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“イジられ系”サイドバックが決めたプレミア初ゴール。FC東京U-18DF小林慶太は日々進化中

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FC東京U-18SB小林慶太は決勝点を叩き出した。(写真は市立船橋高戦)

[10.3 プレミアリーグ関東第4節 FC東京U-18 1-0 流通経済大柏高 東京ガス武蔵野苑多目的グランド]

 小学校3年生から纏ってきたエンブレムへの忠誠心は、強い。「自分はスクールからFC東京でプレーしてきたので、その育ててもらったクラブにどういう形で恩返しするかと言ったら、やっぱり結果を出していかないといけないですし、このメンバーと一緒にやる時間も本当に短いと思うので、悔いなくやっていきたいです」。今シーズンから取り組んでいる新しいポジションも、ようやく板に付いてきた。“イジられ系”サイドバック。小林慶太。日々進化中。

 最初は誰が決めたのか、よくわからなかった。高円宮杯プレミアリーグ2020関東第4節。FC東京U-18(東京)対流通経済大柏高(千葉)の後半13分。大迫蒼人(2年)の右クロスを常盤亨太(3年)が残し、角昂志郎(3年)の仕掛けから青木友佑(3年)がシュートを放つ。

「正直、自分の中で触った感覚はあったので、ゴールに入ったボールを見ながら結構喜んで振り向いたら、もう友佑が両手を広げて喜んでいたんですよ。『あれ?オレ、触ってないことになってるのかな?』みたいな感じはありましたけどね(笑)」

 言葉の主は小林慶太(3年)。青木のシュートに反応し、頭でコースを変えたボールがゴールネットへ吸い込まれたにもかかわらず、自分の得点だという確信がなかったというから面白い。「その後でみんなが来てくれたので、『ああ、自分のゴールで合ってたんだ』とちょっと安心しました(笑) 本当に8割ぐらいは友佑が押し込んだ感じだったので、おいしい所を持ってっちゃったなと。むしろ『こっちがすいません』みたいな感じですよね」。言葉の端々に“おかしみ”が滲む。

 結局、このゴールが決勝点。1-0で勝利したFC東京U-18は3勝1分けと無敗を維持したまま、中断前のリーグ戦を首位で終える。唯一のスコアラーとなった小林は「記録に名前が残るのが普通に嬉しいですね。まだ4節ぐらいしかやっていないので、得点ランキングの下の方を見ていたら5位ぐらいにいるかもしれないですし(笑)」とニコリ。プレミア初ゴールに自然と表情も緩む。

 もともとはボランチが主戦場だったが、「(中村忠)監督からは去年から『4-4-2だったら真ん中より後ろの8枚、3-4-3だったら7枚のどこでもできるようにしておけ』という話をしてもらっていました」とのこと。自粛期間が明けてからは、本格的にサイドバックへのチャレンジがスタートする。

 コンバートに対しては自身も前向きだった。「ボランチだともう正直ウチはタレントが多いですからね。常盤は完全にチームの中心ですし、梶浦(勇輝)も上手いですし、そういうことを考えたら、ボランチで出れないことも自分の中で納得できるなと。だからこそ、サイドバックにトライするのもいいんじゃないかなと思っていました」。

 ボランチとサイドバックでは、まず視野がまったく違う。「自分は本当に攻撃が苦手で(笑)、センスの問題もあると思うんですけど、ボランチは360度を見なきゃと考えると、自分のプレーで精いっぱいになっちゃうというか、周りに声を出せなくなる所がありました。でも、サイドバックだと見るべき範囲もボランチより狭いので、ちょっと余裕ができた所もあって、同サイドのサイドハーフを動かしたり、声を出せるようにはなってきました」。プレーに余裕の出てきた自分を感じている。

 プレミアの舞台でも開幕戦となった横浜FMユース戦の前半こそ、緊張感からなかなか思ったプレーができなかったものの、後半からは落ち着いて持ち味の守備力を遺憾なく発揮。「そこからは基本的に守備はずっとそつなくできているんじゃないかなと思います」と、サイドバックでのプレーに手応えを掴みつつあるようだ。

 さらに、新しいポジションはサッカーそのものの楽しさを、改めて問い掛けてくれている。「試合中に京増コーチからも言われるんですけど、オープンで持つとか、もらった時に最初に縦を見ながらプレーするとか、ポジションの取り方1つで相手をどれだけかわせるかということを考えるだけでも、サッカーの奥深さを知ることができて楽しいですし、そこでの成長も自分の中でだんだん実感できている所もあるので、本当にこのポジションをやって正解だったのかなと思います」。

 小林に話を聞いていると、しきりにチームメイトたちが冷やかしの声を掛けていく。「結構このチームのヤツらはオレのことをイジってきますね。本当にだいぶ“めんどくさい”ぐらいにイジってくるので」と苦笑しつつ、続けた言葉に本音も滲む。「今の所はまだ『ああ、もう少しでこのイジりもなくなって、ちょっと楽になるな』みたいな気持ちはあるんですけど(笑)、何だかんだ卒団したらちょっと寂しい気持ちにもなるんじゃないかなと思いますね」。この仲間と過ごせる時間もあと数か月。確実に終わりは見え始めている。

 みんなが構いたくなるような柔らかい雰囲気の中に、秘めているものは熱い。「サイドバックって足が速いイメージがあると思うんですけど、自分はチームで下から数えた方が早いぐらい足が遅いですし、スタミナも並の選手ですし、これと言って特徴みたいなものはないんです。でも、バイエルンのキミッヒ選手を見て感じたことがあって」。

「最近はボランチになっていますけど、右サイドバックでも闘える選手というか、小柄で足元が上手い選手なのに、闘志むき出しで球際にも激しく行くので、『魂溢れる選手だな』と感じますし、やっぱりそういう選手がどこのポジションでも生き残っていくんだなと。だから、球際とか魂の部分では負けちゃいけないなというのは参考にしていますね」。目指すのは“魂溢れる選手”。その想いは確実にプレーへ現れ始めている。

 小学校3年生から纏ってきたエンブレムへの忠誠心は、強い。「自分はスクールからFC東京でプレーしてきたので、その育ててもらったクラブにどういう形で恩返しするかと言ったら、やっぱり結果を出していかないといけないですし、このメンバーと一緒にやる時間も本当に短いと思うので、悔いなくやっていきたいです」。今シーズンから取り組んでいる新しいポジションも、ようやく板に付いてきた。“イジられ系”サイドバックは、魂溢れる選手を目指して。小林慶太。日々進化中。

(取材・文 土屋雅史)
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