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夏の全国4強は過去のもの。星稜は勘違いの芽を潰し、改めて選手権の主役へ躍り出る

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星稜高は夏の経験を生かし、選手権での飛躍を誓う

[9.26 高円宮杯プリンスリーグ北信越第7節 帝京長岡高 0-0 星稜高 長岡ニュータウン運動公園]

 良い意味で、全国4強はもう過去のものと割り切っている。もちろん目指すのはさらにその先。そこへと向かうための確かな手応えは、選手たちのメンタルにもしっかりと刻まれているようだ。

「もっともっとチームの運動量を上げて、1つ1つの精度を追求して、もっとみんなで共通意識を持ってやっていきたいと考えていますし、インターハイで自分たちの立ち位置が見えたので、全国優勝という目標をしっかり掲げて、良い形で高校サッカーを終わりたいと思います」(戸川期雄)「あと1つ勝てば決勝というところまで行ったことで、そこからの勝負強さを付けたいなって。日本一に対する実感は前よりも湧いていますし、そこで基準が分かったので、それをトレーニングでやるだけだなと思います」(井上陽向大)。7年ぶりの全国制覇へ。星稜高(石川)は地道に、一歩ずつ、目の前のトレーニングに挑んでいく。

 23日。インターハイ以来となる、約1か月ぶりの公式戦。プリンスリーグ北信越第6節で、星稜はカターレ富山U-18(富山)相手に、前半で奪われた1点を返せず、0-1で敗れてしまう。夏の福井で得た自信を結果に繋げられなかった90分間を終えて、河合伸幸監督は選手たちにこう語り掛けたという。

「『カターレさんに感謝しろよ』と。『オマエたち、こうやって勘違いしていたらこういうゲームになるんだよ』と。逆に全国ベスト4はちゃんと忘れないといけないかなというところで、それにあぐらをかいていたら選手権でも県大会を落とすでしょうし、リセットしなくてはいけないという話ですね」。

 もう一度足元を見つめ直し、アウェイに乗り込んだ帝京長岡高(新潟)との一戦。「技術的には向こうの方が上手いので、こちらは頑張りと、プレッシャーを掛けるということだけは意識してやろうということですよね」という指揮官の言葉通り、立ち上がりから星稜の出足が鋭い。「守備がまずハマって、奪った後にシンプルに背後を突けて、そのままクロスまで行けていたので、前への奪ってからの速さが良かったと思います」と井上。試合の主導権を奪ってみせる。

 際立ったのは最前線に入ったFW山下陸(2年)の力強さ。「前線に収まらないというのが、ちょっとインターハイの課題だったんですよ。前でしっかり収めるというのはトレーニングをしていて、そうするとウチのスタイルのサイド攻撃が生きてくるかなというところですね」(河合監督)。その山下に、エースストライカーのFW山崎陸成(3年)と、「ボールコントロールが良くて、ウチにはいないタイプの特徴を持っている子」と指揮官も評するMF福島元基(2年)が関わっていくアタックは、十分な可能性を感じさせた。

 さらに中盤では、インターハイのメンバーに入っていなかったMF板橋由悟(3年)とMF平良大研(2年)のドイスボランチが躍動。特に平良は河合監督も名指しでこの日の貢献を称える好パフォーマンスを披露しており、さらなるチームの底上げも図れている様子が窺える。

 後半はやや守勢に回る時間が長かった中でも、キャプテンのDF中村実月(3年)とDF井上陽向大(3年)のセンターバックコンビに、昨年から守護神を任されているGK山内友登(3年)の安定感は相変わらず。ここに昨年度の選手権でも全国のピッチに立っているDF中尾海世(3年)も帰ってきたことで、守備陣は改めて計算できる陣容が揃う。

「キャプテンの中村、井上、中尾と最終ラインの3枚は自発的にモチベーションを持って行くことができるタイプなので、全体がそれに付いてきてくれればいいんですけど、そういうブレないヤツらがいるので、そういった部分では助かっているかなと思いますね」(河合監督)。全国の楽しさも厳しさも知る彼らの存在が、チームに確かな軸を通しているようだ。

 さらに指揮官の泰然自若とした雰囲気が、このチームの底知れなさを体現する。インターハイでは青森山田高(青森)と対戦できなかったことに触れ、「当然やりたかったです。やれるものならやりたかったですね。結果は厳しいとは思いますけど(笑)、そういうことを感じられるのはやっぱりトーナメントで勝ち上がったチームしかわからないので、そういう戦いをしたかったなとは思いますけどね」と話しながら、「決勝でちょっと考えていたことはあったんですけど、それを出す前に負けてしまったので、使えずじまいでした。まあ、選手権に取っておきます(笑)」と笑顔で続けた言葉が印象深い。何かをやりそうな空気感が、とにかく明るいチームの雰囲気とともに、このチームには常に漂っている。

 一言で言えば魅力的。冬の主役を虎視眈々と狙う星稜が、間違いなく面白い。

(取材・文 土屋雅史)
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