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待ち侘びたグランパスとの古巣対決。前橋育英MF鈴木太智は大切な仲間にさらなる飛躍を誓う

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グランパスとの古巣対決に臨んだ前橋育英高MF鈴木太智

 指折り数えながら待ち侘びていたこの日の“古巣対決”を経たことで、これから先の覚悟は定まった。「やっぱりもっとやらなきゃいけないし、今日は自分の良さを出し切れていない部分があったので、選手権に出られればテレビで放送もありますし、そこでもう1回チームメイトに僕の姿を見てもらいたいですね。今日の印象のままで終わりたくないなという想いはあります」。遠く名古屋から前橋育英高(群馬)に身を投じた鈴木太智(2年)は、再会した仲間たちにさらなる飛躍を誓っている。

 15歳の夏。目標だった名古屋グランパスU-18への昇格は果たせず、進路を考えていた鈴木の選択肢にある高校が浮上する。上州のタイガー軍団、前橋育英。日本一も経験している名門校だ。「(当時名古屋グランパスのアカデミーダイレクターだった)山口素弘さんが育英出身だったこともありますし、同じ学年に近藤征也(2年)がいるんですけど、征也のお兄ちゃんも育英に通っていたので、いろいろ教えてもらえますし、親元を離れた方が自分を成長させられると思って、育英を選びました」。男の決断。群馬での寮生活がスタートする。

「高校に入ってすぐにプーマカップがあると聞いて、『グランパスとはいずれやれるんだな』ということを知ったんですよね」。来たるその日に向けて、日々の練習に励んでいく。ただ、2年に進級するタイミングのプーマカップは、新型コロナウイルスの影響で中止に。期待していた“再会”は延期を余儀なくされる。

 改めて意識し始めたのは昨年の秋。「選手権予選に負けてしまって、そこで新チームが始まった時から、頭のどこかで『プーマカップでグランパスとやれるまで、あと何か月だ』というのがずっとありました」。年末の帰省を経て、群馬へと帰ってきてからは、照準をそこに合わせて着々と心の準備を整えていく。

 大会直前。かつてのチームメイトから連絡が入る。「右サイドバックの葉山新之輔(2年)とはLINEでやりとりしました。まあ『いつ群馬着くの?』ぐらいの感じですけど(笑)」。3月6日。2021プーマカップ群馬初日。2年近く待ち望んできた“古巣対決”。2年前まで纏っていた赤いユニフォームを向こうに回し、キックオフの笛が耳に届く。

 結果から言えば、2-3で敗れた一戦は自身の実力不足を痛感することになった。「U-15で一緒にやっていた選手も相手にいて、懐かしさもあって、嬉しさもありました。でも、ある程度通用する所はあるかなって思っていたんですけど、みんな桁違いに上手くなっていて、全然通用しなくて。勝てなかったことも悔しいですし、勝ちたかったなという感情は強くあります」。

 中学時代の3年間を鈴木と共に過ごした名古屋U-18の斉藤洋大(2年)は、旧友への想いをこう口にする。「中学校の時は常に一緒にいて、仲が良かったんですけど、やっぱりアイツはセンスあるなって。試合中も『上手いな』って言ったら、照れてました(笑) 凄く楽しかったし、もう1回同じチームでやりたいなという気持ちにもなりましたね。『褒めてました』って言っておいてください」。

 それを伝え聞くと、「洋大は良い意味で変わらない部分もあって、さらに上手くなっているし、見える視野の範囲も広くなっていると感じました」と少し笑顔で話しながら、「グランパスとやれるのは、本当にこれが最初で最後だと思っていたので、そう思うと悔しさはありますし、もっと爪痕を残したかったですね。改めて“ゼロ”からやっていかなくては、この先の大学やプロもそうですし、選手権でも活躍できないなと感じました」とすぐに表情が引き締まる。この経験をどう生かすのか。未来は自分で切り拓いていくしかない。

 既に2年を過ごした群馬に対する愛着も強くなりつつある。「僕はこっちに来てから、上から目線になってしまったら申し訳ないんですけど、『田園風景っていいな』というか、暮らしやすいのもあって、そういう部分でも群馬は好きですね」。自分で選んだこの土地でより飛躍するため、最後の1年に対する決意を口にした言葉が熱を帯びる。

「もうここからはプリンスも始まって、インターハイ、選手権と、一戦一戦を大事にしたいですね。チームをプリンスからプレミアに上げたいですし、夏も冬も日本一を獲りに行きたいので、日頃の練習から手を抜かず、全員で頑張っていきたいです」。

 懐かしさと、嬉しさと、大きな悔しさを味わった2021年3月6日。この日にどういう意味を持たせるかは、鈴木自身のこれからに懸かっている。

(取材・文 土屋雅史)

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