まで来てくれて、『オマエとだったら、覚悟を持って闘える』と言ってくれて。自分は去年まであまりいろいろと喋る感じでもなかったですし、キャプテンという立場から遠い存在だったんですけど、ノブさんと出会って人間性を変えてもらった所もあるんです」。

 そこまでの言葉を送ってもらえることは、人生においてそうあることではない。「『キャプテンをやって欲しい』と言われた時に、『オレでいいのかな』『こんな人間がキャプテンでいいのかな』って。でも、やっぱり選んでいただいたからには責任を持ってやらないといけないので、プレッシャーは相当ありますけど、最後は躊躇なくやらせてもらうことにしました」。指揮官の熱いメッセージを受け取った時、すべてをこのエンブレムに捧げる覚悟は決まった。

 ただ、自分の中でキャプテン像は特に思い描いていないという。「自分は目立ったプレーをするとか、自らゴールを決めて勝つとか、そういう選手ではないので、とりあえず一番走ったりとか、一番戦ったりとか、“当たり前のこと”を自分が一番まっとうして、みんなに伝染させていくような存在になりたいと思います」。おそらく一番難しい“当たり前のこと”にフォーカスして、この1年間はチームを牽引していく。

 6年間過ごしてきたアカデミーのラストイヤー。キャプテンとして迎えた2020年は、ここまで難しい時期を強いられてはいるが、新たな決意が口を衝く。「プレミアリーグは凄く意識していた舞台でしたし、それがなくなってしまうのは悔しいことなんですけど、どの大会だろうが対戦した相手には負けたくないですし、新しいリーグがあると思うので、そこでも1位しか狙っていないです。やっぱりどんな場所でも1位を獲るのが僕たちのやり方というか、僕たちの決めごとなので、そこで100パーセントの力を出せるように、トレーニングをやっていきたいです」。

 続けた言葉が力強い。「優勝カップ、掲げたいです。一番上に行ってみたいですし、そこでこうやってカップを掲げたいです」。そう話しながら無邪気に宙へ上げた両手の中に、一瞬だけ、未来のカップが見えた気がした。

「レッズは日本で一番のクラブだと思っているので、そのクラブのエンブレムを付けさせてもらえるというのは、本当に光栄なことなんです」と言い切る浦和ユースのまとめ役。いよいよ幕が開ける覚悟の1年へ。根岸恵汰は“当たり前のこと”を一番やれるキャプテンになるため、日々自身と向き合っている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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