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エンブレムを背負ってきた8年間の集大成。浦和ユースMF盛嘉伊人が抱える“恩返し”への想い

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浦和レッズユースのクールなレフティ、盛嘉伊人

[2020シーズンへ向けて](※浦和レッズの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 小学校5年生から背負い続けてきたエンブレムの意味は、誰よりも自分が一番よくわかっている。お世話になった8年間の月日に対し、何ができるのかも常に考えてきた。「やっぱり浦和レッズに恩を返したいという想いがあって、自分がプロになって海外に出たりすることで恩返しになるのか、どういう形になるかはまだわからないですけど、何かの形で恩返しできればという気持ちはあります」。浦和レッズユースのクールなレフティ。盛嘉伊人(3年)が抱える“恩返し”への想いは、今でも日を追うごとに強まっている。

 去年の浦和レッズユースは何とも個性的なチームだった。とにかくレフティが多い。試合によっては、ピッチに立っているフィールドプレーヤーの右利き、左利きの比率で後者が上回るほど。とりわけ中盤は4人のうち、3人がレフティということもざらにあり、独特のゲームリズムを醸し出していた。

 そのことを問われ、「そんな違和感はなかったですけど、相手からしたら嫌なのかなあという感じですね。左利きの人って個の特徴がある選手が多いので、やりやすかったりもしますけど、右利きの人とやっていても、気持ちの面はそんなに変わらないです。たまたまだと思います」と笑う盛嘉伊人の左足にも、確かな才気が宿っている。

 圧巻だったのは高円宮杯プレミアリーグEASTの第4節。結果的に王者の座をさらった青森山田高を相手に、ボランチの位置で積極的にボールへ関与。1点ビハインドで迎えた後半35分には、得意の左足でダイレクトボレーをゴールネットへねじ込み、チームに勝ち点1をもたらしてみせた。

 だが、「アレくらいでしたね。他の公式戦でも獲ってないですから」と本人も言及するように、2019年の公式戦で記録したゴールはその1点のみ。「自分の理想とするプレーは自らドリブルで行って、シュートを打ったり、自分のパスからゴールをアシストするという所で、去年はゴールを奪う部分や、チャンスメイクの部分がなかなかできなかったので、そういう面ではまだまだだったかなと思います」と課題も口にする。

 シーズン終盤には負傷したことで戦線離脱。「チームとしても結果が出てきていた時期でしたけど、リーグ戦も終わりに差し掛かっていたので、自分としては『ここで無理する必要はないな』とは思っていました」と当時を振り返りつつ、「試合を見ていても『自分が出ていたらな』とか、『自分だったらこうしていただろうな』みたいな、そういうもどかしさはありました」と素直な心情も思い出す。

 とはいえ、転んでもただでは起きない。その時期を自身のプレースタイルを見直す時期に充てる。「試合に出なくなったことで、結構心の余裕ができたというか、海外の試合もより見るようになったんです。それまではポジション柄もあって、ボランチを中心に見ている中で、特にイニエスタ選手を参考にしていたんですけど、バルセロナのメッシ選手とか、ユベントスのディバラ選手とか、左利きの前線で得点に絡むような選手が気になるようになりましたし、はっきり意識は変わりましたね」。

 もともと攻撃的な選手ではあったものの、ボランチを任されることが多くなったことで、少しプレーにブレーキを掛けていたが、離脱期間を経た今年は改めてプレーの比重を前に傾けることを誓っている。「自分としてはゴールに向かう姿勢が特徴だと思っていますし、フォワードもやってみたいですね」。2020年はよりゴールに近い位置で躍動する盛の姿を見る機会が増えそうだ。

 浦和レッズに入団したのは小学校5年生。「私生活からの緊張感は日頃から持つようにしています。たとえば日常で考えれば、自転車で2列になっている時に『1列になれよ』と言ったりとか、携帯電話をいじらないとか、電車で席を譲るとか、当たり前のことですけど、そういうことをできるようにしたいなと。それはエンブレムの付いている服を着ていても、着ていなくても一緒です」。背負い続けてきたエンブレムの意味は、誰よりも自分が一番よくわかっているという自覚もある。

 だからこそ、今年の重要性も十分すぎるほどに理解している。「もう高校3年生ですし、ここでプロになれなかったら、いったんは浦和レッズから離れなくてはいけないこともわかっているので、頑張りたいですよね。やっぱり浦和レッズに恩を返したいという想いがあって、自分がプロになって海外に出たりすることで恩返しになるのか、どういう形になるかはまだわからないですけど、何かの形で恩返しできればという気持ちはあります」。お世話になった8年間の月日に対し、何ができるのかも常に考えてきた。

「自粛期間は1人でボールを蹴っていたので、自分でしか自分を評価できなかったですけど、チームメイトと一緒にボールを蹴ると、仲間を見て学ぶこともありますし、自分も周りから指摘を受けられるので、『やっぱりサッカーは楽しいな』と率直に思いました」。この半年はまさに集大成。大事な仲間と過ごす時間に想いを巡らせる。

「ここから公式戦はどうなるかまだわからないので、目標という具体的なものは持てていないですけど、もちろんプロを目指しながら、与えられた場所で自分ができることをやりたいですし、何より浦和レッズのためにプレーしたいなと思います。この半年間を大切にしていきたいです」。紡いだ言葉に、確固たる決意が浮かんだ。

 浦和から世界へ。その道程を自らの左足で切り拓いていくイメージは、もうとっくにできている。浦和レッズユースのクールなレフティ。盛嘉伊人が抱える“恩返し”への想いは、今でも日を追うごとに強まっている。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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