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[東京都1部L]2点のビハインドもドラマの序章。関東一は後半に3ゴールを奪って鮮やかな逆転勝利!

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関東一高は2点のビハインドから劇的な逆転勝利!

[9.4 高円宮杯東京1部リーグ第9節 FC東京U-18(B) 2-3 関東一高]

 0-2からの大逆転劇に、高揚感と一体感がピッチから引き揚げてくる選手たちの中で、大きな雨粒と一緒に溶け合う。「今年は先制点を獲られるとそのまま負けちゃうという試合が多かったんですけど、今日みたいな試合でチームが最後に1つになって、まとまってパワーが出せたというのは、ここからプラスになるかなと思っています」(関東一高・肥田野蓮治)。

 雨中の激闘は両者が撃ち合う好バトルに。4日、高円宮杯U-18サッカーリーグ2021東京1部リーグ(T1リーグ)第9節でFC東京U-18(B)と関東一高が対戦。前半にFC東京U-18(B)が2点を先行するも、後半に3ゴールを奪い切った関東一が鮮やかな逆転勝利で、勝ち点3を積み重ねている。

 ファーストシュートはいきなりの先制弾。前半6分。FC東京U-18(B)は左サイドをパスワークで崩すと、ダブルボランチの一角に入ったMF小川雄輝(2年)が速いクロス。ボールを受けたMF高橋安里(3年)はマーカーを外しながら、利き足とは逆の右足で豪快なシュートをゴールネットへ叩き込む。「ワンタッチでいなしてシュートというイメージはボールが来た時に頭の中に浮かんだので、それを実行できて良かったです」と振り返る7番の見事な一撃。FC東京U-18(B)がスコアを動かした。

 以降もホームチームはチャンスを連発。8分にもカウンターからMF覺野慎太郎(2年)のラストパスに、左SB松本愛己(2年)が放ったシュートはわずかにゴール左へ。9分にも左サイドを抜け出したFW熊田直紀(2年)の枠内シュートは、関東一のGK笠島李月(3年)がファインセーブ。27分にも小川、覺野と繋いだボールを、FW渡邊翼(1年)が狙ったシュートは、ここも笠島が弾き出したものの、攻勢を強めると次の得点も青赤に。

 41分。ボランチを務めるMF岡崎大智(1年)が右サイドへパスを送り、走った渡邊はドリブルでエリア内へ潜りながら、マイナス気味に中央へ。「比較的マイナスで受けることは意識していたので、自分と同じイメージを共有できていたのかわからないですけど、翼が自分の欲しいところにくれて、シュートはファーに流し込むことを意識したら、たぶん相手の股下を抜けて入ったと思うので、結果オーライです」という高橋が、再び右足できっちり追加点。FC東京U-18(B)が2点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了した。

「どんどん前半のうちにカードを切っちゃおうかなと思ったんですけど、『万が一後半に足を攣られてもな』と思って、まずは中で変えられるものを変えてみました」と話した関東一の小野貴裕監督は、既に前半に投入したMF神山寛尚(3年)に続けて、ハーフタイムでMF小谷旺嗣(2年)とMF鹿岡翔和(2年)も交代でピッチへ送り込み、システムも3-4-3から4-4-2にシフトすると、ここから大逆転劇の幕が上がる。

 後半7分。FC東京U-18(B)はスムーズなパスワークの崩しから、高橋が決定機を枠の上へ外し、ハットトリック達成のチャンスを逃すと、2分後に生まれたのは反撃の一手。9分。「自分が前を向いた瞬間というのはスルーパスを出せる自信があります」というMF肥田野蓮治(3年)は、左サイドで丁寧なスルーパス。鹿岡のシュートがニアサイドを破り、ゴールネットを揺らす。2-1。まずは1点差に。

 これで流れは一変した。「前からの守備も結構ハマっていて、相手も蹴るしかない状況だったので、このまま守備が連動していけば行けるかなと思いました」と肥田野も振り返ったように、アウェイチームは良い守備から良い攻撃への移行が随所で生まれ、MF堀井榛人(3年)とMF藤井日向(3年)のボランチコンビの配球も冴える。「今年は全員でやらないと勝てない代なので、そこはまず意識を持とうという話をしました」とは神山。攻守に出てきた全体の連動性で、一気にゲームの主導権をさらってしまう。

 39分。「自分は左利きなので、普段はあまり縦には行かないんですけど、気持ちが出ましたね。『ここが勝負だ』と思いました」と笑った肥田野が、右サイドから右足でグラウンダーのクロスを送る。「最初は肥田野がもう1回切り返すかなと思ったんですけど、『やっぱり入っておかないと』と思って、必死に入りました」という神山がファーサイドでプッシュ。2-2。終盤でスコアは振り出しに引き戻される。

 45+2分。左サイドバックで起用されていた小谷の短く付けた内側へのパスが、神山に入る。「最初は裏を走ろうと思ったんですけど、ここは我慢だなと思って中に入って、今日は1発決められていたので、最後も『チャレンジしよう』と思って、強気で振りました」。右足で振り切ったシュートは、右スミのゴールネットへ綺麗に吸い込まれる。

「ちょっと練習では出ないようなシュートでした(笑)」と笑顔を見せた神山の“ドッピエッタ”でドラマ完結。「今年は競ったゲームをやらないとダメだなと思っていて、T1リーグで負けた試合も1点差のはずなんですよ。失点も少ないですし、相変わらず粘るとか、大崩れしないとか、我慢するというのはウチの組織にだいぶ根付いたというか、前とはだいぶ変わったなとは思いますね」と小野監督も口にした関東一が、2点差を跳ね返す劇的な逆転勝利で、貴重な勝ち点3を鮮やかに手にしてみせた。

 下級生も多く試合に起用される中で、肥田野が2アシスト、神山が2ゴールと、3年生の躍動で大逆転劇を演じてみせた関東一。「賢い子たちが多いですし、こちらが言ったことをちゃんと自分で1回処理してくれますし、『わかんないや』って投げ出さないような、思慮深い子たちが多いのは魅力ですね」とその3年生たちを評した小野監督は、さらに最上級生たちについてこう言及する。

「ウチだけではないですけど、今年の3年生は“2年目”に負荷が掛かっていないんですよね。本当は2年目って自由にやれるか、もっと徹底的に鍛えられるか、ですけど、彼らは去年も3年生を優先するために、『ちょっと我慢をしなさい』と言われることが多かったと思うんです。だから、この代の子たちは2年目でいろいろ経験できることをしないで3年目になっちゃったから、たぶん心身のバランスが崩れている子は凄く多いと思います。焦っているか、現状に自分がまだ間に合っていないとか」。

「でも、チームとしては粛々と試合があるから、それに合わせて選手を選んでいかないといけなくて、本当だったらもうちょっと負荷を掛けて、力を上げられるところを、その時にいいヤツを使わなくてはいけなくなってしまうんですよね。ウチはそれを徹底してリーグ戦をうまく使って、とにかく選手権に繋がるようにしようと選手たちには言っているので、そういう意味では今はチームとして子供たちにちゃんと負荷が掛かっていて、自分たちの中で処理できるようになってきたのかなと。ここまで頑張ってやってきてくれたので、勝ちか負けの結果は出るんですけど、ピッチにちゃんと立たせるまでは行かせてやりたいなと思っています」。

 コロナ禍でもう1年半近くも難しい状況を強いられている3年生にとって、これから始まる高校選手権は本当の意味での集大成。この日、その3年生が躍動して、素晴らしい逆転勝利を挙げた関東一が得たであろう“勢い”に、普通の1勝以上の価値があったことに疑いの余地はない。

(取材・文 土屋雅史)

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