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FC東京U-18に追い付かれてのドローも、「11人が粘り強く戦える」市立船橋の明確な進歩と進化

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ゴール前の攻防も熾烈。お互いの意地がぶつかり合う

[10.3 プレミアリーグEAST第10節 市立船橋高 1-1 FC東京U-18 タカスポ]

 FC東京U-18を率いる中村忠監督の言葉が、この90分間を過不足なく表していた。「市船さんの諦めない姿勢というか、粘り強いサッカーというか、特別な選手がいるわけではないけど、11人が粘り強く戦える市船らしいサッカーで戦っていて、そこに見習うべきものと、我々もその上を行かなくてはいけない部分が見えたと思います」。

 課題と収穫の見え隠れするドロー決着。3日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第10節で市立船橋高(千葉)とFC東京U-18(東京)が対峙。市立船橋は前半43分にMF郡司璃来(1年)、FC東京U-18は後半35分にFW野澤零温(3年)と、両ストライカーが1点ずつを奪い合い、試合は1-1の引き分けという結果となった。

 ファーストシュートは前半6分の市立船橋。中央をドリブルで運んだMF武藤寛(3年)がそのまま放ったミドルは枠を外れるも、まずはフィニッシュへの強い意識を。一方のFC東京U-18も14分には右サイドからプレミア初出場のMF高橋安里(3年)が仕掛け、MF宮下菖悟(3年)が繋いだボールを、上がってきた左SB大迫蒼人(3年)が強烈な枠内シュート。ここは市立船橋のGKドゥーリー大河(2年)がキャッチしたものの、まずはお互いにチャンスを作り合う。

 市立船橋はプレミアで初めてドイスボランチを組んだMF北川礁(2年)とMF太田隼剛(1年)のレフティコンビが攻守に躍動。「自分が上がったら隼剛が下がる、隼剛が上がったら自分が下がる、という連携は上手く取れていて、そこが攻撃の始まりだということは意識しました」と北川も話したように、縦に速いアタックをこの2人からスタートさせる形で、ゲームリズムを掌握する。

 一方のFC東京U-18は、宮下と大迫で組んだ左サイドからの攻撃に活路を見い出す。27分にはやはり左サイドから大迫が粘り強くクロスまで持ち込み、FW生地慶多(2年)のシュートはゴールを破るも、クロスの時点でゴールラインを割っていたという判定でノーゴール。先制点には至らない。

 均衡が破れたのは43分。ハーフウェーライン付近でボールを引き出した北川は、「一瞬パスを出すか迷ったんですけど、相手のディフェンスラインも牽制していたので、ドリブルで運んで、最終的に空いた郡司を見て」浮き球でラインの裏へ。走った郡司は「トラップした時に自分が思っていた以上にボールが前に行っちゃって、相手が入ってきたんですけど、キーパーが出てきたのが見えたので、最後に足を伸ばそうと思って」マーカーとGKの間に足を伸ばすと、ボールはゴールネットへ吸い込まれる。U-16日本代表候補にも選出された1年生ストライカーが一仕事。市立船橋が1点のアドバンテージを得て、最初の45分間は終了した。

 後半もリードを得た市立船橋の攻勢が続く。「『もう前で奪おう』と。そういうような戦い方をすると、チャンスがより多く出てくるんじゃないかとスタッフとも話をしてきました」と波多秀吾監督も口にしたように、2トップのMF坪谷至祐(3年)と郡司、右SHの平良碧規(3年)、左SHの武藤と、この4枚の果敢なプレスが効果的。良い位置で奪って攻め切る意思統一が、流れを引き寄せる。

 後半7分には中央から坪谷がコースを狙うも、U-16日本代表候補にも選出されているFC東京U-18のGK小林将天(1年)が丁寧にキャッチ。8分にもドゥーリーのキックを武藤が収め、左に流れた郡司のシュートはクロスバーを越えたが好トライ。さらに16分にも郡司が左サイドを切り裂いて中央へ。右に持ち出した平良のシュートは大迫が懸命にブロックしたものの、「自分たちが優位に進められる時間が後半はありましたね」とは市立船橋のCB小笠原広将(3年)。追加点の匂いを漂わせる。

 だが、終盤に輝いたのは「チームのストライカーとして、点を獲って勝たないといけないというふうにピッチに入りました」という途中出場のナンバー18。35分。FC東京U-18は右SBの中野創介(3年)がサイドから中央を見据えると、ピンポイントクロスをグサリ。「元々フリーだったので、もう感覚的に相手が寄せてくることはないなと自分でも分かっていて、強く叩けば入るかなと」野澤が頭で叩いたボールは、ゴールネットへ到達する。トップチーム昇格が内定したエースの貴重な同点弾。スコアは振り出しに引き戻された。

 何とか勝ち越したい市立船橋も、39分には途中出場のMF大輪昂星(3年)が右からカットインしながら枠内シュートを放つも、小林がファインセーブ。40分にもエリア内へ粘って運び、最後は平良が反転しながら狙ったシュートは、わずかにゴール右へ。45分にはFC東京U-18も右サイドを1人で剥がした宮下がクロスを上げ切るも、FW熊田直紀(2年)のヘディングは枠を越えてしまう。

「ウチは相手の攻撃を1点に抑えて、数少ないチャンスを決めたという。リーグ戦なのでアウェイで勝ち点1を取れたのは大きいんじゃないですか。ただ、これじゃあ全然ダメだし、僕も納得が行かないし、たぶん選手もそうだと思います」(中村監督)「もちろんもっともっとやっていかないといけないことはたくさんあるんですけれども、今後に期待を持てるような試合だったんじゃないかなと思います」(波多監督)。やや対照的な手応えの中で、結果は1-1のドロー。両チームが勝ち点1を分け合った。

 市立船橋は戦い方が整理された印象がある。「リーグの中断期間が長くて、その間に鍛え直したいというところだったんですけれども、コロナの影響で活動がうまくできなくて、なかなか予定していた強化ができなかった中で、限られた時間の中で選手たちはよくここまで来たなという感じです」と話した波多監督は、具体的な戦い方についてもこう言及する。

「それこそ攻撃で主導権を握って、ボールを握って、崩して点数を獲れるチームではないなというところもあって、もう前で奪おうというところをスタッフとも話をして、そういうような戦い方の方がチャンスがより多く出てくるんじゃないかと。むしろそうしないと、もしかしたら彼らは点数を獲れないかもねというような話をしていたので、ゴールの匂いというのは前よりも出てきたかなと思いますね」。

 伝統のハードワークをこなし切るだけの人材は揃っている。そこをベースに置きながら、彼らの持ち得る個性を最大限に生かした戦い方に舵を切ったことで、ゴールへと向かう意識がより明確になったようだ。

 今シーズンのディフェンスラインを支えてきた小笠原も「攻撃は前よりは凄く運べるようになったかなと今日は思いましたね。ただロングボールを蹴るだけではなくて、ロングボールも混ぜつつ、縦パスを引き出して突破するシーンは少なからずあったと思うので、そこはちょっと手応えを感じています」とのこと。『前で奪う』というハッキリとした狙いが、他の攻撃のバリエーションにもポジティブな作用をもたらしていることも窺える。

 ここまで苦しいシーズンを送ってきているのは、選手たちが百も承知。それも踏まえた上で、これからやってくる選手権に着々と照準を合わせていく。「やっぱり一度評価が下がってしまうと、上げるのは凄く難しいと思うので、だからこそ今日みたいな試合は勝たなくてはいけないということは凄く感じていますね。これから勝ち続けるしかないと思います」(小笠原)。

 1人1人がそれぞれのパワーを持ち寄り、結集させてチームを盛り上げていく雰囲気も、間違いなくグループに充満している。本当の勝負はここから。市立船橋がこのままおとなしく黙っているはずがない。

(取材・文 土屋雅史)
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